追放騎士のダンジョン商売: 〜外れスキル《空中床》は生産系&内政スキル!? 未開拓迷宮の真上に商店作って素材を売りまくってたら大きな街が出来たけど色々もう遅い〜
第12話 いつもの薬師がくると思ったら商人のおっさんが来たので、商談がてらにあれこれ鎌かけをして正体を暴くなど
第12話 いつもの薬師がくると思ったら商人のおっさんが来たので、商談がてらにあれこれ鎌かけをして正体を暴くなど
あくる日、台車を引いてやってきたのは、あのときお世話になった商人のおっさんであった。
あれ、いつもは薬師のアルルーナが来てくれるはずなんだが、と疑問に思ってちょっと首を伸ばしてみると、台車の上に彼女は乗っていた。いつものように彼女は煙草をふわあとふかしていた。
妙な取り合わせだな、と眉をひそめているとおっさんから「商売だからな」と答えになっているようななっていないような言葉が返ってくる。
商売とは、と尋ねるより先におっさんは積荷をどかどかと下ろして答えた。
「お前さんは洞窟暮らしだと聞いた。となると日用品はおろか雑貨もろくに揃ってないと思ってな。どうせ魔物の素材はしこたまあるんだろうし、お前さんが持て余してる素材を腐らす前に買い受けてやろうと思ってな」
なるほど確かに商売だ。これまで破格の値段でアルルーナに素材を売り卸していることが伝わったのだろう。
そこに儲けの匂いを嗅ぎつけてのこのこやってきたというわけだ。願ったり叶ったりである、こちらもちょうど取引先を増やしたいと思っていたところである。
「……ははーん、そういうことかい。悪いがこっちも投げ売りしてるわけじゃないんでね、まずはおっさんの言い値を聞こうじゃないか」
「言い値もクソもあるか、てめえが腐らす廃棄物を処理してやるって言うんだからタダでよこしてもらってもいいんだぜ」
「眠たいこと言ってんじゃねえよ、それだけしこたま積み荷を運んで来ておいてよ、こっちにビタ一文も寄越さないつもりってのは話が通らねえぜ」
「馬鹿言うんじゃねえや、この積み荷は他所様に売るために用意したものだ、こいつが欲しいって言うんなら相場より割増で貰わなきゃいけねえや」
ははーん、そう来るか。
この期に及んで値を釣り上げてくるやり口に感心しつつ、俺は笑みを深くした。
他所様に売るだなんておそらく嘘である。この後立ち寄る先があるからといって、わざわざこんなに重い積み荷を運んで山の悪路を登る必要なんてない。一度下山してもう一度積み直せばいいだけの話。
この積み荷は、俺に売りつけるために運んできたものだと見て間違いない。
「お前の都合なんて知らねえよ、あるもの使って商売するのが商人だろうが。俺の取ってきた素材が欲しけりゃそれなりのものを積め、それだけだっての」
「で、こいつが肝心の素材かい。……ほお、なるほどねえ」
腐っても商人、商売の話とあらば真剣になるのか、山積みにされた素材を見る目が細まった。傷の具合や保存状態を加味して精一杯値踏みしてるのだろう。
あとは俺の困窮具合を見て、俺からどれだけ足元を見ることができるかを見積もっているに違いない。
「傷だらけだし、解体もろくに出来てねえ素材だな。数は多いが、魔石は全部抜き取られたあとかい。おおまけして1000マナ程度ってところだ。それ以上は儲けが出ねえや」
「全然足りねえよ、荷物全部置いていきな。それが嫌ならとっとと帰りな」
「んだと?」
帰れという俺の発言に、流石に顔をしかめる商人のおっさん。
いくら台車があるとはいえ、これだけの荷物を抱えての山登りはつらかっただろう。ぬかるんだ道、ひどい凸凹の道、そういった悪路をもう一度戻らないといけないなんてことは避けたいはずだ。それも一片の儲けもないとくれば、なおのことである。
「普通にこの素材を売ったら、その十倍は下らないだろうが。それをたった1000マナとは随分買いたたいてくれるじゃねえか、それなら全部アルルーナに売り卸したほうが得なんだよ。おととい来やがれ」
「……そういうことかよ、しけてやがるぜ。だが1000マナというのはそうふざけた値段じゃねえ。こんな悪路を昇ってこなくちゃいけない手間賃を考えるとむしろ高いぐらいだ。こっちにも旨みがねえと――」
ため息交じりに吐き捨てる商人のおっさんに、俺は剣を突き付けた。
そう、まさにその発言を待っていたのだ。言質を取った。奴は確かにはっきり言った。手間賃と。
「言ったな? "こんな悪路を昇ってこなくちゃいけない手間賃"、覚えたぞ?」
「お、おいおい、何しやがる、まさか脅そうってのか?」
「そうじゃねえよ、商売の話だ。まさか俺が卸売りと小売りの概念を知らないと思っているのか?」
「……はあ?」
卸売りと小売り。帝国商人のいろはの
卸売業者とは、商品を生産者(複数の職人ギルド)から仕入れて、倉庫へと備蓄し、出荷依頼があったら仕分けして出荷する業者のことを指す。そして小売業者とは直接お客様に商品を売る業者を指す。
大手商会ほどの資金力があれば、直接職人ギルドに大量発注をして商品を卸してもらうことができるが、大手職人ギルドとの面識がなかったり取引単位がそれほど大きくない中小商会であれば、仲介として卸売業者を通じて商品を手に入れることがほとんどだ。
よく「そうは問屋が卸さない※1」という言い回しがあるが、あれは問屋(≒卸売業者)が価格決定力に大きな影響を及ぼすことを揶揄したことわざなのだ。
で、話を戻すと、俺の立場は生産者。
俺から素材を卸してもらってそのまま売る、あるいは一次加工して売るのが、あの辺で退屈そうに煙草をふかしている薬師のアルルーナのような小売業者となる。
そしてこのおっさんは、小売業者と卸売業者の両方だ。直接お客さんに商品も売るし、他の小売業者に商品を転売もする。
「生産者である俺からの仕入れコストを低くしたいというのはよく分かった。だが、山を上るのに何千マナのコストがかかるというのはふかし過ぎだ。精々数百マナだろうが」
「ふざけんじゃねえよ、この台車いっぱいの荷物を数百マナで運べっていうのか? 割に合わんね、3000マナから4000マナはその手間賃見合いで差っ引かせてもらう――」
「ほほーん? 良いこと聞いたぜ、じゃあ俺が台車いっぱいの荷物を運んだら4000マナくれるんだな? 吐いたつば飲むなよ?」
「……それは」
墓穴を掘った。このおっさんは俺から買い叩こうとした結果、数字の根拠を軽々しく口にしてしまった。
運搬費用に4000マナかかるということは、逆に言えば、俺が荷物を運搬すれば4000マナ俺に支払うという言質を与えたに等しい。しくじった、という顔をしているおっさんが何か言い訳をしようともごもごしているうちに、俺はさらに畳みかけた。
「どうぜ全部ここにあるのは不良在庫なんだろう? ここに積んである荷物を全部足し合わせても4000マナに行くかどうかってところじゃねえか。全部寄越せよ。ここはお互い楽になろうぜ」
「何を偉そうなこと……!」
「仕切値と小売価格ってのがあるだろう? 俺のような生産者が卸業者に売り卸す価格が"仕切値"、そして店頭で売る価格が"小売価格"、この差額がお前さんの儲け。だがこの相場は大体六掛け、つまり六割程度っていうのが普通だろうがよ」
取り扱う商品の種類にもよるが、仕切値と小売価格の掛け率はおおよそ六割が相場である。
店頭に並ぶ価格の六割。それを考えたら、向こうの提示した1000マナという価格がいかに暴利なのか窺い知れようものだ。そのまま売れば優に10000マナ以上の価値がある魔物の素材の山をどれだけ安値で買いたたこうとしていたのか、考えただけでもぞっとする話だ。
「待て待て、坊や、それは勘違いってやつだ。それは
「ほーう、その言葉も聞きたかったねえ。おいおっさん、もう誤魔化せないぜ」
剣を向けながら一気に詰め寄る。帝国騎士団で学んだ歩法。これでおっさんは迂闊に逃げることもできない。
片頬に冷たい刃をそっと当てるように。相手の恐怖を煽るようにたっぷり間を取ってから、俺は指摘した。
「その通りだ。さっきのは製造業の話だ。加工品の原材料は、こいつも上下のばらつきが大きいんだが平均はさらに六掛け程度になる。言っとくがこいつは、士官学校の教本で学ぶようなちゃんとした商業の知識だぜ? おっさん、アンタ
またもやしくじった、という顔をしているおっさんを前に、俺は笑みを深くした。
直感した。このおっさんは
―――――――――――――――
■アルバ・セコールジュカ Lv.7
【ジョブクラス】
商人Lv.1→Lv.2
【特殊スキル】
《空中床》
【通常スキル】
「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」
「罠作成2」「直感1」
―――――――――――――――
※1 訳者注釈:この世界の言語における似たことわざ「მართალია, საბითუმო მოვაჭრეები არ ყიდიან」を日本語に当てはめたもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます