第3話 ウチが頼んでたやつ届いてる?

 お姐さーん、よもぎ団子と冷たい緑茶ちょうだーい。あ、一つでええで。

 ありがとう。

 ほらうて来たったで。お金? いらんいらん、ウチの小遣いから出しといたるわ。今日は特別やで。

 こんなとこにお茶屋さんあるなんてびっくりしたやろ。古臭くてちっちゃい店やけどこの道通る人らにとったら何とも嬉しい休憩場所やねんで。

 そんな事よりほら、このよもぎ団子はよ食べてみ。頬っぺた落ちるぐらい甘い餡子あんこも入っててむっちゃ美味しいねんで。

 な。

 むっちゃ美味しいやろ。

 ウチもここのよもぎ団子むっちゃ好きやねん。他にもみたらし団子とか、かき氷とか売ってんねんけど、みんな美味しいねんで。

 え、ウチ?

 ウチは……ええわ。アンタが全部食べたらええやん、遠慮せんといて。

 お面取るんいややし……。

 これ取ったら、その、こぼれるし……。

 あ、いや何でもないで。

 まあ兎に角ウチはあんまりお腹減ってないから大丈夫やから気にせんと食べてや。

 そんな事よりお茶屋さんのお姐さん美人やろ。

 何、苦い顔してるん。あのお姐さん和服も似合ってるしめっちゃ美人やんか、まあ……横向いとったらやけど。

 顔半分、骸骨やもんな。

 そやで、あのお姐さんも死んでる人。恋人に裏切られて自殺しはってんて、それも五十年も昔の話らしいねんけどな。男って非道ひどい生き物やねんなあ、ほんま。

 全部食べた?

 団子もお茶も美味しかったやろ。

 そうそう、これもお祖母ちゃんが言ってた話やねんけどな。黄泉戸喫よもつへぐいって知ってる? 日本の神話にあるらしいねんけどな、あの世の食べ物を食べる事やねんて。それでな、あの世の食べ物を食べると現世うつしよに帰られへんようになんねんて……。

 なあなあ……。

 よもぎ団子、美味しかった?

 ……。

 あはは、冗談やって。

 今アンタが食べたんは全部現世うつしよの物やで。ここはあの世とこの世の丁度真ん中やからここのお茶屋さんは何でも取り寄せ出来んねん、現世うつしよからでも幽世かくりよからでもな。ほんまに何でもやで、凄いやろ。

 ほら見てみ。

 お店の裏口からふんどし一丁のおっちゃん出て来たやろ。あのおっちゃんが飛脚やってて、頼んだら色んな物取り寄せてくれんねん。

 ウチのこのお面もここで買ってんで。ええやろ。

 あのおっちゃん、ほんまに働き者やねんで。こんなじめじめして蒸し暑い時期やのに文句一つ言わんとあの世とこの世を走り回ってんねん。

 まあ文句言いたくても言われへんのやろな。

 あのおっちゃん……首から上ないし。


 なあ、お姐さん。ウチが頼んでたやつ届いてる?

 今来たんや。良かった。

 じゃあ今貰って帰るわ、ありがとうな。あ、これか……。思ったより重たそうやなあ。まあ今は温和おとなしく寝てるみたいやから頑張って担いで帰るわ。

 ん?

 これ?

 ああ、これお姐さんに頼んで取り寄せといて貰ってん、地獄から。世にも珍しい愛玩動物ペットやで、ずっと飼いたかってん。

 あ、そや。お姐さんあとはさみか何か貸しといてくれへん? 袋のひも切らなあかんやろ。鋏ないんや、ほなこの包丁借りて行って良い?

 ありがとう、また今度返しに来るわ。

 ほなそろそろ行こか。よいしょ、あ、やっぱり重たいなあ。手伝わんでええで、これはウチが自分で持って帰るし。

 そんな事よりアンタも気ぃ付けや、この麻袋の中に居るん愛玩動物ペットって言うても地獄の生き物やねんからな。

 けっこう空も暗くなってきたしそろそろ行こか。

 もうちょっとでふもとまで着くわ。

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