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「……何か?」
腹立たしい衝動をどうにか抑えつけて、振り返る。
「お願いです! 私の勇者になって世界を救って下さい!」
「断る!」
俺ははっきりと否を示し、今度こそ、そこで銀髪の彼女と別れた……はずだった。
「……何で着いてくるんだよっ! 俺はさっきちゃんと断っただろ?!」
数十分後。俺は道の真ん中で叫んでいた。
「あなたが名前を教えてくれないからです。私の家は、恩人には愛を持って死ぬまで尽くすのが家訓なんです。それなのに、恩人の名前すら知らないなど、一族末代までの恥です」
「おぞましい家訓だな……アルベルト・ゲルシュタイン。ほら、教えたぞ。日が暮れない内に早く自分の家に帰れ」
「アルベルト様ですね……年齢は16歳ですか?」
「17だ」
「ふむふむ。17歳っと。じゃあ、えっと、今お付き合いされている
「残念ながら、いないな……って、おい! 何ちゃっかり質問を増やしてんだ」
「ありゃ? バレちゃいましたか……」
「まったく、油断ならない女だな」
「えへへ」
「褒めてない」
俺はどうしたものかと頭を抱えた。
嫌われるのは慣れているが、好意的な?眼差しを向けられるのは慣れていない。
これが男相手なら、遠慮せず力ずくで振り払えるのに。
「とにかく、これ以上は質問されても答えないし、勇者にもならないぞ!」
「どうしてですか! 世界を救うのが勇者の仕事でしょう?!」
「……俺は勇者じゃない。ただの冒険者だ」
「でも、さっき光魔法を使っていましたよね? 光魔法は勇者の資格がある者しか使えないはず」
彼女の言う通り、光魔法は勇者にしか使えない特別な魔法だ。
しかし、俺は勇者になるつもりなど毛頭ない。
「後生ですから、大人しく私の勇者様になってください」
「無理なものは無理だ」
「そんな! こんなに可愛い美少女が一生懸命頼んでいるんですよ? それを断るなんて……血も涙もないんですか、あなたは」
「さっきから喧嘩を売っているのか、お前は……」
「喧嘩なんか……私が頼れる
「いや、他にも居たろ」
「?」
「お前を狙っていた奴。アレも一応勇者だったろ」
実は、勇者は一人だけではない。
大抵世界の各国に一人はいて、どの国の勇者も競って魔王討伐に躍起になっている。
俺が先程無意識に光魔法を使ったのも、勇者である男に普通の魔法は通じないと本能で解っていたからかもしれない。
「魔王の呪縛を解いて正気に戻せば、俺よりも勇者にふさわしいんじゃないか? 正義感強そうな暑苦しい男だったし」
名案浮かんだりとばかりに見下ろせば、彼女は目尻に涙を浮かべていて、俺は思わずたじろいだ。
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