第2話 ホールへ行く
倉庫を出ると、両脇にトイレが二つ、そして恐らく、厨房とホールが見えた。
「どうやらここは飲食店のようだな……」
しかし、辺りは真っ暗までとは言わないが暗く、細やかなものが見えない。
「とりあえずまずはホールだ。とは言え、何とか何があるのかわかるぐらいだな……」
ホールには厨房の様子が見えるカウンター席と、3つのテーブル席がある。カウンター席には棚にボトルが並べられている。色はわからないが、恐らくはワインだろう。
「くそ、せめてスマホがあれば、ライト代わりに使えるんだけどな」
どうやら誘拐犯に連れ去られた時、持ち物はすべて没収されたようだった。
テーブル席を見る。テーブルクロスがひかれているらしく、その上にはメニュー表らしきもの、ナイフやフォーク、スプーンといったカトラリーが置いてあった。
「ここは洋食屋か?」
すぐに店内の入り口──この場合出口──を発見する。カギはかかっている上、シャッターも下りていた。
「やっぱり閉まっているか」
出入り口や窓から月明かりが入ることで、完全な暗闇にはなっていないのが幸いだ。
「ガラス壊せば出て行けるか? いや弁償しろって言われても困るしなあ……うん?」
出入り口のそばには、レジスターが置いてあった。
「コンビニ店員の俺は久しく見ないタイプの、アナログなレジスターだな」
「開けてみるタコ!」
「は?」
ヤマトが反応するより前に、タコ太郎はレジスターの中身をひっくり返す。
「うおおおおおい! 何泥棒みたいなことしてんだああああ!」
「よく見るタコ。このレジスター、鍵がさしっぱなしダコ」
「え? ……あ、ホントだ。この店、不用心すぎやしないか?」
ヤマトの言葉に、ハア、とタコ太郎はため息をつく。
「ヤマト。僕たちは攫われたのタコよ? 不用心ではなく、意図的な考えで鍵がさしっぱなしと考えるのが妥当タコ」
「は? それはどういう」
レジスターの中には、小さな鍵が入っていた。
「鍵?」
「バックヤードにあったパソコン、見たタコか?」
「いや……ちょっと動かしてみたけど、普通に電源落ちているだけだったしな。廊下の電気もついてないし、ブレーカーが落ちてるんだろ」
ヤマトの言葉に、「違うタコ」とタコ太郎は否定する。
「あれは、デスクトップパソコン。ディスプレイ、つまり画面の電源は落ちていても、パソコン本体は動いていたタコ」
「え⁉」
「本体がタワー型で机の下にあったから、ランプがついていたことに気付いてなかったタコな。
デスクトップパソコンはノートパソコンと違ってバッテリーが装備されていないから、電源が落ちればパソコンも落ちるダコ。つまりこの店のブレーカーは落ちていない。更にこれ見よがしにレジスターの中に鍵が入っていたタコ。まるでフリーゲームの脱出ゲームのように。
これは間違いなく、監視カメラか何かで、僕たちの行動を見ている奴がいるタコ」
(デスクトップパソコンってなんだ……? 俺パソコンは詳しくないんだけどな。タブレットだし)
ヤマトは疑問に思ったが、「知らない」というのが恥ずかしかったため、したり顔で「なるほど」とうなずいた。
「見てる奴って、俺たちを誘拐した奴か? 俺たちが四苦八苦している様子を、盗み見してるってことか? 何でそんな趣味の悪いことを?」
「そこまではわからないタコ。けど、とりあえずこの鍵が何かを探らないといけないタコ。ひとまず他のところも調べてみるタコ」
こうして、二人はホールを後にした。
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