第3話 狩った魔物を空中床で運搬し、商人に買いたたかれるも、ふと未開拓迷宮の入り口を見つけるなど

 イノシシを六頭、一角ウサギを二匹、ゴブリンを十一匹、フォレストウルフを五匹。ここ数日で俺が狩ることができた魔物たちである。平均しても一時間に一体以上魔物を発見して狩ることができているのだから、かなりハイペースで狩り進めることができている。

 どれもこれも、全て《空中床》のおかげである。


(魔物たちに侵入されないように洞窟の入り口に《空中床》で蓋をしておけば、夜になってもゆっくり眠れる。地面の上にそのまま寝転がればでこぼこして痛いけど、《空中床》の上に寝転がれば痛くないし底冷えもしない。こういう何気ないところも《空中床》のおかげで快適に過ごせているよな)


《空中床》その4、空中床は暖かくも冷たくもない、また水を通さない。


 まさに《空中床》様様さまさまである。

 細かい話でいえば、地面がぬかるんでいたり、虫が大量に棲息している地域であっても、《空中床》の上で寝転がれば問題ない。


 ちなみに狩ることに成功したこれらの魔物だが、全部一人で運ぶのは無理なので、《空中床》に乗せてから運搬した。


《空中床》その5、空中床に重い物を乗せて移動させることも可能。ただし重さ、移動量、移動速度などに応じて魔力を消費する。


 要するに、魔力を消費して運ぶか、魔力を節約するために人力で運ぶかの違いである。


(重い荷物を背負ったりするよりも、空中床に乗せて運んだほうが遥かに楽だな。こりゃいいや)


 魔力の消費ペース、および魔力の回復ペースとの兼ね合いにはなるが、体力とて温存が重要になる。魔力を使って身体を休めることができるのであれば、それを優先するという選択肢も十分に考慮に値する。


 例えば今だと、紐を括りつけた木の板を作って、それの上に荷物をのせて引きずる様に物を運搬しているが、ちょっとした坂道、ぬかるんだ道、でこぼこの多い悪路だとうまく引きずって運ぶことができない。

 なので、そういう時だけ空中床を発動し、荷物をちょいと運んでもらって、もう一度木の板に載せ換えるということだってできる。


(魔物を狩るのも簡単で、狩ったあとの魔物を運ぶのも簡単。こりゃ便利だな)






 ◇◇◇






 魔石とは、魔物の体内で発見されたり、大気魔力マナの濃密な地形で見つかる、結晶化された魔力物質のことである。多くは不純物を含むため、鉱石のような形、あるいはその二次加工品として流通することが多い。


 柘榴石や蛍石など、鉱石結晶はその生成過程で魔力物質を含むことが多いため、基本的には「綺麗な石は大体魔石」という認識で間違いない。


 魔石には、純度や密度によって一定の規格があり、この世界の通貨として機能する。マナ/Mana/とマネー/Money/の言葉のつながりはそこにちなんでいると言われている。魔石貨幣制度。帝国貴族たちが魔石鉱山の開拓に躍起になるのも無理はない。


 採取したばかりの魔石をそのまま通貨として使うのは難しいので、通常であれば加工を行う必要があるのだが――。


(この流刑島ときたら、わざわざそんな七面倒くさいことをやっている奴なんていなさそうだもんな。全然工業技術が発展していないんだもの)


 最初の村にもう一度足を運ぶ。

 案の定、住民たちから剣呑な目つきで睨まれた。だが関係ない。俺の強さは知れ渡っている。昼間のうちは、誰も俺に襲い掛かってこないだろう。


 狩ったあとの魔物の死体を、そのまま商人にどかっと売りつける。

 魔物の解体は騎士の仕事ではない。いや、本当は挑戦しようとしたんだが、しんどいし、面倒くさいし、剣の手入れも非常に手間がかかるので断念したのだ。心臓近くの魔石と、俺が食べる分の肉を切り取って終わり。当然匂いがひどい。


 商人は非常に嫌そうな顔でこれを買い取った。解体の手間賃と、毛皮や骨の傷み具合を天秤にかけて、ぽいと魔石を投げてよこされる。

 恐らく200マナ程度。子供のお駄賃のような金額だった。


「す、少ねえ……」


「ったりめーだろ、ボケが。村の一員と認められたかったら上納金をうちの頭領に払うか、労役にでも服するんだな」


 いや、俺騎士なんだけど。この地を治める立場なんだけど。

 などと抗議をしてみようか悩んだが、やっぱりやめておいた。代わりに価格交渉で頑張ってみる。


「おいおい、5000マナは出せよ。毛皮は痛みが少ないし、匂いだってそんな酷くないはずだぜ? 火を焚いて煙で燻したから虫よけもできているし、狩った後に川辺できちんと血抜きしたから、さほど腐敗も進んでないはず……」


「じゃ、俺以外の奴に売るんだな。こっちはお前から買わなくてもいいんだぜ。大体、本当に状態のいい毛皮にしたいなら、さっさと解体して切り分けておくことだな」


「分かった、分かった。安値で譲ってやる、足元見られてやるよ。ここはひとつご贔屓に、ってお近づきのお友達価格ってやつだ。その代わり、紐とか布袋とか砥石とか色々タダでつけてくれ」


「何を甘えたこと抜かしやがる、この後くっせえ魔物を分解して、皮をなめしたり骨を選り分けたり牙を抜いたりする手間がかかるんだぜ? こんなんたいして金にならねーんだよ」


「ばーか、売り残しの在庫があるだろうが。そのまんま5000マナ払うよりは、不良在庫も処分出来てそっちは得だろうが。できないってんなら本当によそに行くぞ」


「……ちっ、世間知らずのボンボンかと思えば生意気垂れやがって」


 ざっとこんなものである。

 これでもどうせ滅茶苦茶ぼったくりされていると思うが、最初の買いたたきよりは幾分かましであろう。砥石、薬草、縄、麻袋、水筒、羊毛の毛布、スコップ、手袋、あたりを貰い受けて洞窟に帰る。

 これで合計3000マナぐらいにはなるだろうか。


「ほらよ、これ持ってさっさとどこかに行きな。次はもう少し価値のあるやつを持ってくるんだな」


「じゃあ今度はきちんと相場で買い受けやがれ、あばよ」


 商人から道具と金を受け取ってその場を立ち去る。

 村八分状態だと思っていたが、金になるうちは物を売ってくれるらしい。最低限の生活はこれで確保できそうである。


(とはいっても食い詰め状態なのは変わらないけどな……はあ)






 ◇◇◇






 もっと快適に過ごせる洞窟はないだろうか、と山の中を歩き回ることしばらく。

 俺が、未開拓迷宮の入り口を見つけたのは、まさにそんなときのことであった。











 ―――――――――――――――

 ■アルバ・セコールジュカ Lv.6

【ジョブクラス】

 商人Lv.1

【特殊スキル】

《空中床》

【通常スキル】

「剣術4」「槍術3」「盾術3」「馬術1」

「罠作成1」「直感1」

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