ユーリ
テップが生まれた日の夜。
皆が研究所の出入り口前でざわざわしていたんです。
「何かあったのか?」と同僚の一人に訊いてみると、彼は無言で壁を指差して。
ソレを見て、俺は絶句しました。
<白銀の魔女の目印>が大きく描かれていたんです。
……嗚呼、先輩は北の大陸から移住してきたから詳しくは知らないんですね。
この国には、神々が世界を創造した時代から生き続けている“白銀の魔女”がいる、という言い伝えがあって。
彼女は何かの分野で才能を開花させた女性を見つけては、その女性の家の扉に目印をつけて一度去るんです。
目をつけられた女性は彼女に“魔女”だと認められた者として、目印に気付いた女性の家族や恋人、友人など近しい人が、白銀の魔女が棲むと言われている城に女性を連れて行かなければなりません。
ええ、北の森に建つあの古城です。
もし連れて行かなかったときは白銀の魔女が迎えに来ると他国では言われているようですが。
この国の文献には“魔女”を連れてこなかった人たちは皆殺されてしまうと……。
研究所の皆は、先輩が魔女だと思いました。
俺も、ここ最近の研究成果やテップのことがあるのでそうなのではないかと。
所長が代表して先輩を古城に連れて行くと言い出して、何人かで止めたんですよ?
でも「ここにいる皆が殺されるかもしれない」って所長が騒いで、そのうち俺以外の皆は先輩を白銀の魔女に差し出そうと言い出した……。
……このタイミングで言うのは、ロマンの欠片もないんですが。
俺は、ずっと前から貴女のことを愛していました。
貴女がここに来る前に書かれた論文を学生時代に読んで、可笑しな話ですが顔も知らない貴女に一目惚れしてしまって。
研究所で初めて会った日は、俺の想像以上の女性でもっと好きになりました。
貴女の研究室に入り弟子入りしたのは、傍で貴女を見ていたかった。
許されるなら、密かに想い続けていたかったからです。
……だから、正直こんなことで俺の願いを壊されてたまるかって思ったんです。
え?はい、こんなこと、ですよ。俺にとっては。
先輩が魔女になってしまっても、先輩は先輩ですから。
……と、話が逸れましたね。
まぁ、それで……俺は護身用の銃とナイフで研究員たちを一人ずつ殺していきました。
目印がありますし、街の人に万が一死体を見られても誰も俺がやったなんて思わないでしょう。
ここ一ヵ月程先輩を外に出さないようにしていたのは、まだ処理し終えていない死体を見られたくなかったから、というのと。
先輩が魔女と化してしまったことを、先輩に知られたくなかったからです。
だって、もし知ってしまったら先輩は運命を受け入れて城に行ってしまう……でしょう?
あとは白銀の魔女から先輩を守るため……いえ、これは建前ですね。
先輩を、魔女に取られたくなかったんです。
この研究所の防犯システムを使えばいくら魔女といえどそう簡単には入り込めないでしょうから、このまま先輩を閉じ込めてしまおうかと。
これが、俺が先輩に隠していた全てです。
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