後半

第22話 部下をこき使いつつも、スープ作りに邁進して料理の腕前を上げるなど


「がはは! 笑いが止まらんな!」


 件の襲撃事件から数日が経って。

 俺は飛躍的に快適になった今の環境に、ついついにやけずにいられなかった。


(だってよー、こりゃ笑わずにはいられんぜ? 魔物を搔き集めて、倉庫にどんどん詰め込んでいって、後の素材解体は部下に丸投げ! こいつはいいや、何もしなくていいからな!)


 何が最高かというと、素材の解体の手間がかからなくなったというところだ。


 放血の手間。泥やら汚れを洗い流す手間。内臓を取り出す手間。頭や尻尾、手足を切り落として外殻や皮を剥ぐ手間。肉を切り分けて骨を抜く手間。


 何せ、重さが30ポンド15kgぐらいあるような魔物をたくさん解体するのだ。それも頑丈で引き剝がすのに難儀するような外殻や皮をである。これが重労働でなくて何というのか。


(いやあ、これはいい! こりゃあ騎士ナイト従者エスクワイア見習いペイジを魔物討伐に連れ回す理由もわかっちまうな!)


 こう見えて俺は、百人長ケントゥリオの地位を得ているくせに、実地研修や警護任務ぐらいでしか魔物狩りをしたことがない。魔物大規模討伐などで長期遠征に出かけたりしたことがないのだ。

 だから、魔物の解体作業のためにこき使われた経験がそんなにない。魔物解体を人に任せるのがこんなに快適だとは思いもよらなかった。


 毎日のように何匹も魔物を捕獲できる現状、この時間効率改善は大きい。

 空いた余暇を使って、剣の鍛錬、道具の手入れ、その他色んな勉強に打ち込むことができる。素敵なことだ。


「おいおいお前ら! 解体した素材の質が悪かったらわかってるだろうな!?」


 部下たちになった二十人の悪党どもをどやしつける。

 舌打ちやぼやきが聞こえてくるが気にしない。この島は実力が全てだ。奴らが、俺には到底敵いっこない、と思ってくれている分には問題ない。あんな人数差でも勝てないって分かったのだから、逆らっても無駄だと骨身に叩き込まれただろう。


「安心しろよ! きちんと上等な仕事をしてくれるんなら、お前らに旨いメシを振舞ってやるし、酒もじゃんじゃん流してやるからよ!」


「……ちっ」


 士気が低くても問題ない。

 肉と酒があれば十分。


 商人のおっさんから塩を取り寄せて、魔物の肉をガンガン焼いたり炊いたりして、こんがり片面焼きしたパンで挟んで食えば大体旨い。

 で、根菜類も、食用茸も、香草も、塩でごった煮にしてスープにする。

 島の住民の生活を見る限り、これでも結構上等な食事だと思う。


(とはいえ人を大量に雇っている分、賃金をどうやって確保するかという問題が付きまとうが……。まあ、旨い食事の支給、衣服や日用品の支給、仕事道具の貸与、というように現物で何とか誤魔化せるうちは誤魔化せばいいや)


 無論、賃金魔石はきちんと払うつもりである。

 こいつらを一生奴隷のようにこき使うというのも考えたが、あんまり反逆心を育ててもよくない。俺はのほほんとこの島でゆっくり過ごしたいのである。不要な反感を買うような真似は、極力避けたい。

 素材解体を手伝ってくれた手間賃分、しっかりそれに見合うだけの金を用意するべきなのだ。


(……そういえば、素材を大量に買うって約束してくれた、あの商人のエイペックのおっさん、どうやって魔石を稼いでるんだろう?)


 別に俺は、迷宮の魔物から魔石を大量に集められるから問題はない。だが素材を買い受けているあのおっさんは、問題ないのだろうか。






 ◇◇◇






 kenのルーン文字を彫った魔石を使って、がんがんに魔物の骨を炊く。

 骨炊きスープは、コクと旨みが濃縮されている。最近気づいたが、これを使えばどんな煮物も大抵美味しく仕上がる。


 解体の途中で発生した、イノシシの魔物やシカの魔物の背骨を丹念に洗う。

 そして、綺麗にした背骨と一緒に、生姜や大蒜ニンニクなどの臭み消し、ついでに香草を入れて六時間煮込む。作業自体は難しくないが、灰汁を取り続ける必要がある。


「獣臭さは結構きついが……まあ野郎どもに振舞うメシだから、こんなものでいいよな」


 灰汁が多く残るとスープの乳化が弱くなったり、雑味が残ってしまう。その上、灰汁がスープに溶け込むと不快な臭いを残すので、丁寧な灰汁取りが大事になってくる。


 長時間ぼこぼこ煮立てて、髄の溶け出した真っ白なスープを取るのが『白湯』。

 できるだけ煮立てず、沸騰させず、静かにじっくりと澄んだスープをとるのが『清湯』。

 この二種類のスープを、備蓄を切らさないように作り続けるのが、最近の俺の仕事であった。


「煮込んだ後の骨ガラはいい肥料になると聞くが……塩害も酷いらしいし、虫も湧くらしいからな」


 逆に、強烈な獣臭が魔物を引き寄せる餌になっている。

 旨い料理を作って、そのゴミを迷宮に捨てるだけで魔物寄せにもなるのだから効率もいい。


(……ついでに、料理を作る人も雇うかな)






 ―――――――――――――――

 ■アルバ・セコールジュカ Lv.8→9

【ジョブクラス】

 商人Lv.2

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成2」「直感12」「並列思考1」「集中1」

「調薬1」「料理1 new」

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