第一章 呪われた少女

1

「……っ、」


 背中に流れる冷たい汗の感覚に俺は飛び起きた。


 嫌な夢を見た。


(こいつの所為せいか……)


 腕と首に巻き付いていた蔦を剣で薙ぎ払う。


 取り付いた者に幻覚を見せて、生気を吸い取る魔草花だ。花弁があかいのは血も吸うからだ。


「……ちっ」


 俺は立ち上がり、


火炎弾フレイムバレット


 炎の魔法で残りの魔草花をきっちり焼き付くす。


「おっと、これは違うな」


 途中で別のものが混じっているのに気付き、慌てて手を止めた。


 メアリの花だ。


 魔草花と似たやや淡い赤色だが、魔力を持たない普通の花で、実は赤以外に色の種類も豊富だ。


 眼前に広がる花畑がメアリの花だけになったのを確認して、俺はさっさとその場を立ち去った。


 花が咲き誇る季節は苦手だ。どうしても、あの日を思い出すから。


 一本道を歩く。あちこちに咲いたメアリの花が風に吹かれて来客を歓迎している。


「死ねっ!」


 突如、のどかな町に似つかわしくない怒声が響いた。


 声のする方を見れば、一人の男が銀髪の少女に向かって剣を振り下ろそうとしていた。


 殺意の籠もった剣が怪しく光る。


魔光線ライトニング!』


 俺は咄嗟に剣士の攻撃を弾き、少女の前へ立った。


「何するんだ! 正気か?!」


 剣士が怒声を放ちながら、俺に向かって新たに攻撃を仕掛けてくる。


「それはこっちの台詞だ! あんたの方こそ、魔物の瘴気に当てられたか!?」


 俺も即座に剣で応戦した。


 少女を背中で庇いながらの戦いは初め苦戦したが、剣士は既に何処かで戦闘を終えたばかりだったらしく。


 傷だらけで魔力を激しく消耗しており、落ちこぼれの俺でも簡単にいなせた。


 歩が悪いと判断したらしい。


「……覚えてろよ!」


 剣士は負け犬の遠吠えのような捨て台詞を吐いて去っていった。


(……何だったんだ?)


 訝しく思いながらも、俺は剣を収めた。


「あの、助けてくれてありがとうございます!」


 感謝を述べながら、少女が頭を下げた。


 長い銀の髪が陶器のような白い肌に映える美しい少女だった。


「結構だ。俺はあんたを助けたつもりはない。だから、礼など不要だ。それじゃ」

「待って!」

「ぐえっ」


 去ろうとすると、羽織っていたマントのフード部分を凄まじい勢いで引っ張られてしまい、喉元が締まった。

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