第三章 ミカエラ
1
ーーー逃げろ。逃げなければ、あいつが。
『ねぇ、アルベルト。どうして私を……』
俺は揺さぶられて目を覚ました。
「……アル」
「はっ!」
「大丈夫ですか? 随分
「ああ、だいじょ……いや。少しだけ、昔話を聞いてくれないか?」
それは、アリシアの勇者になると決めてから、いつか話さなければならないと思っていた事だった。
俺は勇者の父と、元神官の母の間に生まれた。
両親の血を受け継ぎ、魔法の素質のあった6歳の俺は、当然皆にちやほやされて育ち、大人になったら、俺がこの手で世界を救うんだと信じて疑わなかった。
「……なのに守れなかった。突然村に白銀の悪魔……魔王が現れて、ミカ……幼馴染が目の前で殺された」
「……」
「父さんは俺を庇って死んだ。父さんは、強くて、優しくて、村の皆に慕われてて、勇者にふさわしい人だった」
(……そう。俺なんかよりずっと)
「今でも皆が夢に出てくるんだ『どうして私たちを守ってくれなかったの?』って」
「……」
「な? だから、言ったろ? 俺は本当は、世界なんて救える器じゃない。お前のことも、また守れなかったら……って。それが……怖い」
血で紅く染まった花びらが目の前で散った光景が今でも忘れられない。
「分かりました。私と克服しましょう」
「え?」
「私を守れるかどうか不安なら、その不安を克服すれば良いのです」
「そんな簡単に……」
「大丈夫です。アルなら必ず乗り越えられます。何故なら、あなたは私の勇者なのですから」
「アリシア……」
全然答えにはなっていない。
けれど、彼女と一緒なら、本当に乗り越えられるかもしれない。不思議とそう思ってしまった。
次の日。
「きゃー! たーすーけーてー勇者様!」
俺は
「……アリシア、俺がこの前ドラゴンを退治したのを見てたよな?」
「こういうのは、小さなことからこつこつ自信を積み重ねていく事が大事なんです!」
「へぇへぇ」
「きゃー! アル、次はスライムに捕まりました! 勇者様、早く私を助けてくださいな〜〜」
「こら。ノリノリで助けを求めるな」
アリシアの言う克服の仕方は、人を助ける成功経験を積み重ねること。
それで俺は朝っぱらから、モンスター退治に駆り出されているってわけだ。
こんな作戦で本当に効果があるのか眉唾ものだが、アリシアが楽しそうだから由としよう。
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