第10話 迷宮内の不思議な生態系に感銘を受けつつも、己の魔力の成長を実感し、相変わらず大量の魔物を持ち帰るなど


 得てして洞窟の中では、特殊な生態系が出来上がることが多い。

 光が入りづらく、湿度が高く、温度変化があまり大きくない――そんな洞窟の中では、環境に適応できる植物が限定されるため、昆虫や動物が食べられる植物(=食料)が乏しくなってしまい、結果的に生物が大型化しにくい。

 良く発見される魔物としては、ミミズやムカデやクモなどの節足動物、イモリなどの両生類、コウモリやモグラなどの哺乳類などが上げられる。

 大抵の洞窟生物は、暗闇の中でも周囲を知覚できるように、触角や体毛が発達していることが多い。


 特に、迷宮化した洞窟は異なる様相を示す。

 迷宮化現象により洞窟全体がほんのり魔力を帯びて光るようになっているため、その明かりを元に光合成を行う植物が一定数存在する。あるいは魔力そのものを取り込み栄養とする植物も存在する。珍しい生物であれば、自ら発光するコケ類やキノコ類も生息している。

 動植物学者にとって迷宮内の生態系は、非常に興味深い研究対象であろう。


 未知に包まれた、地上ではなかなか観測されない特殊な生態系。

 そんな不思議にあふれた世界を、俺は今、探索している――。






「がはは! 笑いが止まらんな!」


 空中床を楯代わりにして前に進む。俺はもうさっきから笑いっぱなしであった。

 ムカデだかミミズだかクモだかコウモリだかを空中床で閉じ込めて、川の水を流し込んで溺れさせる。終わり。非情にお手軽な繰り返し作業。

 この戦略があんまり強いものだから、俺はずっと同じ事しかしていない。やはり水は正義だ。地上で進化した生物ごときが、水に閉じ込められて勝てるはずがない。


 ムカデを狩った。ミミズを狩った。クモを狩った。コウモリを狩った。分かれ道を進んだり高低差の大きな地形を進んでいるので正確な距離は分からないが、多分300ヤードぐらいは奥に進めたはずだ。

 合計で多分四十匹ぐらい魔物を狩っている。麻袋の中身がもう魔石で一杯になっている。


 もちろんイモリについては両生類なので、水で閉じ込めてもとどめを刺すことができなかったが、こいつについてはもう空中床で閉じ込めて放置しておいた。

 すぐ解決できない問題は後回しにするに限る。


(魔物をたくさん狩ってるおかげで、魂魄も順調に成長しているような実感があるな。多分、魂の器がどんどん広がっているはず)


 魂が成長した結果、魔力が少しずつ伸びている気がする。

 そう、この世界では魂の成長に伴って、身体能力や魔力も成長することが証明されている。それもそのはず、魂とは意思を持った魔力の塊であるので、その作用により肉体が強化されるのだそうだ。


 とはいえ実際に身体能力が伸びたかと言われると、ちょっと俺にはピンとこない。

 抜剣の速度が上がったかというとさほどでもないし、筋力が上がったかというとあんまりそんな気はしない。

 もっともっと魔物をたくさん狩ったら、目に見えるような大きな差になるのかもしれないが、今のところはまあ誤差の範囲内だろう。

 成長の実感をあまり感じないのは、多分まともに魔物と戦っていないからであろう。大体やっていることといえば、魔物を見つけては空中床で閉じ込めて水を流すだけのことしかやってないので、身体能力の向上などを実感する機会がほとんどないのだ。


 どちらかというと、魔力が増えたという実感の方が大きい。

 空中床を以前より素早く発動できるようになったし、発動枚数も一日四十枚が限界だったところが一日五十枚ぐらい発動できるようになった。


 魔力の余力が増えたのは喜ばしいことである。

 空中床を伸縮したり移動させるのにも魔力を消費するので、魔力はあるに越したことはない。

 現に今、魔物をたくさん狩ったあとなのでその素材を入り口まで持ち運ぶ必要がある。魔物狩り作業ではどうしても戦闘の方が大変だと思われがちだが、案外、仕留めた獲物の運送も大変なのだ。その意味で言うと、成長により魔力量が伸びた今、以前と比べると運送できる重量も若干増えたのでとても助かっている。


 そろそろ魔石を入れる麻袋もいっぱいだし、帰るとするか――と、とどめを刺した魔物たちを大量に持って帰ろうとして、俺はまたもや気付いてしまった。


(あ、閃いた、今回倒せなかったイモリもついでに運ぶか! で、風呂を沸かすついでに熱湯をイモリに浴びせてしまえばいいんだ)


 発想の勝利。というよりも当たり前の発想かもしれない。両生類な熱に弱い。というより生物は基本的に熱に弱い。熱湯を浴びせかけても元気な生物なんてそうそう居ないのだから、こういうときは無理せず熱の力を借りればいいのだ。反面、熱で体表が変性するため、素材としての価値はやや落ちるかもしれないが、まあそれは仕方がないだろう。

 哀れイモリくんは、空中床に閉じ込められたまま入り口にお持ち帰りされることになってしまった。蒲焼とかにすれば美味しく食べられるだろうか。今度、薬師アルルーナにイモリの有効活用方法について色々聞いてみるのもいいかもしれない。


 極力楽に、極力無理せず。そうやってコツコツと迷宮を開拓するのが一番楽しい。

 心躍る激戦とか壮大な冒険ってやつも悪くないんだけど、そういうのはたまにやれば十分。

 今の俺は、新しく手に入ったスキル《空中床》について理解を深めながら、少しずつ、少しずつ身の回りの環境をよくしていくことが無性に面白かった。











 ―――――――――――――――

 ■アルバ・セコールジュカ Lv.7

【ジョブクラス】

 商人Lv.1

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成2」「直感1」

 ―――――――――――――――

【迷宮開拓進捗】

 現在70ヤード → 300ヤード

【今回の戦果】

 クモ    6匹

 ミミズ  14匹

 ムカデ  11匹

 コウモリ  4匹

 カマドウマ 6匹

 イモリ   5匹

【スキル《空中床》についての説明】

 ・《空中床》その1、発動すると、空中に固定された透明な床が出現するスキルである(発動者以外には視認困難)。

 ・《空中床》その2、出現する床の大きさは、魔力消費量を調節することで変更できる(特に意識をしなかったら、縦長2ヤード × 横長1ヤード × 厚さ1インチの板が出現する)。

 ・《空中床》その3、一度出現させるとそのまま出現したままになる。

 ・《空中床》その4、空中床は暖かくも冷たくもない、また水を通さない。

 ・《空中床》その5、空中床に重い物を乗せて移動させることも可能。ただし重さ、移動量、移動速度などに応じて魔力を消費する。

 ・《空中床》その6、すでに出現させた空中床についても、魔力を消費して大きさを拡大、縮小させることができる。

 ・《空中床》その7、音波で障害物を知覚する魔物について、空中床は何故か知覚されない。



 ――――――――――


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

「追放騎士のダンジョン商売: 〜外れスキル《空中床》は生産系&内政スキル!? 未開拓迷宮の真上に商店作って素材を売りまくってたら大きな街が出来たけど色々もう遅い〜」

 第一章完結です!


 スローライフものは私も勉強している途中ですが、コツコツ身の回りが改善されていく感じが好きです。悠々自適な生活っていいよね、というのをこれからも書いていきたいです。


 一方で本作品は「ダンジョン商売」なので、そろそろ商売ネタを盛り込んでいきたいところです。薬師とは少しずつ友好関係ができている状況ですが、小作農民とか、大工、粉ひき職人、料理人、神父、牧者など、まだまだ取引する先は多数あります。

 商人ジョブの成長も、これから期待できると思います。


 乞うご期待!


 面白いと感じましたら、小説フォロー・★評価をポチッとしていただけたら幸いです。

 これからもよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る