第22話 青行燈の鋏 狐面の男(三)

 五宮神社の祭神の一柱・常磐はいつも以上にけわしい目で、正面に座る卯月をじろりと見た。

「竜胆から聞いたが――魁が来ているようだな」

「竜胆様は、彼をご存知でなかったと思いますが」

「確かに知らぬ。だが、紫紺の髪に青い目の妖がいたと聞いた。そやつは――魁ではないのか。魁は――お前が殺したのではなかったのか」

「始末はつけました」

 常磐の目つきが鋭くなる。

「殺しては、おらぬということか」

「命があろうとなかろうと、一度妖に堕ち、そのうえ力を失った彼は、五宮の一族としては死んでいるのも同じことです。それに、彼は木蘭様の前に現れることはありません。それで、よろしいでしょう」

 失礼します、と座を立つ。

 常磐の部屋を出たとき、卯月、と声がかかった。

 怪訝な顔を押し隠してふりかえる。

「木蘭様。ご無沙汰をしております」

 にこやかに微笑む卯月を、木蘭が見かえす。

 しかしいつもなら鋭く――ときには嫌悪の色さえ浮かべて――卯月を睨む木蘭の青い目には、普段の鋭さはなかった。

「あの子が――魁が――生きていると言うたかえ」

 卯月の面から、表情が消える。

「死んでいます」

「しかし――」

「これ以上は言わずともおわかりでしょう。瘴気を受けて妖となった時点で、魁はもはや貴方の子ではないのです」

 卯月の言葉は冷たい。

 呆然と立ち尽くす木蘭をよそに、卯月はすたすたと歩いていった。


 祭囃子も途絶えたころ、卯月神社の境内に続く石段を、卯月が登っていたときだった。

「卯月、もう戻ってきたのか? 神使はどうした? 連れて行ったんじゃなかったのか?」

 ちょうど下りてきた魁が、狐面の奥で目を丸くする。

「私はひとりで外出していましたが……私の神使がどうしたと言うのです?」

 魁曰く、彼が神社に来る少し前、五宮神社から戻ってきた卯月が、急ぎの用がある、と樂を呼び出し、神社を出ていったらしい。

 神社にいた神使に確かめると、確かに樂が荒神山に向かうという卯月に呼ばれて神社を出ていった、と見ていたらしい幾人かが答えた。

 ぎり、と魁が歯を噛む。

「朽名だ。まさか神使を騙せるようになっていたとは……」

 ふむ、と卯月が目を閉じ、繋がりをたどる。

「まだ、生きてはいるようですね」

「なら急いで山に――」

「ええ。しかしもう少し、手を借りることにいたしましょう」

 懐から出した鳥型の紙に、卯月が息を吹きかける。

 鳥はたちまち白い鳥に変じ、夜空を飛んでいく。

「さて、待っているわけにはいきませんから、先に山へ行きましょうか」

 いつのまにか、薙刀を手にした卯月は魁に声をかける。

 神使に留守を頼み、卯月は魁をともなって荒神山へと向かっていった。

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