2
「やっぱり、血に染まった花が一番綺麗ね」
アリシアが一本の花を手折った。まるで愛しむように優雅に手折られたリリスの花は、ミカの血を浴びて赤く染まっていた。
『私達が出会った時も、リリスの花が咲いていましたね。血のように鮮やかな赤色が綺麗でした』
「初めて会った時、赤いリリスの花が咲いてたって……」
「はい。雪のように真っ白な花びらが真っ赤な色に変わって散って逝った……あれは、とても美しい瞬間でしたね」
アリシアのさくらんぼみたいな唇がふっと弧を描いた。
…道理で。おかしいと思ったんだ。
リリスは、白い花しか咲かない。この国に生まれた者なら幼児ですら分かる話だ。
それなのに、花の種類に詳しいはずのアリシアが、俺でも知っている事を間違えるなんて。
「……魔王はお前だったんだな、アリシア!」
分かっていたはずだ。
魔族の獲物への執着は恐ろしい。それが力の強い者なら尚更に。
だから、魔王に遭遇したら気をつけろと己の口で言ったじゃないか……。
「やっと気づいたんですか……まったく、鈍ちんなんだから」
豊かな白銀の隙間からは、いつの間にか魔族の王の象徴たる黒い角が生えており、その容姿は同じ人間とはとても言い難かった。
「……何でだよ」
「何がですか?」
「お前のこと信じてたのに。何で俺をこんな目に合わせるんだァッ!」
俺の懇親の一撃はいとも簡単に弾かれた。
「何でって……あなたも好きでしょう? 世界で……いやこの地球上で一番綺麗な私が」
「……は?」
「私の為に壊れていくあなたを見ていると、私も嬉しくて美しく在れる」
「そんな……たかがそれだけの理由で俺を欺いたのか?!」
「はい」
「ふざけんな……っ?!」
金縛りに遭ったみたいに身体が動かなくなった。
「忘れましたか? 私は魔王。人間の
「……ひっ! 来るな! 俺の前に来るなっ!」
剣を持った手は自分の意思とは反対に、魔王とは別の存在を傷つけてしまう。
違う、違う、違う! 俺が戦わなきゃいけないのは……。守らなきゃいけないのは!
「違わない」
視界が塞がれた。恐ろしい程に冷たくて。でも、恐ろしい程に懐かしい手で。
「大丈夫。あなたもう、私無しでは生きられない」
耳元で悪魔の声が囁いた。逃れられないくらいに甘く、心地良い声で。
「さぁ、存分に世界を
俺はもう、
終
女神に捧ぐ鎮魂歌 夜中真昼-よなかまひる- @mahiru07
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