第21話 悪党どもをとっちめて部下にし、さらに獣人の娘を有効活用して魔物を引き寄せることを考えるなど


《空中床》が使える状態で、俺が凡百の野盗なんかに負けるはずがない。狼の魔物どもを蹴散らすのも訳ない話。

 その後流れるような速さで、まだこの場から逃げ出そうとしない一部の魔物にとどめを刺していき、襲われている野盗たちも救ったという活躍ぶり。

 俺を背後から襲ってくる不届きな輩もいたが、そいつには強烈な金的をぶちかました。


 親分を人質に取って野盗全員に降伏を呼びよびかけてしまえば、場の制圧は簡単である。

 不可視の盾、もとい不可視の床を操る俺の前に、野盗連中は成すすべもなかった。


「さあて、どうしたものかね」


 顔をゆがめる頭領格の男、もといブルボーズに剣を向ける。

 こちらを格下だと思いあがってる連中の鼻をあかしてやるのは、いつだって愉悦極まりない。今がまさにそれだ。罠に嵌めて、さらに人数で押し切ればいいと思っていたのだろうが、そういった計画を腕力で強引にひっくりかえすのがこの上なく気持ちいい。


 やられたらやり返すなんて、そんなの野蛮だ、という意見がある。その通り、野蛮上等である。最初に手を出すほうが悪いのだ。法律が機能していない腕力がものをいう島にしたのはこいつらなのだから、腕力で同じように逆ねじ食わされても、四の五のいわれる筋合いはないだろう。


 剣の平で顔をぺしぺし叩きながら俺は尋ねた。


「さあてお前ら、どういう申し開きがあるか言ってみな」


「……何が望みだ」


「望みもへちまもあるか、デコ助。首切られたくなきゃ何ができるかってのを、お前らがない頭絞って考えるんだよ」


 要求をこちらから提示しない。勝手に相手にあれこれ想像させるという手だ。そもそもこいつらが何を提示できるか俺は知らない。

 金を出せるなら金、労働力を提供できるなら労働力、財宝を出せるなら財宝――。


「……お前に魔道具をやる、それで手打ちにしろ」


「へえ、魔道具はほしいがそうじゃねえんだよ、それじゃ全然足りねえ、俺の部下になれ。もう二度と俺に逆らわねえって約束しな」


「……」


「言っておくが、約束を破ろうなんて考えるなよ。簡単に破れないように、まずは周囲に宣言して誓ってもらう。誰にでもわかるように回覧板でな。そのあとで、約束を破るたびにお前らに恥ずかしい目に合ってもらう。一回約束を破ったら豚呼ばわり、二回約束を破ったら半裸で『私は豚です』って書かれた看板を首にかけて一か月過ごしてもらう、三回約束を破ったら求愛の歌を自作して村中のやつを集めて披露してもらう、しょうもない歌だったらもう一回やり直しだ」


 考えられうる限りの嫌がらせを口にする。自尊心が高いやつからすれば地獄のような提案だろう。だが吞んでもらう。

 顔を歪めながら、ブルボーズは舌打ちと共に「……わかった」とつぶやいた。

 当然蹴っ飛ばす。


「よーしいい子だ! 今の蹴りは舌打ちの分だ、よーく味わっときな」


「……クソが」


「さーあ、魔道具を持ってきな。まさか今から豚になりてえわけじゃねえよあ?」


 極めて寛大な措置だと思う。命を狙ってきた相手を、ほぼお咎めなしで解放するのだ。魔道具は接収するがそれだけ。引き続きブルボーズ村の長を続けることも許可する。

 とはいえ、舐められたらほぼ終わりというこの島では、こうやって上下をきっちりつけておく必要がある。


 視界の隅で、ぶるぶると獣人の娘が震えているのが目に写った。俺のことをすっかり怖がっているみたいだ。

 だがこの娘とは今後も仲良くしていくつもりだ。この娘にはまだ、別の仕事が待っている。






 ◇◇◇






「がはは! 笑いが止まらんな!」


 人数にして二十人ぐらいの労働力が手に入った。

 ブルボーズ率いる悪党ども二十名は、もうすっかり俺に逆らう気力も失せているだろう。

 となれば、明日からでも魔物の解体作業を全部彼らに押し付けることができる。こんなに愉快なことはない。明日からもっと俺は楽ができるのだ。


「――最悪だにゃああああ! 本当最悪だにゃあああああ!」


 洞窟の奥から絶叫が聞こえる。

 だが俺は無視をした。《空中床》に閉じ込めて、ゆっくり奥まで彼女を運んでいる真っ最中。つまり彼女は、この世の中でも最も安全な壁に守られていることになる。


「いにゃあああああああああああっ! がりがりって、がりがりって齧ってるにゃああああああああああああ!」


「おーい、どんな魔物が見えたか教えてくれよ! 地形とか、鉱石とか、生えてる植物とか、そういう情報をだな――」


「い゛に゛ゃあああああああああああああっ!? ご、ゴブリン!? い゛に゛ゃあああああああああああっ!? はは、孕まされるに゛ゃああああっ!?」


「おいやかましいぞ! 鎧汚した弁償代分はきっちり働け!」


 彼女に与えた仕事は二つ。

 迷宮の奥の状況の調査。魔物の誘引。特に二つ目が大きい。何故なら魔物をたくさん惹きつけた方が、俺の素材採集の効率が上がる。

 獣人族は魔物を惹きつける性質があるというが、その性質は願ったり叶ったりというものだ。もっとたくさん魔物を惹きつけてほしいところだ。


「い゛に゛ゃあああああああああああああ――――っ!!」


 今日の収穫。

 二十人余りの、好き放題こき使える労働力。

 魔物を勝手に引き寄せる獣人の娘。

 ここに、それなりに腕に期待できる商人のおっさんと、薬草に詳しい樹人族の娘の、二人の力を借りることができれば。


「……こいつは、ますます本気で大きな商売できそうだよなあ?」


 将来のことを考えると、俺は笑いが止まらなかった。


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