登場人物全員人外で鍋被って脱出する狂気のホラーゲーム
肥前ロンズ
第1話 導入
目が覚めると、そこは暗かった。
明暗的にもそうだが、どうも視界を遮られているように見える。
しかも、なにやら硬いものが首や顔を圧迫していた。
「……こ、ここはどこだ?」
自分の吐いた息が顔に当たる。
狭い空間に閉じ込められている? いや、狭いのは恐らく己の顔周りのみ。
ここはどこかの部屋のようだ。とは言え、彼にはとんと記憶がない。
遮られた視界の中、何とか部屋を見渡す。
どこかの店のバックヤードだろうか。面白みのないロッカーが三つほど横に並んでおり、その隣には、制服を着た後身だしなみを確かめるためなのか、人の身長ほどある姿見があった。
「な……!」
そこで彼が目にしたのは――
「――――俺の顔が! 鍋になっているッ⁉」
鍋は鍋でも、両手鍋である。あと寸胴。おそらく素材はステンレス。
その鍋が、自分の顔になっている姿だった。
「なわけねえだろ‼ 鍋被らされてるだけに決まってんじゃねえか! うおッ!」
とっさに一人ツッコミをし、首を手に、否、鍋の取っ手に掛ける。それでも鍋は外れない。
「うおおー‼ なんでだ! 何で目が覚めたら身体が、いや顔が鍋になってるんだー!」とのたうち回りひとしきり叫んだあと、膝をついて床に手を付ける。
「お、落ち着け……どう見ても、ここは俺が知らない場所だ」
頭、いや鍋を抱える彼は、一つずつ思い出す。
あれはブラック店長のずさんなスケジュールのせいで、いれてもいないシフトを無理やり入れさせられたのがきっかけだった。
「深夜バイトが終わって帰宅しようとしたことまでは覚えている……」
辺りを見渡してみよう。バイト先のコンビニのバックヤードにしては広すぎで、物も少ない。窓から月光がさしこむおかげで、薄暗くも何のものがあるかわかる。段ボールの箱に、ロッカーに、机にパソコンがあるのみ。触ってみたが、電源が落ちているようだ。
ドア付近を調べると、そばにあった部屋の電気のスイッチを発見。しかし、明かりはつかない。
彼が知るバックヤードと言えば、カップ麺などの商品がぎっしり工具棚に押し詰めて、段ボールいっぱいに廃棄スレスレのお茶のペットボトルなどが詰め込まれている。上も下も窮屈な場所だ。
つまりここはバイト先ではない。そこで意識を失っていたということは……。
「俺は連れ去られたってことかー⁉」
独り言が大きい彼のせいだろうか。
彼が状況を理解し、叫んだ瞬間、
ドンドンッ!!!
「うおっ⁉」
激しくロッカーが音を立てて揺れる。
ドンドン‼ ドンドン‼
ドンドン‼ ドンドン‼
明らかに、ロッカーの中に誰かがいるのだろう。
三つあるうち、左端にあったロッカーは、
まるでボールが激しく弾むかのように揺れていた。
「いや主張激しいなオイ‼」
突然の大きな音にビビった主人公だったが、まるで太鼓のようにリズミカルに叩かれるロッカーの音に、一瞬よぎった恐怖が吹き飛んでしまう。
「あ、開けますよー。……開けていいんだよな?」
誰に確かめるわけでもなく、主人公は思いっきりロッカーを開ける。
ロッカーの中から、閉じ込められていたであろう人物は、ピョンピョンと跳ねながら出てきた。
その正体は。
「開けてくれてありがとうタコ! 僕の名前はタコ太郎タコ! よろしくタコ‼」
――鍋を被ったタコだった。
「いや人間じゃねえのかよ‼」
「むっ。失礼タコ。僕は誰からどうみても立派な地球人タコ」
「いや自分をそんな風に名乗る奴、普通いねえから! あと頭が鍋になってる時点でおかしいし!」
「自分だって鍋じゃないかタコ」
「触手が鍋からはみ出てんだよ!」
うねうねと動くタコ太郎の触手に、主人公の頭は沸騰しそうだ。鍋だけに。
「そういう君の名前は? 他人が名乗ったら自分も名乗るのが地球人の礼儀タコ!」
「そ、そりゃそうだな。俺の名前はヤマト」
そこまで長くも短くもない人生、まさかタコに礼儀を教わるとは思わなかったヤマトである。
「どうもバイトの帰り道にさらわれたみたいだが、それ以降記憶がない。アンタは?」
「うーん、僕も覚えてないタコ。気づいたらロッカーに押し込められていたタコ」
「まあそうか……」
しかし、ごく平凡な俺と、タコを攫ってくるとは、犯人の目的は何なんだ、と考えこむヤマト。
しかし、「攫われる前は、ちょっと不思議なチップを作っていただけなんダコ~」と言うタコ太郎に、ヤマトは嫌な予感がした。
「ちょっと待て。チップってなんだ」
「大丈夫大丈夫。身体には影響がないダコ。……多分」
(そう言えばやたらコイツ『地球人』であることを強調してたな! そうだな広い意味でタコも『地球人』だよな! 人間じゃねえけど‼)
「宇宙人との遭遇」という未知の恐怖ゆえに、心の中でツッコミまくるヤマト。
そのヤマトの心情を知らないタコ太郎は、そういえば、と言った。
「ここに来るまでの記憶はないタコ。けど、ここに来た時、他にも連れ去られた人たちが2人いたような気がするタコ」
「なに⁉ ……それは本当に『人』なのか?」
失言レベルの疑問を口にするヤマト。
とは言え、この意味不明な状況を突破するためにも、人数は多い方がいい。
「よし! 状況を把握しつつ、その2人を探すぞ!」
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