最終章 ラストステージ

1

「ここか。魔王の根城は」


 魔物を倒して、倒して、倒し続けて。ようやく俺たちは辿り着いた。


 魔物が巣食うおどろおどろしい場所を想像していたが、見かけは国王が住むような普通の城だった。


 ただ唯一意外だったのは、リリスの花が咲き乱れていたことだ。


「驚いたな。残虐残忍な魔王に人間と同じく花を愛でる趣味があるなんて」


 ……いや。案外、終焉の場所ラストステージにふさわしいかもしれない。


 俺たちの姿を視認した近衛兵が門を守るべく立ち塞がる。


「……すまない。けど、安心しろ。一瞬であの世に送ってやるから」


 俺は、抜刀した剣に魔力を込めた。その瞬間。


「やめて! アルベルト! これ以上人殺しはしないでっ」


 目の前に、オレンジの影が飛び出してきた。


「……ミカ」


 一瞬怯む俺の手を大丈夫だと言うようにアリシアが包む。


 俺はアリシアに頷いてみせた。大丈夫。もう決心は固まった。


「ミカ……ミカエラはもう死んだんだ。その姿で現れるな! もう二度と俺を惑わすな! 魔光線ライトニング!」


 それで完全に消したはずだった。


「離れてろっ! ミカエラ! こいつは、俺の相手だ」


 しかし、ミカエラの幻影はグラースの登場によって守られた。


「……久しいなグラース。まだ魔王の番犬っていたのかよ」

「それは、お前の方だ! 殺人鬼! 今日こそ、ここで葬ってやる」

「よく言う! 俺に負けっぱなしの癖に」


 ぶつかり合った2人の剣から火花が散った。


 さすが魔王の居城アジトなだけあって、敵の援護も膨大だ。


「グラース、待って! お願いだから、殺し合いはやめて」

「止めるな、ミカ! こいつは、何が何でも俺が始末しなければならん!」

「アルベルト! 私、ミカだよ! 本物のミカエラだよ! 私は生きてるから、その悪魔おんなに騙されてないで!」

「幻影如きが! アリシアを侮辱するなぁっ!」


 剣に最大の力を込めて閃光を放つ。


 今度こそ、おのが光で焼き尽くし、醜悪な悪夢を断ち切るために。


「かはっ……」


 直撃を受けたミカエラの腹から赤い雫が滴り落ちた。


「血……何で……ミカ? おい、ミカエラっ?!」


 ミカの身体ががくりと崩れる。


「……お願い、アルベルト。もう無用な殺戮はやめて」


 息も絶え絶えにミカは俺に縋りついて懇願した。


 どういう事だ?


 どうして、死んだはずのミカの身体は、こんなにも温かいんだ?


 どうして、生きている人間みたいな赤い血を流しているんだ。


 そんな風に俺の混乱は頂点を極めていると。

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