2,「ヒト」

「どうして、ここに……」


彼の呟きを聞かず、照士はこいつ、何言ってるんだ? と首を傾げていた。


そこへ、強い風が吹いた。


「うわっ」


照士は背中に風が吹きつけて、よろけた。

まるで背中を押されて喧嘩を売られたようだった。

不良同士だとよくあることで、照士はいつもの癖で振り返った。


「んなっ!?」


そこには、得体のしれない半透明な「ヒト」が漂っていた。

あやふやな輪郭は、かろうじて人の形をしている。

その「ヒト」は照士を追って来た。

照士が後ずさったところへ、「ヒト」と照士の間に先ほどの茶髪の男が割って入った。


彼はどこから出したのか木製のバットを持ち、それで「ヒト」を殴ると、「ヒト」は形を保てなくなったようで霧散した。


「大丈夫?」


男が照士を振り返って言った。


「今のは一体……」


そこへ、もう一体「ヒト」がやって来た。

同じ手をくらってなるものか。照士は果敢に「ヒト」に殴りかかっていく。

喧嘩には覚えがある。

バットで殴って霧散したところを見ると、幽霊とかただの霧みたいな、実態の無さそうなものだった。

照士は自分にも「ソレ」を蹴散らすことが出来ると思っていた。


「あっ、ちょっと!」


だから、そんな男の静止の声を無視した。


しかし、照士の拳は「ソレ」をすり抜けた。

ならばと回し蹴りを繰り出すと、「ソレ」は一度上下二つに割れたが、すぐに元に戻ってしまった。


照士には手ごたえも無く、途方に暮れる。

――なんで、上手くいかないんだ!?


「むりむり!」


そう言って男がまた、バットを振りかざして助けてくれた。

霧散した「ヒト」は元に戻る事は無い。


「僕たちの道具でしか、それは祓えないよ」

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