第13話 おっさんの過去を知る、そして"一荷車買い"形式で契約を成立させつつ、将来の大きな構想に思いを馳せるなど

 ――結論から言うと、おっさんとの取引はうまくいった。全て俺の要求通りに終わったのだ。

 俺の集めた魔物の素材全てと、向こうの持ってきた積み荷すべての物々交換。そのままそっくり物品の入れ替わりである。俺の読み通り、向こうが持ってきたものは全部おっさんの不良在庫だったので、俺も向こうも損はないはずである。


 乾燥したパンの山、袋一杯の小麦の束、臭くて敵わない魚の干物、干したキノコに干した果実、湿気を吸ってごろっと固まった塩、大量の古着と布切れ、木製の大皿、刃先が錆びていてもう一度研ぎ直さないといけない草引き用の鎌やら手斧やら鍬やら包丁やら。

 そんな雑多な商品の数々が、荷台の上に所狭しと並んでいた。


『……俺ァ、もともと帝国の大手商会、カトラリー商会の商人をやっていた。帝国と植民地の間の中継貿易で儲けを出していた。こう見えてもそこそこ上手くやっていたと思うぜ』


 交換している最中、おっさんは観念したように白状した。

 実は猿人族の血を引く亜人族であること、昔はそれなりに商売で成功していたこと、そして濡れ衣を着せられてこの島に流されてきたということ。

 つらつら続く独白を聞きながら、俺は合点がいった。どうりで帝国の商業についてしっかりした知識を持っているはずである。むしろ俺がもっている付け焼刃の知識なんかよりも、おっさんの方がもっとしっかり活きた商売の知識を知っているはずだ。しかも差別を受けている亜人族の身でありながらそれなりに商売に成功してきたというのだから、平凡な商人ではあるまい。


『セリアンスロープ氏族のエイペックだ。今後とも末永くよろしく頼む』


 おっさん、改め、商人エイペックと初めて交わした握手は、ひどく固い感触であった。






 ◇◇◇






(エイペックのおっさんとの商談の結果、三日に一回ほど、でっかい荷台一杯分の素材を、同じぐらいのかさの物資と交換することで話が付いた。俺の取り分を考えたら俺の方がだいぶと損する計算だが、引き換えにおっさんからは知識を教わることになっている)


 いわゆる"一船買い"形式というやつだ。

 漁師が獲ってきた魚を、魚の種類によらずまるまる一船買う形式。今回のケースでは漁業じゃなく荷台で取引しているので、あえて言うなら"一荷車買い"とでも言うべきだろうか。


 俺の方が利益の薄い契約になっているが、そこは重要ではない。

 三日に一回回収しないといけないぐらい大量の魔物の素材が発生する、という状況の方がおかしいのである。

 いかに魔物の素材が有用だとはいえ、こうも大量に買い受けてくれる相手はなかなかいない。魔物によっては加工方法が特殊だったり、毒抜きの工程が大変だったり、そうでなくても身体の構造に熟知していないと素材部位ごとに切り分けるのができなかったりと、魔物の素材はそれを扱う側の知識を幅広く要求してくる。だから大量に素材を仕入れてくれる先は貴重なのだ。

 多少俺の取り分が低くなるのは仕方がないのだ。


 さらに言えば、俺が狩ってくる魔物は種類が決まっているわけではない。数や種類はその日によるとしか言いようがない。空中床を使ってかき集めた魔物たちがどんな奴らなのか、それはもうやってみないと分からないのである。

 素材を買う側からすれば、幅広い魔物を適切に処理できる知識が要求されるし、供給される量も安定しているわけではないので、仕入れづらいに違いないのだ。


 それでも商人のおっさんは、必ず三日に一回買い受けると言ってくれたのだ。


「この"一荷車買い"形式の契約にしたことによる俺の旨みは、素材をあちこちに売りさばく手間を圧倒的に削減できるという点、俺の方が長期的に儲かりやすいという点、そして知識を吸いだしやすいという点だな」


 特に二つ目と三つ目が大きい。

 長期的に儲かりやすいと言うのは、"魔物を狩り続けることにより俺の魔力が徐々に底上げされて、より一層広い範囲から魔物をかき集めることができるようになる"……という将来の期待が見込めること。

 知識を吸いだしやすいと言うのは、仕留めたばかりの魔物をどのように下処理したら品質の劣化を防げるか、どのように保管したら素材が痛むのを防げるか、という各魔物ごとの情報を教わりやすいということ。


 あらかじめ買い取る魔物の種類を決めて、それを買いとってもらうという方式ではなく、雑多な魔物が混じっていても買い取ってもらえるという方式の契約だからこその話である。


「で俺は、どうすれば魔物を大量に狩れるかの検討に専念すればいい……ってわけだな」


 考えることが一気に減って、非常に楽である。言い方は悪いが、困ったことは全部エイペックに丸投げできる。俺はただひたすら狩るだけでいい。

 狩りの効率を上げることに全てが集約されているのだ。


(まてよ、それならいっそ、将来的にアルルーナとエイペックを雇うってのもありか? 俺が調達した魔物をそのまま売り卸す、あるいは薬物に加工して売ってもらうという一連の工程を、全部一本化した法人を設立してしまえば……)

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