第8話 戦利品を眺めて悦に入りつつ、風呂を浴びて身体を安らげて、これからの迷宮探索に思いを馳せるなど

「がはは、笑いが止まらんな!」


 戦利品を持ち帰った俺は、思わず笑顔になった。


 今回のムカデを使って得られた戦利品は、

 ・薬草の数々(疲労回復、止血、火傷、消炎、打撲、便秘、消化不良や食欲不振など)

 ・軟石鹸、香水、香油

 ・香辛料や調味料

 ……といった便利な道具の数々である。


 これらは全部欲しいと思っていたものだった。

 怪我したときや体調が思わしくないときに備えて薬草が必要だったのはもちろんのこと、衣服を洗ったり身体を洗うためにも石鹸類は手に入れておきたかったところだ。

 さらに日々の食事を美味しく豊かにする意味でも、調味料類の味わいが非常に恋しかった。今までは肉も魚もそっくりそのまま素焼き状態だったが、これでちゃんとした"料理"になる。


 一方で、こちらが支払った対価はというと、勝手にうじゃうじゃ湧いてきて勝手に溺れたムカデたちだ。勝手に溺れたと表現するのはやや語弊があるが、まあ似たようなものである。

 こちらの手を煩わせることなく、半ば放置していても狩ることができた魔物たちの素材。まさに不労所得。なんていい響きだろうか。


「いやあ、もうほんと最高だな! ムカデなんて放っておけば勝手に集まるし、ちょちょいと空中床を動かせば川の水で窒息させることができるし、ムカデから魔石は手に入るし、欲しかった薬草は集まるし、もうほんと言うことなしだな!」


 川の水を焚いた風呂をゆったり浴びながら、俺は高笑いを上げた。せっかく石鹸が手に入ったのだから、風呂に入らないわけにはいかないだろう。長い野宿で凝り固まった体が、じんわり温まってほぐれる。まさに気分は極楽ってやつだ。

 これも空中床のおかげ。薪を集めるのも薪を乾燥させるのも、空中床があれば楽ちんである。雨の日に濡れないように屋根を造りつつ、透明であることを活かして晴れの日に日光に干せば、いい感じに乾燥した薪に仕上がってくれる。


「さてさて、俺が外に出かけて村で商売をして帰ってきて風呂でゆったり過ごしている間に、肝心のムカデくんはどれだけ集まったかなーっと? へへへ、ほんと楽ちんでたまんねえや」


 部屋の奥の方を覗いてみる。今日一日外出で家を空けている間、またもやムカデが集まってくれていた。その数五匹。まあこんなものだろう。


 彼らを観察していて気付いたことなのだが、ムカデはどうやら肉類の匂いが好きらしい。なので外でイノシシやらを狩った後、その肉を燻製にして、それを部屋の奥の方に保存しておくと、勝手にムカデたちがやってくるのだ。

 匂いにつられて勝手にどんどん集まるムカデたち。最高の環境である。


「よーし、基本的な行動指針は決まったな! 昼間は外に出かけて、果実を採集したり、薬草やキノコを採集したり、魔物を狩る! その間にいい感じにムカデが集まってきたら、こいつらを水で一掃する! で、一週間ぐらい経って魔物の素材が溜まったら素材を売る!」


 昼間は山と森の探索、夜はムカデ退治。こんなもんだから、魔物の素材がみるみるたまっていく。イノシシやら一角ウサギやら、空中床を使えばこの辺一帯の魔物を狩るのもさほど難しくないので、いやはや本当に魔物を狩るペースがどんどん早くなる一方である。


 しかも嬉しいことに、あのアルラウネの薬師アルルーナさんが、わざわざ一週間に一度山にのぼって俺のところまで来てくれるという。

 願ったり叶ったりだ。わざわざ村に行くのも手間だったところである。向こうからこの拠点まで来てくれるというのであれば、こちらも荷物を抱えて往復する手間が省けて好都合なのだ。


 その分、魔物の素材は半額以下の値段で譲ることになったが、そんなのは些細なことである。元からタダのようなものだ。

 ムカデの魔物は迷宮化された空間からほぼ無尽蔵に湧いてくるし、今は時間を節約できる方が嬉しい。

 何故かって? ちょっとでも時間があったら、迷宮探索・・・・に使いたいからだ。


 そう、迷宮探索。

 俺は今、非常に心躍っている。この未開拓迷宮を、ただの"ムカデ狩り放題牧場"で終わらせるつもりは一切ない。


 薬草類の装備が充実して、武具防具の手入れが十分終わったら、俺は迷宮探索に繰り出すつもりである。眼前に広がるこの無限の可能性を感じる迷宮。


「……さてさて、めぼしいお宝は眠ってくれているかね?」











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 ■アルバ・セコールジュカ Lv.6→Lv.7

【ジョブクラス】

 商人Lv.1

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成1→2」「直感1」

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