第5話 一同は明かりを手にした
「これで全員か……」
ヤマトは揃ったメンバーを確認する。
コンビニアルバイター・ヤマト。
自称地球人のタコ太郎。
キュウリが好きなカワジロー。
パントマイム・山崎舞夢。
「この四人の共通点何⁉」
ヤマトがそう叫ぶのも無理はない。
今わかる共通点と言えば、全員誘拐されてここに閉じ込められたことのみである。
「どうしよう……一通り店内を見てみたが、暗くて調べられない場所も多いし……」
「……ん? 皆、お互いの鍋をよく見るタコ」
タコ太郎に言われ、ヤマトたちは互いが被っている鍋を見る。
よく見ると、それぞれの鍋の下、首元には、小さな南京錠がぶら下がっていた。
「うお⁉ 道理で外れねーわけだよ! ってか、何で鍋に南京錠がついているんだよ! 鍵かけたとしてもどうやって固定してるんだよ!」
「細かいことは後にするタコ! さっきレジスターに入ってた鍵があったタコ! もしかしたら鍋の鍵かもタコ!」
「お、おう! とりあえず、片っ端から鍵をさしこんで――」
ヤマトの鍵はタコ太郎が、他のメンバーに関してはヤマトが鍵を差し込む。
舞夢の番になった時、ガチャリ、と鍋についていた南京錠が開いた。
「おお! 舞夢の鍵が外れた!」
「鍋をとってみるタコ!」
二人の言葉に、コクン、と彼女は頷き、鍋を取り外す。
鍋から出てきたのは――
赤色灯だった。
「――パ」
パトランプ頭だあ……。
ヤマトは驚きのあまり、「パ」しか出てこなかった。
いや、別に赤色灯に人間の身体がついているわけではない。某映画上映前の警告に出てくる男とは違い、ちゃんと人間の顔である。
ただ、無表情で口元をきゅっと結ぶ舞夢――ほとんど十代後半と言っていい少女の頭には、煌々と光る赤色灯があった。
赤色灯がクルクルと周りながら辺りを照らす。周りは赤色で明るくなった。
「……ねえ、彼女連れて行ったら、暗くて見えなかったところも見えるんじゃないタコ?」
「そうだな……」
こうして、舞夢だけが鍋から解放されることになった結果、明かりが見えるようになった。
「部屋が真っ赤に染まるから、色はわかんねえなあ……」
「でも、これだと色んなところが見えるタコ。もしかすると、他にも鍵が隠されているかもしれないから、探すタコ」
こうして、ヤマトたちが再びあちこちを回った結果、二つの鍵を発見する。タコ太郎とカワジローの分の鍵だ。
「かたじけない。おかげで窮屈な鍋から解放された」
「助かったタコ! あまりの窮屈さに、頭が変形するところだったタコ~」
「……まあ、よかったな」
予想通りと言うか、カワジローの頭の上には皿がついており、タコ太郎はどう見てもタコにしか見えない。
だが、赤色灯の少女を見た後としては、いささかインパクトにかけていた。
それはさておき。
ホールを再び調べてみると、メニュー表にはスパゲッティがずらりと並んでいた。
「どうやらここは、パスタ専門店みたいタコね」
「え? いや、スパゲッティだろ」
「何令和の子がダサい名称使ってるんタコか。スパゲッティなんて死語タコ」
「え、呼び方ひとつでなんかすごいディスられたんだけど⁉」
とここで、舞夢が挙手する。
全員が舞夢の方に視線を向けた途端、舞夢は再びパントマイムをし始めた。
ふむ、とカワジロー。
「パスタは小麦粉を練った生地全般のことだそうだ。その中の一つがスパゲッティなんだそうだ」
「え、そなのタコ⁉」
「スパゲッティはひも状の麺類だけを指定するんだよ。だからマカロニも『パスタ』」
以前、パスタとスパゲッティの違いを検索したことがあるヤマトに、カワジローが付け足す。
「実はパンやピザも『パスタ』になるのだ、と舞夢殿は言っている」
「え、それは知らんかった」と素直なヤマト。「何時からスパゲッティのことをパスタと言い始めたんだ?」
「スパゲッティのことをパスタと言うようになったのは、バブル期から平成にかけて、イタリアンブームが起きた頃のようだ。
ちなみに、スパゲッティをダサいと言うのは、その世代ぐらいだそうだ」
「なるほど、バブル期……」
二人の言葉に、タコ太郎は慌てて否定する。
「ち、ちちちちがうタコ! 僕は何時だって流行を追いかける地球人タコ!」
(そう言えば、1999年って確か、火星人が地球を滅ぼす予言がされてなかったっけ……)
なるほど、とヤマトはタコ太郎の様子を見て納得した。バブルというより、90年代が青春なのだろう。
そんなこんなで、舞夢のお陰で様々な情報を得ることができたヤマトたち。
だがあちこちを探しても、ヤマトの鍵は見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます