校外学習編
会議
さて、校外学習の日が近づいて来た。一年生が少し遠出をして、キャンプをすると言うイベント。キャンプ、と言っても学校が持つ施設に泊まるので、どちらかというとクラスメート同士で仲良くなってもらうのが目的……ではあるのだが。
今日はその職員会議。一年生の教員と校長が会議室で会話していた。
「どうしますー? 今年の校外学習ー」
そう聞いたのは、アイザック・アップル。一年生の物体浮遊授業担当教員だ。
「ああ、そうだな。どうするか」
「なんか問題起こりそうなんだよなー」
「結構、濃い奴多いしな。特に二組」
他の教員達も小さく頷く。毎年恒例、新入生だけで行われる校外学習は、二泊三日の泊まりがけでいく学外でのイベントだ。
毎年、行く場所は決まっているのだが……今年の一年に二人ほど問題児がいると、風紀委員から上がっている。
クイン・オーキスとマサオミ・シルア。入試の成績2トップの二人であった。
何がすごいって、風紀委員に目をつけられ、腕を買われて何故か風紀委員に入っちゃっているあたりである。
まぁ、別に構わないけど……何か問題が起こりそうな気がしてならない。というより、起こしそうだ。
「担任のライトニング先生はどう思われますー?」
アイザックにそう聞かれた男は……会議中にも関わらず手元にある本に目を落としたまま、ぺらりと1ページ捲り……くすっと笑みをこぼす。
それを見るなり、ニコニコ微笑んだままアイザックは杖を呼んだ。
「吹っ飛んでくださ〜い」
「いやいやいや、アップル先生落ち着いて!」
「それはまずいって! アップル先生の浮遊魔法受けたら無事じゃ済まないから!」
「ていうか、ライトニング先生! あんたも今会議中でしょうが!」
そんな声を掛けられてようやく顔を上げた。耳の中を小指で穿りながら、呑気な顔で聞き返す。
「……えっ、何? 俺に話しかけてる?」
「そうだよ!」
「てか、会議は教員全員に話しかけてるもんだよ!」
「あーもちろん聞いてた聞いてた。やっぱ、今年のドッジボール代表戦もベスト16止まりな気がするわ」
「「「誰がそんな話題してたよ!?」」」
周囲の教員からツッコミが炸裂する中、一人落ち着いた様子の校長が笑みを浮かべたまま聞いた。
「ライトニングくん、君はどう思う? 今年の校外学習は」
「ん……そうっすね。別に今まで通りで良いでしょ。問題児っつっても、二人とも風紀委員だし。……てか、そもそも問題児に問題起こさせねーのは俺ら教員の役目でしょ」
そのセリフに、職員室にいた教員達は息を呑む。確かにそれはその通りだ。風紀委員会という組織があれど、基本的に生徒を保護者から預かっている先生が面倒を見なければならない。
だから、問題児がどうこうなどは関係ないのだ。
……でも「いやあんた会議中に漫画読んでた癖に」という感覚だけは妙に抜けなくて。
「ふふ、その通りだ。じゃあ、みんな例年通り頼むよ」
校長の一言でとりあえず会議は先に進むことになった。
×××
ホームルームという授業が、どうにも正臣は苦手だった。
魔法に関することは何もせず、クラスのイベントやら何やらの話をするわけだが……まーつまんない。だってクラスに友達いないから。
や、正確に言えば……少し話せる人達ならいるけど……でも、自分に話しかけてくる時点で、その人たちに友達が多いのは明白だ。
なので、この先生が来るまでの待機時間も暇でしかない。
「はぁーあ……」
ため息を漏らしながら、窓の外を見る。この世界も、漫画とかあるしスポーツも盛んではあるけど……なんかこう、こういう時にできる暇潰しがない。スマホがないからだろうか?
今度、図書室で本でも借りて来ようかな……なんて思いながら待機していると、教室にアルバが入ってきた。
「はーい、全員お喋りやめろー。日直号令しろー」
相変わらずすっとぼけたような気が抜ける声を出すものだ。お陰でこちらとしてもやる気が失せていく。
日直の号令で挨拶を済ませて座ると、先生は魔法で黒板に文字を書いていく。
そこに記されたのは「校外学習」の文字だった。
「今日はこれについて話すから。全員、勝手に喋ったら殺されると思えよー」
と、しれっと脅迫しながら先生は浮遊魔法を使ってプリントを配り始めた。
正臣の前にもヒラヒラと落ちてきたので、そこに目を落とす。
トップには「キリサメ山で校外学習〜気になるあの子と仲良くなる第一歩〜」と書かれている。
「一年は毎年恒例のイベントな。このダッサいサブタイつけたアップル先生は見かけたらクソほどいじって良いぞ」
無慈悲なことを生徒に言うアルバだったが、正直確かにクソほどダサいと思うので何も思わない。
……と言うか、あの先生は一体、何を期待しているのだろうか……いや、まぁ正臣も全く期待していないわけではないが。
「で、だ。今配ったプリントに書いてあっけど……あー、なんだっけ。全部読み上げんの怠いから要点だけ言うと、新しく高校生になったしここらでみんなでなんかしようって事な」
適当にも程があった。そう言う狙いはあるのかもしれないが、それをまさか正面切って言い出すとは。そう言う裏の意図は生徒に気付かせないものなのでは……。
軽く引いている間に、先生は続きを言った。
「で、下の方。ざっくりしたスケジュールな。2泊3日で、俺ら2組は週の前半。キリサメ山まで全員、飛行魔法で移動した後、到着後は昼飯。この昼はコッチで用意したもん出す。午後は半日使って魔法で班ごとにツリーハウスを建てるから」
えっ、ツリーハウス建てるの……? と、冷や汗。いや、確かに魔法を使えば可愛的なものなら建てられそうだが……下の方に「そのツリーハウスで寝泊まりしてもらいます」と書いてあるのは気の所為だと思いたい。
「班ごとにこれ作って、ツリーハウスで寝るのもその班で寝てもらう。まぁ、ツリーハウスは睡眠以外で使わねーし、布団はこっちから貸し出すから内装はそこまで凝らなくて良い。凝りたい奴は凝れば良いけど。……あ、課題とかもあるし、机とか椅子も作りたい奴は作って良いぞ」
雨が降った場合はどうするのだろうか? 木の屋根じゃ不安なのだが……いや、まぁスペル魔法で浮遊魔法を屋根の上にかければ雨を浮かせる事も可能ではあるし、そういうことだろう。
下の方に「ツリーハウスの作りは最終的に先生のチェックが入ります」と書かれている。
「で、終わったら風呂。近くに学校の施設があるから、そこで班ごとに入ってもらう。その後で飯。食材と食器は用意するから、各班でカレーを作ってもらう」
カレー……まぁ、もうまさに「学校のキャンプ」と言う感じだ。青春に憧れを抱きまくっている正臣としては、楽しみでしかないまである。
「で、二日目。早朝6時に起床して朝飯。その後、午前中はキリサメ山の探索。班ごとに山の中を見て回り、この山にある天然記念物を探してもらう」
そんな事するのか……と、思ったが、この世界の職業についてまだ何も分からないので、こう言う自然の中で歩き回るのも必要なのかもしれない。
「見つけたら記録魔法で後で見せろよ。対象の天然記念物はこっちから後でプリントにして渡すから、最低でも4つは見つけてくるように。その後でレポートも書いてもらう」
猟師の息子としては、ちょっと見てみたいな、と思わないでもなかったり。と言うか、そもそもこっちの世界にも天然記念物があることに驚きだ。
「で、昼飯はまたこっちで用意すっから食ってもらって、そんで午後。クラス対抗競技を行なってもらう」
そんなのやるんだ……と、思いながら視線を落とす。書いてあるのは「クラス対抗フラグゲッター」だった。
フラグゲッターについては自分も知っている。風紀委員の仕事をこなしているうちに、その部活を見たことがあるからだ。
「これ、やるから。しかも四クラスいっぺんにやるから四つ巴な」
ルールは、今回は四クラスなので四等分した陣地を使って、その一番奥に旗を用意する。
選手は射撃特化の杖のみ使用可能で、撃たれた選手は退場。そんな中で敵の陣地に潜り込み、包囲網を突破し、旗を奪えば勝利……というゲームだ。
今回は魔道具で出したフィールドではなく山を使うので、遮蔽物も重要になりそうだ。
……面白そうだ。
「うっげー、くっそ体力使うじゃんこんなん……」
「一日目はツリーハウスも建てるんでしょこれで」
「山の中も散歩してからだし、結構ハードじゃんこれ……」
だが、異世界で暮らしてきた生徒達にとっては割としんどいらしい。少なくとも、正臣が元いた世界の校外学習では、座学とラジオ体操とかいうしょうもないにもほどがあるスケジュールをやらされていたのでそれに比べれば全然楽しそうな気もするが……。
でも……一人だけはしゃぐのはなんか恥ずかしいので、何も言わないでおく。
ブーブー言う生徒達の前にいるアルバは、それを聞きながら真顔で続けた。
「あーちなみに、優勝したクラスはその夜のバーベキューでミノタウロスの肉が配られるぞ」
「っしゃ、お前らやんぞコラァッ!!」
「「「うおおおおおおお!!!!」」」
リョウの号令で全員が立ち上がって拳を突き上げた。思わずその怒号にビクッと肩を震わせてしまったほどだ。
「えっ……な、何……?」
「ちょっと、何ぼさっとしてんの、マサオミ」
後ろの席から肩を叩かれる。振り向くと、いつになくテンションが高いクインが声を掛けてきていた。
「ミノタウロスだよ。みんなで力を合わせないと……!」
「え……あ……は、はい……」
だが……いまいちピンと来ない。もしかしたら高級食材なのかもしれないが、食べたことないしなんならゲームの中ボスというイメージしかないのでよく分からない。
牛、だからとか? 黒毛和牛的な? しかし、別に舌が肥えているわけではないので、高級肉と普通の肉の差が分からないので、やはり全くピンと来ない。
「あ、あの……ちなみに、ですけど……そんなに美味しいの……?」
「美味しいよ。何がすごいって歯応えが。コリコリしてて、それでいて噛み切れないほど硬くない感じ。お父さんが一回だけ食べさせてくれたんだけど……もう、すごかった」
「そ、そんなに……」
まぁ確かに正臣もそう言う牛タンみたいな食感のものは好きだ。そう思うと少し楽しみになる。
周囲の生徒達も一気にテンションが上がってザワザワとお喋りが始まる中、アルバが全員に言った。
「はーい、全員黙れー。次喋ったら耳にドライバー差し込んで頭のネジ閉めんぞー」
拷問みたいなことを言って黙らせる。あの人の発想とてもいかれている。
「ま、確かに一位を取らなきゃいけないわけだが……その対策会議は後でやるから。とりあえず説明を続けんぞ」
確かに、まずはやるべきことをやらなければならない。後で説明し損ねました、は困る。
「で、それが終わったら今言ったようにバーベキュー。そのあとは風呂入って……で、その後、肝試しをやる」
うわ、それやるんだ、とため息。まぁ確かにそういうのも合宿の定番ではあるし、嫌なわけではない。
お化け屋敷は苦手だけど、肝試しは苦手ではない正臣にとっては夜の散歩と変わらない。
「で、それが終わったら就寝な。次の日も6時起き。朝飯食ったら後片付けして集合写真撮って帰宅。学校には大体、13時半〜14時に戻って解散になる」
意外と早く解散するらしいが、まぁ最終日なんてどんな行事でも帰るだけだし、それが各々の飛行魔法での帰宅なら尚更なのかもしれない。
「ちなみに、その日ごとに班長はレポートを書いて提出させるから。適当なこと書いたら成績に響くと思えよ」
えっ、そんな面倒なことするの? と思ってプリントを見ると本当に書いてある。前の世界でもそういうのあったし、ホント学校のそう言うところはどこの世界でも同じなようだ。
違う点といえば、班長がまとめるレポートは班員全員で出し合った意見を元に作るらしいので、全員参加が基本らしい。前の世界では班長に丸投げするのでその辺はこっちの世界の方が良いことなのだろう。
「もっと詳しい事が書いてあるプリントは今度、配るから。今日決めるのは〜……あー、まず班分けか」
それを聞いて、生徒達は再びテンションが上がる。え、これ席で並んでいる人達順で決まるんじゃないの? と、思ったのも束の間、すぐにアルバがだるそうに言った。
「正直、お前ら思春期が誰と組んで誰と仲良くなって誰が乳繰り合おうが知らねーから、3分で組む相手決めろ。男女混合でも良いけど、間違いとかあったら退学だからなー」
間違い……それはつまり、情事的な話だろうが……まぁ、少なくとも正臣は問題ない。だってもう既に男女同室で暮らしているし。
人間の理性ってエロ漫画みたいに脆いものではなくて、普通に全然保てる。時間が経てば経つほど慣れて来るし。
「あー……てか、こう言う遠回しな言い方すると通じないバカもいるから言うわ。セ○クスすんなよお前ら」
バフォッ、とクラスメート全員が吹き出した。まさかの直球に、全員が吹き出すと言うレアな場面。その物言いに、みんな照れることもしなかった。
そんな中、クラスのギャルであるカエデが椅子を鳴らして席を立つ。
「ちょっと先生! セクハラ!」
「バッカお前、全員どういう意味で言われてんのか分かってんのに意味ねー真似してどうすんだ。……てか、俺はお前らガキどもが照れてるとこ見て悦ぶ程、ガキ趣味じゃねーから安心しろ」
そう言う問題じゃない気もする……と、正臣が思っている間に、アルバはぬぼーっとしているのに何処となく真剣に見える顔で続けた。
「つーか、男子にしろ女子にしろ……もしくは、強姦にしろ同意の上にしろ、その手の行為は退学じゃ済まねーから気をつけろ。学校では退学だけかもしんねーけど、その後もやっちまった事は一生付き纏う」
そう言いながら、アルバは黒板に文字を書く。男の子と女の子を書いた後、その下に棒人間で交わっているようなイラストを描いていた。色々とお構い無しである。
「例えば、この男の方をシルア、女の方をオーキスとする」
「お、俺らがモデル!?」
「て、ていうかなんで僕が女なんですか!?」
唐突な爆雷に二人揃って立ち上がりながらツッコミを入れてしまった。
……というか、そうだ。あんまりにもバレそうにないから忘れていたが、クインは女の子。なのに、なんでそんなモデルを……と、二人して嫌な汗をかく。
だが、アルバは真顔で言い返してきた。
「いや……ここで男女を指名したらガチのセクハラになっちまうだろうが。男同士ならネタで済むし」
いや男女を指定しているわけだが。しかも、同室の。
「だ、だからってなんで僕が……!」
「そりゃお前、シルアのが魔法の腕が良いから」
「よし、マサオミ! 僕と勝負だ!」
「え、嫌ですけど……」
「僕を舐められたままにするつもりか!?」
「いや授業中だし……」
「そうだぞ、奥さん。いいから黙って聞け。大事な話だ」
「誰が奥さん!? てか、誰発信でこんなこと言わされてると思ってんだよ!」
そんなツッコミが炸裂すると、アルバは無視。そのまま黒板に図を描き始める。
「この二人が、校外学習でセ○クスしたとする。それが、その時にしろその後日にしろ、バレたとする。そしたら当然、退学になり、お前らは学校の外に行かされる」
矢印を二本書いて、別の場所に男女の絵を描いた。
「そしたら、お前らの両親にも当然ながら非難の目が向く。子供ってのはどう足掻いても親の教育を受けるし、悪評ほど早く広がるもんだ。特に、オーキスの親は警備隊ウェッジ支部長。それが不純異性交遊なんて働いたら、市民も警備隊員も面白おかしく噂して地位を追いやられるかもしれない」
父親と思わしき人物を、矢印の先にいるクインの横に書いた後「ゴミ」「ダメ娘」「性欲モンスター」「教育も出来ない親」などの暴言で二人を囲む。
「それは、シルアの親も一緒だ。確か、猟師だったな? 買取先が買い取ってくれなかったり、仕事の邪魔されたりすることもある。悪評一つで周りの人間は人を虐めて良いと思うモンだ」
そう言いながらチョークを置くと、正面を向き直って生徒達に言う。
「……親の金で通わせてもらったのに卒業どころか一ヶ月で退学になるだけでなく、親にまでデバフをかけちまう。魔法も身につけられないし、学歴も得られない。たかだか一時の快楽にどれだけのリスクがかかるかよく考えろよ?」
正直に言って……そこまで具体的に例を説明されると、全身が縮みこむわけであって。確かに、ちょっとした若気の至りが生活をも変えかねないんだな……と、冷や汗。
前の世界の学校では「ルールだから」「退学になりたくなかったら」としか言われないだけでなく、そもそもがルールに「男女は別の部屋」という物が設けられる。
そう言うやり方しかしないで「なんでダメか」「どうなってしまうか」を理解させないからルールを破る奴が増えるんだろうな……と、なんとなく分かる。
しかも、退学を言い渡されたら、親が「なんで学校のルールでこの子の人生をダメにされなければならないんですか?」とかほざき出す場合もある始末。
説明責任と厳しい対処の重要性を限りなく学んでしまった。
同じように他の生徒達も少しシンっ……としてしまう中、恐る恐るクインが手を挙げた。
「なんだ、オーキス?」
「でしたら……やはり、最初から男女別のルールにしてしまえば良いのでは?」
「バッカお前、この先どんな職につくか知らねーけど、男女同じ空間の中で眠ることもある奴だっていんだろ。社会で経験する事を今のうちに学ばねーでどうすんだ」
それもその通りなのかもしれない。というか……目の前の人は適当なだけだと思っていたが、割と生徒のために色々考えてくれている人らしい。
クラスの面々が少しだけポカンとする中、アルバはすぐに言った。
「余計な時間食ったな。とにかく、さっさと班決めろ。男子だけ、女子だけの班でも良いし混合でも良い。3分以内な」
そういえば、そういう話だった。さて、好きな人と組めるのか……と、思いながら周囲を見渡すが……そこでハッとする。
好きな人と組む……それは、前の世界から引きずってきた数多いトラウマの一つであって。
「あっ……あわわわっ……!」
どうしよう、誰と組めば良いのだろう? と、少し怯えながらとりあえずリョウとボルトの方へ目を向けたが、二人は二人で組んで女の子に声をかけている。あのバカコンビ、今の話を聞いていたのだろうか?
ちょっと不安になる中……そっと後ろから手を置かれる。
「マサオミ」
「しゃうっ!?」
「え……なんで猫の威嚇?」
びっくりして変な声を漏らしながら後ろを見ると、そこにいたのはクイン。
「僕と組んで欲しい。……性別知ってる人がいるとありがたいから」
「……だよね」
その予想をしていたわけではないが、まるで予感はしていたように腑に落ちる結果に収まった。確かにその方が良いだろう。
さて、班員は四人らしいので、後二人。……正直、クインと二人班で全然構わないのだが……残念ながら端数はないので仕方ない。
それに……もしかしたら、また新しい友達ができる機会かもしれない……なんて少しそわそわしている時だった。
「オーキスくんっ、私達と組まない?」
うわ、女子じゃん、と冷や汗をかく。今の先生の話を聞いていれば、普通の神経ならば同性同士で組むだろどう言う感覚してんだこの馬鹿と思いながら目を移すと、そこにいたのはカエデ・ラクーンともう一人だった。
ついこの前、友達になってくれた女性である。
「……ラクーンさんと、ウィルスンさん」
クインも少し困惑している。……というより、異性より同性の方が正体に気付かれそうで怖い、と言う感じだろうか?
だが、断るに断れない。さっき先生が適当に言った「クインが女役」と言うのが響いているのか、下手に断ったらバレるかも、と思っている様子だ。
「オーキスくんは誰と組むの?」
「……か、彼だよ……」
「げっ……アンモナイト」
「……」
……相変わらず、女性からの印象はかなり悪いらしい。ウィルスンと呼ばれた黒髪だけど一部を赤く染めているギャルっぽい女子生徒が露骨に嫌そうな顔をされてしまった。
嫌ならいいですけど……と、半ば拗ねながら目を逸らすと、カエデが瞳をキラキラと輝かせながら言った。
「えー!? マジで!? 超心強いジャーン。風紀委員二人同じ班とか……最高っしょ!」
「えっ、アンモナイト風紀委員なん? アンモナイトなのに?」
「そうだしマジで。めっちゃ強いから。ヤンキーの先輩ビビらせるし、この前も風紀委員長と話しながら歩いてんの見たし、ガチヤバいから」
「マジかー。じゃあ戦力にはなる感じ? ヤバっ、うちら最強じゃん」
いや、最強なのは男子二人であってあなた達では……と、思いつつ、チラリとクインを見る。仕方なさそうに頷いたので、もう受け入れるしかないのだろう。
「じゃあ……まぁ、この四人で」
「っしゃー!」
「よろしく☆」
クインが許可を出したので、班員が決まった。
さて、改まってウィルスンが正臣の方に向き直り、笑顔を浮かべて挨拶してくる。
「アタシ、ウメカ・ウィルスン。よろしく、アンモナイト」
「は、はぁ……」
アンモナイトやめろよ、と思いつつも、この手のタイプは興味がない男の名前を呼ぶのも嫌がるタイプであることは理解しているので、目を逸らしてスルーした。
「班を組んだら適当な席に座れよー。自分の席じゃなくても良いから」
との事で、クラスメートは各々、好きな席に座る。正臣の周りには、クインとカエデとウメカが腰を下ろし、なんかキャッキャと話している。
……と、そこでふと気がつく。これ……実質男一人、女三人班じゃん、と。
「……」
なんか……気まずい。クインが男役になるとはいえ、これはかなり肩身が狭いのではないだろうか……?
少し、嫌な予感をさせながら、その後の説明に耳を傾けた。
「うし、じゃあそろそろ俺が話したかったこと話すぞ」
その声音は、真剣に聞こえるわけではなく真剣そのものだった。表情も同様で、いつもはぶら下がった紐みたいにゆるゆるな顔をしているのに、今日はやたらと引き締まっている。
「今回、さっきも言ったがレクリエーション……じゃねーや、競技に勝ったクラスに良い肉が入る。当然、教員もそれを食うことができるわけだが……残念ながら、このクラスにフラグゲッター部に入部した奴はいない」
それは驚いた。……まぁ、前の世界でも牛より鶏の方が好きだった正臣としてはどっちでも良いが。
「だから……全員で今から考えるぞ」
勝つ方法、だろうか? ちょっと意外だ。なんかいつも抜けた人だし、こういうイベントごとではあまり張り切らないと思っていた。
でも……だからこそありがたい。青春を味わうために学校に通っている自分としては、先生がそういうタイプだととてもありがた……。
「バレねー反則の方法を」
「「「「そっちかよ!」」」」
珍しく、正臣も含めた全員のツッコミが教室内に響き渡った。
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