第8話


 ルイスとの任務は、最初の方は僕の索敵癖が抜けなくて出遅れたり、AIやルイスとの息が合わなくてケンカしてたけど、何回か行くたびに改善はしてる気がする…多分。そもそも魔道具屋の店主さんにもメンテから武器を返してもらう時に言われたけど武器と長く接さなかったせいで、自分の魔力と馴染みずらくなってるらしく、それもうまく攻撃が当たらない理由らしい。こればっかりはルイスに手伝ってもらうってできないしね。


 でも3年も経ってルイスは隊長って刷り込みがされてるから、敬語が抜けなくて最初の方はかなり不服そうだった。僕もどうしたらいいかわかんないんだよね。久しぶりに組んだ時は敬語抜けたんだけど、今は何となく敬語になっちゃう。

 3年も敬語使ってたんだからそう簡単には抜けない。




 任務でも最近は、敵も近くまでは来るけどすぐに撤退していくことが多い。戦いたいかと言われたらそうじゃないけど、やっぱりルイスと実践を重ねたいのも事実。ルイスはそれを感づいてるのかわからないけど、任務で僕を前線に出してくれてて、それもそれでみんなからの視線が辛い…。そりゃそうだよね、今まで索敵班だった奴が前戦にいるんだもん。

 実践を積んでルイスの隣に堂々と立てるようにならないと、とは思うんだ。じゃないと僕はガルシアさんの代わりにはなれなし、ルイスのバディって名乗るのも申し訳ない。今は臨時だからみんな目をつむってくれてるんだと思うけど、なんで僕が選ばれたんだって噂されてることぐらい鈍感な僕でも知ってる。



「おいフィード、何いっちょ前に考え事なんてしてんだ?」

「いっちょ前にって。ちょっと任務について考えてた。」

「なんか不満でもあんのか?」

「いや、不満があるのは僕自身に対してだから。」

「そうか。何か手伝えることあったら言えよ。」

「うん。ありがとう。」



 言えよって言われても、僕のこの気持ちはルイスに言ってもどうにもならないし、僕自身が何とかしないといけないことぐらいわかってる。だから、こっそり訓練場に来て練習しているわけで。

 僕の相棒たちは3年も使ってなかったからかうまく使いこなせなくなってた。拗ねてるのかもしれないから、なじむまで何回でも使わないと。って武器が拗ねるって言い方変かな。



—武器よ

【敵をマークします。左から2、右から3来ます。】

—わかった。


パンパパンッ



【一体取り逃しています。右から来ます。5・4・3…。】



 あ、今撃った姿勢からだと手が真逆だ。これは、無理かな…。まぁ訓練室の敵なら攻撃されても問題ないし、無理そうだしいっか。


キィンッ


!?



「おい、なんで戦うこと諦めてんだよ!ここが戦場だったら死んでるんだぞ!?」

「ルイス…。」



 そこには鬼の形相とはこういうことかな、ってレベルの顔でルイスが立っていた。



「助けてくれてありがとう。」

「お前がちょこちょこ訓練してるのは知ってたけど、こんな訓練の仕方なら辞めろ。いくら訓練場の敵の攻撃力がほぼ0にできるとしても、訓練の意味がない。」

「うん。でも、僕はそれでも訓練しないといけない。じゃないと…」



 ルイスの隣に立てないって言おうと思ったけど、やめた。それを言ったらもっと怒られると思うし、逆に重荷に感じられても嫌だ。



「はぁ、お前が何考えてるかわからないけど今日はもうやめておけ。これ以上やっても意味ない。」

「…わかった。」



 こういう一人になりたい時に同じ家に帰るのってすごく嫌だな。僕の家は広くないから一人になるとしたらお風呂かトイレぐらいになっちゃうもんな…。どうにかして一人になって気持ちをリセットしたいのに、僕は嫌なことが立て続けに起こる傾向があるから、もっと嫌になってくる。そう考えてるからって言われたら終わりなんだけどね。



「—ド!!フィード聞いてんのか!?」

「え、あ、ごめんなさい。聞いてませんでした。」

「最近考え事してる事多くないか?」

「そんなこと、無いです。」

「そうか。せめて任務中は何があるかわかんないから集中してくれよ。」

「はい。」



 ダメだ。自分でもわかるレベルで集中できてない。こんなんじゃ、ガルシアさんの代わりになるどころか隊員としても失格だよ。



「で、さっきの話なんだが、ガルシアの怪我がそろそろ治るらしい。」

「そうなんですね。良かったです。」

「あぁ、治ると言ってもまだ任務には参加できないらしい。だから—」



 そっか、ガルシアさんが戻ってくるんだ。戻ってきたら僕はまた索敵に回されて、拠点からの索敵報告と書類整理しかしない隊員に戻る、のか。大丈夫、元の生活に戻るだけ。何も変わらないし、今の生活がおかしかっただけで、僕がポンコツ隊員なのには変わりない。



「ガルシアさん戻ってくるなら、あと少しの間よろしくね。」

「ん?あ、あぁ。」

「僕先に家に戻ってる。」



 あれ?涙が、止まらない…?


 悔しい、のかな?なんか気持ちがぐちゃぐちゃしててわからないや。


 僕だって前線でバディ組んで戦いたい、そう思ってユオ隊に入った。索敵は得意だから苦じゃないけど、拠点での書類整理はユオ隊じゃなくてもできる。前の隊長の命令だったし、使えないって言われてそうかもってその時は思ったからバディの解消を了承した。けど、いつまで経ってもバディを組みたい気持ちは変わらなかった。だからいっそのこと自分でも考えない様にこの気持ちに気づかないように蓋をして無視してたんだけど、何よりバディ解消をルイスも納得しているのが今になってすごく悔しい。だって、了承してるってことは、僕とバディ組んでいるのが少なからず嫌だったってことじゃん。最近はそういうこと考えない様にしてたから忘れてたけど、やっぱり僕よりガルシアさんとの方がいいよね。



…こんな事考えるなんて、どうかしてるけど、明日ルイスに僕とのバディ解消して欲しいいって言いに行こう。無責任だけど、こんな気持ちじゃ任務で前線になんて行けない。











 うーん。何度来てもこの隊長室の前に来ると緊張する。別に悪いことはしてないんだけどさ。


コンコンッ


「どうぞ」

「失礼します。」

「ん?フィードか、どうした?」

「ちょっと話したいことがあって…。」

「なんだ浮かない顔で、言ってみろ。」

「うん。えっとね、僕とのバディを解消して欲しいです。」

「…は?」

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