第5話


 声を聴く限り怒ってる…?ルイスがそんな声を張り上げるほど怒るなんてめったにないと思うんだけど、そんなやばい事したの?


「―…っ!!何でそんなこともできないんだよ。ここ最近で初めてだぞ。」


 すごい剣幕で怒ってるというよりも、威圧してるように見える…って相手女の子じゃん!てか、女の子でなにしたらこんなにルイス怒るんだよ。体にでも触ったのかな?いや、今までで触ったぐらいで怒ったところ見たことないけど。

 見た感じ訓練中かな…?確かにルイスが訓練を見てくれる事はあるけど、そんな怒る事無いけどな。もう少し近づいて様子見るか。ガルシアさんのこともあるし、ちょっと心配だしね。


「すみません。」

「はぁ、お前何でうちの隊なんかに入ったんだよ。人と戦えないってなんだよ。人じゃない物ならいいのか?なぁ。」

「いえ、あの、味方なのに戦うってことがまだできなくて。」

「じゃぁ、その味方が敵になったらどうすんだ?」

「あ、えっと…」


 これってさ、完全に八つ当たり…だよね?だって、あの子多分隊服的に今年入った子。一応索敵する人間として敵と間違えないように味方の容姿は覚えてるんだけど、まだあまり見たことないもんあの子。

 はーぁ、もー!今あんまりルイスと関わりたくないんだよ。僕みたいな底辺隊員が隊長と普通に話してたら隊長の威厳ってやつがなくなっちゃいそうだし、僕も厄介ごとにはかかわりたくない。何よりルイスが怒ってるときに近づきたくない!

 けど、今回は、しかたない。僕がへましてガルシアさんケガさせちゃったことが原因でルイスはピリピリしてるし、それになんせ女の子相手に威圧してるなんてありえない。


「隊長、ここで何してるんですか?」

「フィード…。いや、新入隊員の指導をしようと思ってな。」


 なんでルイスがどもってるのさ。やばいとでも思ったの?


「隊長直々に指導いただけるなら、僕もお願いしてもいいですか?」

「は?」

「戦闘訓練の指導してるんですよね?だったら僕も彼女たちと一緒にお願いしたいです。僕、隊長に指導してもらうのが夢だったんですよ。だめですか?」

「いや、お前もさっき戦闘で疲れてるだろ。いや、あー、もういい。今日はここまでにする。フィード、お前は俺と来い。」

「はい。」


 よかった。これでとりあえず、新入隊員の子たちは大丈夫かな。これが原因で辞めないといいけど。ルイスの圧って結構怖いからな…。まぁ辞めたらルイスを責めるだけだけどね。


「ここでいいか。ってお前何考えてるんだ!?」


 人気のない訓練場の裏に連れてかれて第一声がこれか。まぁ、予想通りのセリフかな。


「何って、それを言うならルイスの方でしょ。」

「は?」

「あれは、どう見ても八つ当たりだった。正当な理由があって怒っている様には見えなかったよ。むしろ責めるならあの子じゃなくて僕を責めるべきだと思うよ。」

「八つ当たりじゃないし、お前を責める理由がわからねぇ。」

「彼女たちの訓練を見てたわけじゃないけど、隊員に向かって”何でこの隊に入ったのか”って聞くのは隊長としてどうなの?」

「それは…」


 その質問がご法度なのは隊長であるルイスなら知ってて当然だし、それを口にしたルイスは正直はたから見て冷静じゃないのは確かなんだよね。僕たちユオ隊への入隊した人達は2種類の入り方のがあって、1つ目が適性がある無い問わず自分で希望した人。2つ目の方法は、学生時代にある健康検診とかで適正があるかもと判断された人。両方とも入隊の条件は同じなんだけど、2つ目の入隊方法は家族から推薦されることがあって、それで入隊すると家族に紹介料で国から結構なお金が入るから、それが目当てで入れられる人も少なくない。ちなみに、推薦されたら絶対に受けなきゃいけないし受けなかったらずっと国から追われることになる。受かって入隊しなくてもペナルティがあるらしい。なんでかは知らないけどね。だからこそ、入隊の理由は聞かないようにするのがここでは暗黙のルールみたいになってる。たまに知らずに聞く人もいるけど、この隊の隊長がそれを聞いちゃだめだよね。


「そもそも僕はガルシアさんのところに敵が向かっているってわかっていながら、すぐに向かわなかったんだよ?もしかしたら無傷で撤退できたかもしれないし、むしろ有利に事が運んでいたかもしれない。それなのに向かわなかった僕が隊長に怒られる意味はあると思うよ。」

「それは…!」

「それは、何?もし、それが怒れないなら彼女たちにご法度を破ってまで怒るのは違うんじゃない?」

「…そう、だな。すまん。」


 明らかに落ち込んじゃった。言いすぎちゃったかな。まぁまぁ、八つ当たりした罰ですよね!原因作ったのは僕だけど。


「はぁ、ルイスの気が動転するのはわかるし、八つ当たりしたくなるのはわかる。けど、新人の子にあれはない。後でちゃんと謝ってね?」

「あぁ。」

「はぁ、僕お腹すいたから食堂行ってごはん食べよ?その後、訓練場で僕の事ボコボコにしていいからさ。」

「じゃあフィードの奢りな。ボコボコにされたいってMか。」

「しょうがないから奢ってあげるけど、僕はMじゃない。」

「ふっ、でもありがとな。お前とまた普通に話せてよかった。」

「最後の方よく聞こえなかったんだけど、なに?」

「何でもない。ありがとうって言っただけだ。」

「お礼言われることしてないけど、どういたしまして。」


 いつもの調子に戻ってきたかな。

 その後、学食をたんまり奢らされてからさっきの新入隊員の子たちに謝りに行って、約束通り1on1で僕が完敗してルイスは満足そうに隊長室に帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る