追放騎士のダンジョン商売： 〜外れスキル《空中床》は生産系＆内政スキル！？ 未開拓迷宮の真上に商店作って素材を売りまくってたら大きな街が出来たけど色々もう遅い〜

第16話 迷宮内部の壁面や地面の凹凸をなだらかに削りつつ、掘削音やら不要な素材を捨てることで魔物をおびき寄せる罠にし、さらには分岐通路の開拓まで手をかけるなど

　事務所と倉庫の建設作業の傍ら、思い立って、迷宮内部の通り道を平坦化する作業に乗り出した。迷宮内部の凹凸を減らすことが効率化につながると確信したためである。

　平坦化作業といっても、わざわざスコップを片手に迷宮内部に乗り込んで人力で掘削する――といった面倒くさい作業はせず、空中床を遠隔操作してそれで完結することを目指した。

　非常に細く鋭利な《空中床》を作り、そしてそれを壁面すれすれに這わせて、迷宮の凸凹を削る。

　突き出た部分に何度も鋭利な《空中床》をぶつけて、固い結晶も徐々に砕いて、床も壁も天井も平たく均していく。イメージは木材に鉋（かんな）をかけるように。

　迷宮の凸凹を削る理由は単純である。

　通路が平坦であるほうが、魔物をがーっと引き込む作業を何にも考えずに行えるのだ。

　凸凹だらけの道だと、障害物に引っかかったらそのたび空中床を調整して……といった煩雑な作業が発生する。極端な言い方をすると、道が凹凸だらけだとその対処のために思考力を割かれてしまう。そうではなく、この作業はあくまで脳死で回せるルーチンワークに落としこみたいのである。

（あと、通路が平坦だと魔物が単純に傷つきにくくなるしな）

　後から気付いたことだが、迷宮内部の凹凸を平坦化する隠れた利点として、回収した魔物の擦り傷が減るというものがあった。魔物を引き込む際、驚いた魔物が急いで逃げるときに迷宮壁面に激突して擦り傷を作る、という事例がちらほら散見されたのである。壁を削っておくことがこういうところにつながるのは、意外な盲点であった。

（ついでに、削る作業で発生する音が魔物の注目を集めてくれるから、案外悪くない）

　かつん、かつんと生じる掘削音は、洞窟の魔物にとっては耳慣れない異音であろう。暗い洞窟内では音は重要な情報。異常を察知して音源まで集まってきた魔物たちは、哀れ翌朝の空中床の餌食となる。

　最近、魔物を回収する量が増えた影響か、薬師のアルルーナや商人のエイペックに怪訝に思われてしまったが、そこは適当に誤魔化した。

　増えたものは増えた。そこに理屈はない。

　音を立てたら魔物が前より寄ってきてくれるようになった、なんて言ったらどんな顔をするだろうか。さらに言えば「解体後に残ったゴミ」「腐りかけの魔物の臓器」をその辺に撒いて、"音のする方向に近づけば餌の匂いがする、という魔物引き寄せトラップ"を思いついたこともあいまって、ここ最近の魔物回収量は増加傾向にある。

（とはいえ、入り口から400ヤード全部を平坦化するのは、こりゃ相当骨が折れるぞ……。丸一日かけても10ヤード平坦化できたらいい方だし、しかもダンジョンの胎動現象でたびたび地形が動くからなあ……）

　今のところ迷宮の開拓進捗は、入り口から400ヤードあたりで止まっている。

　もっと先に進んで開拓することは全然できるのだが、実は100ヤードあたりから複数の分岐通路が発生しており、現状はそういった分岐通路への調査がずっとほったらかしになっている。

　可能であればすべての分岐をくまなく調査しておきたいところだ。理想はもちろん総ざらいである。

　なのでそろそろ分岐通路を探索しようかなと、まさに思っていたところであった。

　しかし分岐通路まで平坦化するとなると、これはこれで非常に先の長い作業になる。通路が増える分、平坦化には今までの何倍も時間がかかることになる。

　それだけでなく、捜索範囲が広がるということは、迷宮地形を覚える範囲が広がるということだ。

　今まで一本道だけを頭に叩き込んでおけば、空中床で魔物を引き込むことができたのだが、複数の分岐通路も探索範囲に含め出すとなると、要求される思考力が格段に増える。空間把握能力、記憶力は当然のこと、操作する空中床の枚数が増える分、集中力もその枚数だけ要求されるし、平坦化作業にともなってそれぞれの《空中床》について別々の操作を要求されることになる。

　通路の障害物に引っかかる、なんてことに思考力を使いたくないのは、こういった背景があるのだ。

（まあ、分岐通路も含めて迷宮の内部の凹凸が減れば、"迷宮内の空間の使い道"も増えるしな……）

　将来的には、色んな人が足を踏み入れて楽しむことができる施設にしたい、という展望を持っている俺にとっては、迷宮整備は先の長い投資の一種であった。今は魔物回収の効率を上げるための整備作業に過ぎないが、この作業を頭に叩き込んでおく（・・・・・・・・・）ことが後々の様々な場面に活きる気がする、と俺は直感していた。

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　■アルバ・セコールジュカ　Lv.8

【ジョブクラス】

　商人Lv.2

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成2」「直感1」「並列思考1」「集中1 new」

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