旅行前の準備
後日、校外学習のしおりが配られた。持っていくものやこの前のざっくりした説明よりも事細かに書かれたスケジュールなどが記されていた。
それ以外にも、ツリーハウスを建てる際の注意点などがあって、結構面白い。
こういうの……もしかしたら、セレナの手助けになるかもしれない。獲物を捕捉するための物見櫓、小屋の増築、あるいは倉庫とか。
正臣も思っていたのだ。森の中とはいえ、トイレを外でする家はちょっと嫌だなって。せめて、土の上にするとしても壁に遭われた場所でしたいものだ。
家の外にトイレを作りたい。
「トイレ……あと、本棚も欲しいよな……母さん机の上に本置いたままにするし……」
そんな風にブツブツと呟いていると、ゴンッと頭の上に拳が置かれる。
「痛っ……!?」
顔を挙げると、そこに立っていたのは決闘授業担当のショウ・ビッグバレー。見るからに体育会系の男性教員だ。
「俺の授業中にぼーっとするとは良い度胸だな、シルア!」
「あ……すんません」
「お前の番だ! 早く出ろ!」
決闘の授業とは、何もないフィールドでお互いに浮遊魔法で捕え合う決闘を指す。
この世界の戦闘は、単純に言ってしまうと先に相手の体を浮遊魔法で捕まえてしまえば勝ちだ。
勿論、浮かされている間も杖さえあれば魔法は使えるが(杖がなくても使える奴はいるが)、自身にかかっている浮遊魔法を相殺するには時間がかかる。
その間に吹っ飛ばされたり、叩きつけられたりすれば、その時点で勝敗が決まってしまうことも少なくない。
これは、そのための特訓である。今日までは浮遊魔法を戦闘に使う際のテクニックなどを教わり、そしてようやく今日、実践式のタイマンが行われる日となった。
……さて、そんな授業で、正臣の今日の相手はやっぱりクインだった。
箒に跨り、万能型の杖を持ったクインは好戦的に正臣を睨む。
「覚悟しろよ、マサオミ」
「えっ、あ、はい……」
あまりやる気はないが、親の金で通わせてもらっている学校の授業なので負けるわけにはいかない。
二本、万能型を持った正臣は、とりあえず身構える。
「では……はじめ!」
ショウの号令と共に戦闘が始まった。クインの杖から射出された白い浮遊魔法の魔力に対し、正臣は浮遊魔法を使って目の前で「田んぼの田」を描くように振るう。
浮遊魔法の浮遊させる力は白い魔力に宿る。そして、白い魔力同士はぶつりかり合えば押し合いが始まる。押し合いの勝敗は、魔力を放出し続ける勢い次第であり、それらの出力は本人の腕次第。
ただし、魔力量の限界は体格による。同じ出力で放出し続ければ、先に尽きるのは小さい方だ。
「よっ、と」
それが分かっている正臣は、その盾のつもりで張った田で少し押し留めながら、反対側の杖で浮遊魔法を放つ。
白いオーラがまぁまぁの速度でクインに迫る。そのクインは箒で飛び上がり、こちらの攻撃を回避しつつ、一度浮遊魔法を解く。
こちらも盾と攻撃を解いてから、上を見上げた。杖を二本持ったまま敵の攻撃に備える。
「そこ!」
向こうから来る魔法を片手の杖でガードしながら、反対側の杖で射撃。
その射撃は避けられ、さらに連発してきたのを片手で凌ぎ続けた。
正直、魔法戦に関しては今まで三ヶ月、エルフの母ちゃんに相手してもらっていただけあって、人間相手だと何か物足りなくて。
特に、PvPゲームは前の世界で超やりこんでいたし、多少性能が劣っていようと化かし合いなら負ける要素もなくて。
「ほら! そこ! どうしたの、マサオミ? 凌いでばかりじゃ勝てないよ!」
連射してくるのをとにかく防ぎ続ける。相手は片方の杖を箒にしているため、片方の杖からしか魔法が飛んで来ないのは分かりきっている。
それらを適当に凌ぎながら回避に徹しておけば、後は最初に放った魔法の軌道を変えるだけ。
「ほら、そこあれっ……?」
クインが飛んでから最初に放った浮遊魔法。あれをずっと解かずに生かしておいた。
魔力の軌道はクインに見えているが、しばらく放置したまま相手が攻撃に夢中になる程、防御に徹しておけば、いずれこっちの攻撃は向こうには見えなくなっていて。
あとは軌道を変えて死角から穿つだけ。
「技有り! 勝者、シルア!」
「なっ……そ、そんな……!?」
この世界の人は良くも悪くも素直な人が多い。だから、この手の絡め手は結構簡単に通用する。……まぁ、他の生徒達は他の生徒達でタイマン張っているので、誰も見ていないわけだが。
こう言うとこ見ててくれないと、正臣の悪いイメージは一生、払拭されない気がする……。
「はぁ……虚しい」
「何がだよ!?」
「えっ? ……あ、聞いてた?」
ヤバい、最悪のタイミングでクインがこっちに駆け寄ってきていた。いや、別に勝ったことに虚しいと言っているわけではないのだが……当然、そんなの言われたと思っている人物には言い訳でしかないわけで。
「へ、へ〜? 僕に勝つのは、嬉しさより虚しさが込み上げてくるくらい当然のことであると……?」
「い、いやそんなつもりは……」
「もっかいだ……もっかい!」
しまった、面倒臭い負けず嫌いスイッチが入ってしまったらしい。真っ赤な顔で頬を膨らませたクインが喚く。
正直、この後の展開は目に見える。どうせ、勝つまで「もっかい!」が続き、授業が終わり、休み時間にまで付き纏われ、風紀委員長に喧嘩と思われて怒られるまでが1セットだ。
それを断ち切るには、ここで断るしかない。慎重に言葉を選ぶ。
自分以下の実力、と言うわけでもなく、テクニックがどうこう言うわけでもなく……と、考えてから、とりあえず言ってみた。
「あ、あの……もう少し作戦を考えてから挑んでくれない、かな……? 手数を増やすだけならイエティでも出来るからさ……」
言った直後、膨れっ面だったクインの顔が、さらにふくらむ。眉間に皺がより、額に青筋が浮かび、今にも殴りかかってきそうな程の怒りを露わにする。
どうやら、また言葉の選択肢を間違えたらしい。自身のコミュニケーション能力が憎たらしいほど低いことを思い知らされる。
「あーそうですかっ、どうせ僕は脳筋バカですよ!」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
「覚えてろよ、次戦う時は絶対完膚なきまでに叩きのめしてやるからな!」
そう言われて立ち去られてしまった。なんかまた怒らせてしまったが……まぁ、落ち着ける時間ができたと思えば良いだろう。
のんびりする事にした。この時間に、セレナがいる森で何を作るか考え……。
「おーい、マサオミ! 次は俺とやろうぜ!」
「……」
遠くからリョウが手を振って来たので、諦めて相手をすることにした。
×××
さて、放課後。珍しく図書室に行っていた正臣は、借りた本を部屋で読んでいた。20冊ほど。
セレナの為なので、ここは一つ本気で何か役に立つ施設を作って差し上げたい。
なので、それらの本は全部、建築関係の本だった。
「……うーん、やっぱ俺の魔法だと木製以外は時間かかるよなー……。トイレを作るにしても、壁で囲ったら臭いとか残っちゃうし……やっぱり、トイレにするなら魔法で換気扇作るか……芳香剤置くか……」
この世界の困った所だ。割と人里離れた場所に一人で住んでいる人の家は、トイレが無いことも多いらしい。
セクハラとか、露出魔とか、そういう概念はあるけどその手の規制は誰にも見られない環境だとかには弱いみたいで、前の世界ほど厳しいわけではない。
その点の治安は、前の方が良かったのかもしれない。
まぁ、まだトイレを作ると決めたわけではない。他に何かあった方が良いものがあるか探すためにのんびりと本を眺めていると、部屋の扉が開いた。
「マサオミ! やっと見つけたぞ!」
「……うわっ、び、ビックリした……え、探してたの?」
クインが後ろに立っている。ゴロゴロ床の上で寝転がりながら本を読んでいたので、少しなんか申し訳なくて慌てて姿勢を正した。
しかし、何の用事で探していたのだろうか? ……まさか、一緒に帰りたかったとか? それは少し嬉しい。最近、なんだかんだずっと一緒にいるし委員会も一緒だし、仲良くなれたと思っていた……。
「勝負だ! さっきの授業の続き!」
「……」
まだその話してんのかよ……と、一気にため息が漏れた。落胆しかない。まぁ、元々そんなに仲良いわけでもないし、むしろなんか嫌われているっぽいし、それはそうなるだろう。
「……あの、今本読んでるんですけど」
「後で読めば良いでしょ!」
「いや、図書室で借りてきた本だから、早めに読んで返さないと……」
「二週間も借りれるんだから、別にそんなの……え、なんかすごい量あるけど……何冊借りたの?」
「20」
「バカじゃないの?」
え、何バカって……と、唐突な暴言に冷や汗を流す。
「ていうか、そんなにたくさん何の本を借りたのさ」
「建築関係」
「建築? ……ああ、もしかして、校外学習の?」
いや、実家の増設なのだが……まぁそれで良いや、と思うことにして続きを言った。
「う、うん……オーキスさん用のスペースが必要なんじゃないかと思って……」
「……僕のために?」
あ、適当な言い訳つけるんじゃなかった、と少し後悔。なんかちょっと感動されてしまっていた。いや、まぁそれも考えていなかったわけではないけども。
「ま、まぁね……」
「っ、し、仕方ないな……僕も手伝うよ」
「え、な、何を?」
「本を読むの。お互いに情報を仕入れて出し合った方が早いだろう?」
なるほど、と少しありがたい。やるなら効率的な方が良いし。
さて、そのまま二人で本を読む。この世界の建築は、簡単な小屋程度なら素人でも出来る。木を切るのもくっ付けるのも魔法でなんとかなるからだ。
重要になるのは変形魔法。木の形を変えて変形させれば綺麗な板が作れるし、プラモデルのように差し込んでピッタリ接合させたりすれば良い。
あとは、四人に耐えられる強度を考えないといけないが……まぁ、正直それは問題ない。外見のウェイトは、女子みたいに小さい正臣、男子と同じくらいの女子、女子みたいな女子二人で他の班と比べると軽めではあるから。
本を読みながら、クインは声を掛けてきた。
「内装、凝っても良いし凝らなくても良いとか言ってたけど、僕らは凝らざるを得ないよね」
「え? あ、うん」
「まずどれくらいの広さにしよっか」
言われて考える。先生は寝るだけの場所、と言っていたが、絶対条件として男子と女子を区切る壁は作らなければならないだろう。
それを考えると……この部屋の間取りで考えて、ベッドが二つ、そしてその間のスペースはベッドより少し大きいくらいのスペースしかない。
つまり、この部屋1.5個分くらいで足りそうだ。
「こ、この部屋1.5個分くらいで良いんじゃないかな……」
「あ〜……まぁ広さはそんなもんかも。枕投げとかするなら、もう少し広めの方が良い気もするけど」
「……えっ、す、するの?」
「しない」
……気の所為だろうか? 少ししたそうに見えるが……いや、でもそれを聞くと前提が崩れる。
「あの……部屋の真ん中に、男女を区切る壁、置くよね……?」
「いや、それはいいよ。僕がカーテンを持って行くから」
「えっ……か、カーテンで大丈夫……?」
「……マズいかな?」
「分かんないけど……」
影で体型とか普通にバレたりしそうな気がするから普通に不安だ。
しかし……それを口で言うとセクハラになりかねない。いや……でもさっきも言葉選びを間違えたし……もうこれむしろ、全部言ってしまった方が良いのかもしれない。
「あの……これ、セクハラとかじゃなくて単純に気になるから言うんだけど……」
「………何?」
「きっ、着替え中の影とか、万が一見られたら……その、体型とかでバレちゃうんじゃないかな……?」
「……」
言うと、一瞬だけ頬を赤らめた後、すぐに目を逸らして顎に手を当てる。恥ずかしい話題だけど……確かに、と思っている顔だ。
「……早起きすれば、バレないんじゃない?」
「え……」
それは……どうだろうか? あくまでも前の世界の話だが、比喩としてあげてみることにした。
「あの……あくまで俺の想像だけど……同じ班の二人、女子だし……その、オーキスさんに見られると思ったら、早起きして寝癖直したりするんじゃない、かな……?」
何せ、同じ班になった時、声をかけていたのはクインの方だった。カエデはまぁ自分と友達だから、と言うのもあったかもしれないが、少なくともウメカは正臣に微塵も興味はなく、クインにだけ注目していた。
ならば、当然寝癖だらけの顔を見せようとは思わないわけで。
……という会話を、中学のスキー林間前にしているクラスメートの女子がいたことがある。その話を男子である正臣の前でしていた時点で、本当に置物程度にしか思われていなかったんだな、と思わないでもないが。
「……な、なるほど。確かに、僕モテるし」
自分で言っている……が、家柄も含めてのことと理解しているし、むしろ自覚して当然だろう。クイン自身、女の子だから嬉しくもないだろうし。
そのクインは、不意に笑顔になって正臣に小さく会釈する。
「ありがとう、マサオミ。君にバレて良かったのかもしれない」
「っ……」
こんなクソイケメンなのに……ちょっと笑顔が可愛いとか思ってしまった。
なんか、初めて褒められた気がして、嬉しさから頬が赤く染まる。
どうやら、自分は今まで余計なことを考え過ぎていたのかもしれない。予防線を張る、と言うと聞こえは悪いけど、それでも「そんなつもりはなかったよ」と言わなければ分からないのだ。
とりあえず、ここは謙遜しておいて、このまま間取りを決めてしまおう。
「そ、そんな事ない、よ……。ただ……あ、これもセクハラのつもりじゃないけど、この前窓から見ちゃった時すごくおっぱい大きかったから、バレるんじゃないかなって普通に思ったから言っただけで……」
「今のはセクハラだろー!」
「ええええっ!? な、なんで!?」
一気に襲いかかってきて、両頬を引っ張り回された。
「いふぁふぁふぁ! や、やふぇろー!」
「大体、君のデリカシーはどうなってるんだ! 普通に考えて今のは違うだろ!」
「ご、ごふぇんふぁふぁい!」
「まったく……ほんとに訳のわからない奴だな……! 見直して損をした……」
ビンッ、と手を離され、ヒリヒリした感触だけが頬に残される。
いや、そこまで怒るならそもそもの話、どうするつもりだったのか。
「ていうか……俺に男ってバレる前は、どうするつもりだったの……?」
「休むつもりだった」
「えっ」
真面目そうに見えてすごい不真面目なことを言われた気がした。学校最初のイベントになんてことを言い出すのか。
「そ、それで成績とか、大丈夫なの……?」
「……どうせ、その……僕の魔法の腕は、同学年なら誰よりも上だと思ってたから。休んでも試験の成績で取り返すつもりだったの」
まぁ優等生なのは間違い無いだろう。他の人と比べても、魔法の精度や威力はかなり差があるから。
「じ、じゃあ……別に休んでも良いんじゃ……」
「は? 君に負けたままの身でサボるわけがないだろう。多少のリスクを負ってでも、君には負けない」
「……」
……本当に負けず嫌いだ。なんでそういうところなけ子供みたいになるのか……と、思わないでもないけど……。
でも、そういうところは高校生らしいと言えば高校生らしい。見た目や話し方とのギャップでちょっと可愛くさえ見えてくる。
「そ、そう……」
でも、残念ながら仮に杖有りの正臣に勝てても、杖無しの正臣の方が強いのでそっちには勝てないだろう。つまり、ハンデがあると言うわけで。
……そう思うと、杖が無くても戦える自分のことなんて絶対にバレてはならないと言えるだろう。言えば……勝負を挑まれる回数が増える。
「……それで、どうする? 小屋」
「う、うん……まぁ、正直俺達だけで内装を決めて良いわけないから、今相談してもだと思うんだけど……」
「じゃあ何で借りてきたんだよ!?」
真ん中に壁を置く、と言う点が決められたのは良かったけど、それ以外は決めることなんてないだろう。
借りてきた理由はそもそも親の小屋を作るためだ。
「いや、その……作る時のやり方とか、こんな技術があるとか……そう言うの、調べたくて……」
「そんなのしおりに載ってるじゃん」
「や、うん……まぁ、そうなんだけど……」
作るものの目的が違うからプラスアルファの知識も必要だったが……どう言えば誤魔化せるだろうか?
少し悩む中「もしかして……」と、クインが声を漏らした。
「……どうせ作るなら、少しでも良いものをとか……そういうこと?」
「……」
それで良い気がしてきた。あながち間違っていないし。どうせセレナの為に何か作るなら、恩返しも込めているし良いものを作りたい。
「う、うん……まぁ」
「……なるほど、そういうところか……」
「えっ、な、何が……?」
「何でもない」
もうその後は何かを言われることはなかった。二人でそのまま晩ご飯の時間まで、黙々と本を読み続けた。
×××
翌日の放課後。校外学習が迫ってきたこともあって、一年生達はその日のための準備をする。持ち物と言えば着替え、しおり、歯ブラシ、杖くらいなのだが。
今まで泊まりごとのイベントは全て休んできたクインは、今回がなんだかんだ初体験。だからこそ早めに準備は終わらせた。
なので、近くなってきても普通に委員会に参加するため、今日も委員会に顔を出してきて、最終下校時刻になって寮に戻って来た。
部屋の扉を開けると、思わず半眼になる。昨日は本だらけだったのに、今日はなんかよくわからない細かな部品が大量に落ちていたからだ。
その中心にいるのは腹たつほど魔法の腕が立つ相部屋の少年、マサオミ。
こいつも、校外学習の準備だろうか? ……いや、にしてはなんか余計なものが多い気がする。ドアの蝶番のパーツとか。
何しているのだろうか? うん、分かんないし聞いた方が早い。
「……何してんの?」
「っ!? あっ、ご、ごめんなさい。片付けるね……!」
「いや、いいけど……何してんの?」
「そろそろ校外学習だから……その、出掛ける準備」
「……え、どれとどれが?」
「こういうの……」
そう言いながら見せてきたのは、蝶番。まさかとは思ったが、持っていくつもりらしい。
「えっ、それ君持っていくつもりなの?」
「う、うん。扉、これ使うかなって……」
いや、いらない。絶対いらないが……わざわざ買ったのだとしたら言いづらい。……いや、でも言ったほうが良いだろう。荷物になるだけだ。
「いらないでしょそんなの。ただでさえ自力で飛んでいくのに重たいだけだよ」
「えっ、そ、そんなっ……せっかく作ったのに……?」
「えっ、そ、それ作ったの……?」
「う、うん……変化魔法で石を変形させて、何とか……」
そんな細かいものをよく作れるもんだ……と、思った反面、それなら遠慮はいらないと思って思いっきり言った。
「でもいらないから。てか何に使うのそれ」
「つ、ツリーハウスの扉だよ……。これくらい細かい部品は作るの、時間かかるから……その、あらかじめ用意しておこうかなって……」
「引き戸にすれば良いでしょ!」
「……あっ、そっか」
本当に優秀なのか抜けているのかわからない子だった。絶対におかしい。
「じゃあ……まぁ、これは今度何かに使おう……というより、記念にしよう」
「何のだよ……ていうか、普通に校外学習の準備はできてるんだろうな?」
「え? あ、は、はい……一応は」
ベッドの上のリュックを指差された。いや、旅行の準備くらい当たり前にするものなのだが……なんかちょっと不安になってきていた。
「……中、見ても良い?」
「良いけど……」
とりあえず、鞄を手に取って中を覗いてみる。まず飛び込んで来たのはパンツだった。
「ーっ!? ち、ちょっと!」
「うーん……蝶番がダメってなると……窓の鍵もいらないかな……」
「聞いてんの!? ちょっとってば!」
「っ、あ、お、俺?」
「君しかいないだろこの部屋には!」
「ご、ごめんなさい……」
「人が見るってんだから、トップにパンツが置いてあることくらい覚えといてよ!」
叫びながら鞄を叩きつけてしまう。よく良いって言えたものだ。
「え……あ、ごめん」
「っ、まったくもう……!」
今まで泊まりのイベントは全て避けてきたし、着替えの時だって教室ではして来なかったからあんまりその手のものに慣れてはいない。
このアホな男も、そういうの気遣って部屋の中で下着を脱ぎ散らかしたりはしないが、こういう時にボロが出ている。
鞄を一度手渡してから、パンツだけ抜いてから改めて見せてもらう。
着替えは二日分入っているし、歯ブラシもあるし、パジャマもある。杖だけ相変わらず二本しかないけど、それも大丈夫だろう。
……ただ、気になるのは……建築用の本だの、天然記念物の図鑑だの、フラグゲッター入門とかいう本だの、大量の本が中に入っていることだ。
「この本邪魔でしょ」
「えっ……な、なんで……?」
「持って行ってどうするの……。現地で読むつもり?」
「な、何かの役に立つかなって……」
「立つかもしれないけどデメリットのが大きいから!」
「で、でも……狩猟の時、初心者は何が起こるか分からないんだから可能な限り物を持って行けって母さんが……」
「校外学習で狩猟はやらないから!」
ダメだ、こいつ不安しかない。班員になった以上、面倒は見なければならないので、もう世話を焼くことにした。
「とにかく、持って行くものは僕が指示するから、いらないものは置いて!」
「え……いらないものあった?」
「話の流れを抑えとけよ!」
ちょっとイラッとしながら、とりあえず荷物を全て出させた。ついでに、部屋も片付けさせた。
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