二月の縁結び
第14話 二月の縁結び 発端
柏手の音が響く。
「季節柄、縁結びの参詣が多いね」
参詣者を見ながら、朱華がのんびりとした調子でつぶやく。それを聞いていた竜胆が黙って小さくうなずいた。
本殿に向かって手を合わせ、一心に何かを祈念している少女をしばらく見つめ、朱華は控えていた神使に、千草を呼んでおいで、と言いつけた。
隣に座って茶を飲んでいた卯月神社の祭神は、珍しくはっきりと困った顔をした。
「それで、朱華様はなんと?」
「……縁結びをしてみなさい、と」
千草は小さくため息をついた。
「あの、千草様。ここは縁切り神社ですし、そういう話なら月葉様にしたほうがいいと思うのですが……」
「知っています。月葉神社にはさっき行ってきましたが、当の月葉はいませんでした。葛に聞いたら見回りだと言っていましたが……おおかた、また抜け出したのでしょうね。葛がぷりぷりしていましたから」
「で、なぜ、ここに?」
「いくらここが縁切り神社でも、貴方自身は何か知っていないかと思ったものですから」
「そう言われましても……『卯月』はもともと、身寄りのない者がなることが多かったのですよ。先々代は妻子がありましたけれど、それも好きあって添った、というわけではなかったですからね。あれはあれで家どうしの思惑があったわけですし」
それにしても、と卯月が続ける。
「千草様が、縁結びが苦手とは驚きました」
「仕方がないじゃないですか。ひとの気持ちには“答え”がないんですもの」
答えがあるものなら、あるいはするべきことがわかっていることなら、千草は”ちゃんと”やり遂げられる。
しかし縁結びのように、答えのないものはすこぶる苦手だった。
「それに人の気持ちは、無理に捻じ曲げるわけにはいかないでしょう。そんなことをしては、かならずどこかで綻びが出る。それに、人間は自分でどうにかすべきなのです。恋愛も、課題も。私達が手を出せることではありません」
いつもの口癖で結びつつ、千草は再び物憂げにため息をついた。
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