第1章ー1 地獄は満員怨霊!
結論から言うと、現代の地獄(日本支部)は限界を迎えつつある。
そんな話を地獄の王の
まだ日のあがっていない時間から、オレたち「
朝の支度の終わりに肩まである長い赤毛を結い上げていると、ふすま越しに間延びした声が聞こえてきた。相変わらず、気の抜ける声である。
「コウセツ~準備できた~?」
ああ、と短く返事をしてふすまを開け放つと、目に隈をこしらえた栗毛の青年が立っていた。とくにおかしくもないのに、隻眼の赤い瞳をゆがめてにやにやと笑っている同僚の様子は四日目にもなると見慣れてきた。たぶん、こいつの癖なのだろう。悪意はあまり感じられない。
「待たせたな、モドキ。今日一番の仕事はなんだ?」
「新しく来た亡者に、
モドキは自身の頭に着けられている黄色い輪――
「じゃあ、行くか」
建付けの悪い扉をこじ開けると、ふと頭上に影が落ちてきた。気づいたときにはもうその物体と衝突し、後ろにひっくり返ってしりもちをついていた。
「いてっ!」
起き上がってみると、オレの上に乗っているのは亡者の男であった。仰向けにしてみると血を吐いて白目をむいていた。モドキが大丈夫~? と後ろから声をかけている。
――ああ、またか。
視線のすぐ先には血だらけの亡者の山ができている。おそらくあの山頂から落下してきたのだろう。亡者を足でどかしてから、山頂にむけて放り投げる。この
これが、まさしく地獄の問題の一つである。なんとかしなくてはこちらの身がもたない。思わずため息を吐いた。
「職場が地獄内にあるのがまだ慣れねえ……」
「そう?
気に留めていない様子のモドキは、古びた廃屋にぶら下がっている木板をひっくり返していた。ボロボロの板には墨で「
***
長い坂を駆け下りていくと、大きな門の前に到着した。この大きな門が、地獄の入り口にあたる地獄門である。亡者に恐怖と後悔を思い起こすようにおぞましく作られているらしく、立派な鬼や妖怪たちが精巧に彫られているのが見える。見物してる間もなく、すぐに
「ようやく来たな、
「
通常、
「どうせ、皆なにかしら罪はあるんだ。罪が重たければ後から追加すればいいんだよ。大体はこの一枚の
獄卒はそういってオレを睨むと、すぐに踵を返していった。少し離れたところで他の獄卒たちもオレたちを見て囁いている。
――ほら、閻魔様が
――いくら働き手不足といってもあいつはね……。
もう慣れたことなので、気に留めずに箱を確認する。俺が
「コウセツ、大丈夫~?」
「ああ。オレは何も覚えてねえからなあ、気にしようがねえよ。」
オレの記憶はさかのぼっても三日前からしかない。それよりも前のことなど、気にするだけ無駄だろう。
箱を持って地獄門の外にでると、すでに大勢の亡者が詰めかけており、列の終わりが見えないほどだった。遠くのほうでは、今朝見たのと同じように、整列できなかった亡者達を山のように積み重ねているのが見えていた。
「うわ、何人いるんだこれ……」
「今の日本の人口は一億人を超えていて、一日に出る亡者の数は三千五百人以上って獄卒が言ってたよ~。」
「一日にそんなにくるのかよ! そりゃあ、あの亡者の山が解消されないわけだ……」
うんざりと肩を落とす。この数の亡者の一人一人に
これが亡者のあふれかえった、現代の地獄(日本支部)の姿そのものである。急激に現世の人口が増えたことで起きた、地獄の人口爆発に対応できる
――それはもう、亡者の手も借りたいぐらいに。
亡者が飽和状態になりつつあるこの地獄の苦肉の策できたのが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます