悪目立ち
昼休みは、まさかの風紀委員会本部である教室に連行された。
その上で、椅子に座らされ、二人ほど風紀委員の人をつけられた状態で待機させられている。
正臣は、それはもうビクついていた。それはもう肩を全力で震わせて。
もうこれまで、異世界の例はいくつも見てきた。割と現実は厳しく上手くいかないのは前の世界と同じ……つまり、これから起こることは簡単に想像出来る。
現実的に考えると、学校の一委員会にそんな必死になる学生はいない。だから、風紀委員会にとって現在の自分達クインは「昼休みに出勤させてくれたカス」のように映っているわけだ。
事実だし割と仕方ないとはいえ……これから何をされるか分かったものではない。杖も没収されてしまったし。
「はぁ……」
ため息を漏らした直後、風紀委員本部の扉が開かられる。入って来たのは、長いウェーブの入った茶髪をポニーテールにしている目元にホクロがある吊り目の女子生徒。
なんていうか……如何にもヤンキーっぽい「生徒を締めるために風紀委員に入りました」と言わんばかりの女子だ。
その人が入ってくるなり、自分達を見張っていた生徒達は出ていった。余程、信頼のおける人なのだろうか?
「風紀委員会委員長、グレイス・マグナスだ」
お前が委員長かよ! と思っても口には出さないが……にしてもヤンキー的な見た目がすぎる。制服さえ着崩しているし。
「俺は一年の秋から風紀委員にいるが、入学二日目からこの部屋に連行される生徒を見んのは初めてだぜ」
しかも俺っ娘だ〜〜〜と、変に感動してしまった。怒られているのに少し目を輝かせている中、隣のクインが頭を下げる。
「っ……申し訳ありません」
「あ、えと……す、スミマセン……?」
「なんで疑問系なんだよ、一年坊主」
「す、スミマセン!」
顔と口調怖っ、と肩を震わせてしまった。やはり、同年代の学生という生き物は苦手だ。空気を読む必要がある相手というのは、どうにも気を遣ってしまう。
「オーキス、特にお前はこんなことして良い家柄じゃないだろう」
「は、はい……」
そうなんだ? と、顔を上げるが、説明するつもりはないらしい。
「だからこそ……そこのちびっ子」
「っ、は、はい……!」
「お前、何した?」
「えっ……お、おれ……?」
「こいつはオーキス家……ウェッジ街の警備隊総隊長の長男だ。そんな奴が、進んで校則違反をすると思うか?」
「い、いやあの……されたんですけど……」
「だが、お前らを確保した風紀委員からは、お前が彼女に杖を向けていたと聞いたが?」
それはその通りだが……まずい、と冷や汗が流れる。いや確かに最後に魔法をかけたのは自分だが……。
「あ、あのっ……そ、それは……」
「言い訳があんなら聞いてやるよ。なんだ?」
「うっ……い、いえ、あの……」
どうしようか。性別のことは言えない。自分の親がエルフであることを隠したがるのと同じで、もしかしたらクインにも性別を隠したい事情があるのかもしれない。
ならば、ここは正直に答えてはいけないところだ。何とか気を落ち着かせてから、冷静に頭の中で言葉を並べ、答えた。
「あ、あのっ……じ、実は……その……」
「なんだ?」
「ひっ……い、いや……ルームメイトで、俺……朝、この人のスペアの杖、折っちゃって……」
「! ……お、お前……」
真相を知っているクインは、明らかに女である事を庇われた事に気がついているからか、驚いてしまっていた。
よし、少なくとも悪い感触ではない、と思っていると、キュッとグレイスの目が細くなる。
「その件で追いかけられて、ボコられるどころか反撃したのか? お前最悪だな」
「あっ……」
そ、そっか……そうなっちゃうのか……と、肩を落とすが……まぁ、言ってしまったものは仕方ない。どの道、アンモナイトの噂は上級生にも広まり、嫌われるのも時間の問題だ。
別に良いか、と思って頷きかけた時だ。
「は、はぃ……」
「いえ、違います」
「何?」
だが、急にクインまで口を挟んだ。
「授業中、彼に恥をかかされ、腹いせにとっちめようとしましたが、返り討ちに遭いました。それだけです」
「ちょっ、何言って……!」
「黙ってろ」
「ご、ごめんなさい!?」
怒られたのでビクッと肩を震わせて口を閉ざす。怖かった。
「さっきの供述とまるで違うが?」
「彼が意図的に僕を庇った物と思われます。僕は、オーキスの息子ですから」
「……なるほど」
そう言って庇ってくれるのはありがたいし、こちらとしても文句はない。性別のこともバレないだろうし。
だが……腹いせって、ちょっとイメージ変わっちゃわない? と思わないでもない。
「そうか……ま、今回はそういうことにしておいてやる」
が、何か事情を察したのか、グレイスはそう言って頷くと説明を再開した。
「さて、お前ら。校則違反者には、俺達からこいつが配られる」
そう言いながら手渡されたのはシール。杖にばつ印がつけられた丸いシールだ。
「こいつは『魔封シール』。校則違反を犯した生徒に渡される物だ。お前らの杖に貼れ。それが五枚溜まったら、一ヶ月魔法は使えなくなる」
「え……そ、それ……授業中は……?」
「杖なしでやるしかないな」
マジかよ、と頭を抱える。いや、まぁ正直、杖無しでも魔法は使えるが、それをするわけにはいかないから、どちらにせよダメだ。
気を付けないと……と、ため息を漏らしつつ、そのシールを杖に貼る。もちろん、二本ともだ。
隣を見ると、クインは杖だけでなく箒にも貼っていた。
「あ、あのっ……ほ、箒も……?」
「当たり前でしょ」
「え……な、なんで?」
「箒だって『飛行魔法特化型杖』なんだから」
「え、そ、そうなんだ……」
知らなかった……というか、特化型とかあるんだ……と、少し羨ましくなる。カッコよくてずるい。
なんて思っていると、目の前のグレイスがすぐに言う。
「無駄話するな。早く貼れ。この場にない杖に限っては、部屋で貼れば良い」
「「はい」」
怒られたので、とりあえず作業を済ませた。
×××
さて、放課後……というよりも夜。食事の時間が終わり、部屋に戻った正臣はため息をつきながらベッドの上で寝転がった。
しかし……うまくいかない物だ。友達作り。このままでは友達100人どころか1人も難しい。
これは……色んな人を見繕うより、まずは1人を重点的に見た方が良いかもしれない。
そう決めると、ノートを取り出した。とりあえず、会話をしてくれた生徒の名前をメモする事にした。
キャッチボール中に一瞬だけ集まってくれた人達の名前は分からないからパス……そう思うと、名前を書けるのは二人だけだ。
そう決めて、書こうとした直後だ。部屋の扉が開き、文字を書こうとする指が止まった。
「もう帰ってたんだ」
「っ、す、スミマセン……」
「だから何で謝んの?」
「い、いえ……」
そういえば……この人は、警備隊の娘……いや息子だっけ、と冷や汗をかく。通りで他の人にやたらと注目されていたわけだ、と思わないでもない。
……今にして思えば、裸を覗いてしまったのは、割と逮捕されてもおかしくないことなんじゃ……。
「すいませんでした! 裸を覗いてしまって!」
「困ったな、今の謝罪でもう一度、ぶっ飛ばしたくなった」
「なんで!?」
「お前にはデリカシーがないわけ!? そもそも、あの時もよく『なっ、何も見てない! 柔らかそうな大胸筋ですね!』なんて言えたもんだよ! まず謝罪でしょうが!」
「あ、いやまぁそれは……その、何? 前にも似たようなことあったというか……その人に比べたら胸小さかったし別にというか……」
「よし、殺そう」
「待って待ってごめんなさい! あなたの方が大きいです!」
「そういう問題じゃないしバアアアアアカ!!」
「危なあっ!?」
椅子を思いっきり叩きつけられそうになってガードする。すっごい「バカ」に力篭ってしまうほど本気だったみたいで、簡単に受け止めたこっちを見て尚更、不愉快そうな声をあげる。
「っ、だ、大体、お前何なんだ!? 今まで僕の一撃を何度も耐えてきた奴なんて、年上の先輩でもいなかったのに……何度も何度も何度も何度も簡単にキャッチして!」
「あ、あれはキャッチボールだから出来ただけで……押し合いになったら、魔力量の差で負けてたと思うし……!」
物体を押し込むために浮遊魔法をかけ続ければ魔力量なものを言わせられるが、浮遊魔法によって勢いだけつけて射出する時はどんなに速くてこちらが魔力で包むのを遅らせなければ簡単に取れる。
……もっとも、生物など意思があるものならば、浮遊魔法に包まれていても抵抗出来るが。
「だからって……お前の魔法は洗練され過ぎているだろ! 飛行中だって、普通はあんな自由自在に飛べるものじゃないから!」
「……お、俺はほら……イエティとか、ケルピーとか……あと最近だとキマイラとかと戦ってたこともあるから……飛べないと危ないというか……」
一時期は延々とは飛べず、何度か空中ジャンプのように跳ねていたりもしたが、一回それで死にかけてからはちゃんと飛べるように訓練した。
「き……キマイラと……?」
「うん……あの時は、全然敵わなかったな……」
キマイラと戦った時はセレナが来なかったら割とマジで危なかったが。炎を吐かれ、全力で凍らせた木を全魔力を放出する勢いで浮遊魔法で押し込みに行ったのに、10秒保たずに焼き殺されそうになった。
「……君はここに来る前、何をしていたんだ?」
「あ……か、狩の手伝い、です……母さんが、狩人だったから……それで、魔法も……教えてもらって……」
エルフ、ということと、住所を言わなければ問題ないだろう。
実際、キマイラに勝てる狩人もいるにはいるらしい。罠を仕掛けて複数人で囲んでようやく勝てるレベルで、一人で圧倒したセレナがおかしいのだが、まぁそこは割愛。
キマイラが強いことをわかっているなら「何人かで手を組んだ」と勝手に察するだろうし、わざわざ説明する方が言い訳臭くなりそうな気がした。
「なるほど……環境が、魔法の腕を上げさせたんだ」
「そ、そう……なのかな?」
「だが……それならば何故、箒などを知らなかったの?」
それは……と、目を逸らす。言えない、そもそも杖を使ってませんでした……なんて。
誤魔化す方法は……一つしか思い当たらない。
「お……親がこのタイプの杖しか、使ってなくて……俺は、他の存在も知らなくて……」
「……そっか。田舎者ってことね」
この意見、運良く通った。まぁ、髪型といい寝巻きのセンスといい、クインがシティ派な感じはとても分かっていた。
「……す、スミマセン……だから、昨日も迷惑かけて……」
正直、学校どころか街での生活に関しても、あまり考えていなかった。
異世界なんだから、普通に考えれば文化も治安も違うだろうに。特に、日本なんて前の世界でも治安が良くて平和ボケしてるとまで言われていた国だ。この世界に対して理解をしなければ。
少し肩を落としていると、すぐにクインが首を横に振った。
「いや、その件はもういい。それより、改めて聞かせてもらうよ」
「っ、は、はい……? 何を、ですか……?」
「性別の件、本当に誰にも言っていないんだね?」
「……」
またその話……と、ため息が漏れる。考えてみれば今日した会話、言ったか言ってないかしかしていない。
「……ほんとに言ってないって……言う相手もいないし、言っても意味ないし……」
「……そうか。なら、借りが出来た」
「えっ、し、信じるん、ですか……?」
「……嘘なの?」
「嘘じゃないけど……や、そういう意味じゃなくて……さっきまで、あれだけしつ……き、聞いてきたのに……」
しつこく、と言いかけたのを控えて言い直す。多分、言えば怒られる。
「風紀委員会に連れられた時も黙っててくれたんだ。あの場で本当のことを言う以上の最適解はなかったのに……それなら、お前のようなやつの言い分も信じるしかない」
「あ……ありがとう、ございます……」
「いや、お礼を言うのもこっちだよ。黙っててくれて、感謝するよ」
……そんな風に言われると思わなかった。結構、高飛車な奴だと思っていたから。「それはそれ、これはこれ」を良い意味で使ってくれる人は中々いない。
「それで……今後も秘密にしておいて欲しい」
「そ、それは別に良いけど……」
……なんで秘密にしているのか、聞いても良いのだろうか? オーキスの子供とかいう奴だから?
「あ、あの……なんで、性別を……」
「……」
「あ、いえなんでもないです!」
やはり聞いちゃダメな奴のようだ。ジロリと睨まれ、謝りながら黙り込んでしまう。
……が、すぐにクインはため息を漏らす。
「……まぁ、秘密を知られた以上は話しておいた方が良いかもしれないか……」
「あ、は、話したくないならいいです別に!」
「いや、話しておいた方が良いかもしれない。聞いてくれるかな?」
まぁ、話してくれるなら聞くが。一先ず、耳を傾けた。
「と言っても……理由なんて単純な物だけどね。オーキスの娘だからだよ。僕の家族は警備隊一家、父も祖父もその前の代も、みんな警備隊……それも、ウェッジ支部隊長だった」
「そ、そうなんですか……」
厳しそうな家……幼い頃から英才教育を受けられそうだ……というか、受けられたのだろう。じゃないと性別の偽装なんてさせられない。
「もちろん、僕の代でもウェッジ支部隊長にさせたかったんだろうね。だから、女だけど男として育てられてきた。……それは、決して僕自身も嫌だとは思わない。僕も、隊長になりたい」
「? なれば良いのでは?」
「……女のまま隊長になれる程、警備隊は甘くないんだよ」
どうやら……異世界でも、男女間の差別というものはあるらしい。下らないことで差別するもんだなぁ、と女より小さい男である正臣はしみじみと思った。
でも……それだからって女である事を抗って、男と偽るのもなんだかなぁ、と思わないでもない。それって女が男より劣っていると認めているような物な気もする。
まぁ、この世界についてよく知らない自分が何か言える事はないし、何も言わないけど。
「そ、そうなんですね……」
「だから、君には誰にも言わないで欲しい。そうでなくても、これまで既に男としてやってきて、男として入学しているから」
「わ、分かりました……」
なんか、発言も気をつけた方が良さそうだな……と、思って、そのまま頷いておいた。
「……」
「……」
そこから先は、会話は無くなってしまった。まぁ、元々仲良いわけでもなかったから仕方ないのだが……せっかくの機会だし、何か話したい。
……そうだ。せっかくだし聞きたいことがあった。
「あ、そ、そうだ……! オーキスさ……いや、オーキスくん?」
「何?」
「と、特化型の杖って……他にどんなのがある、んですか……?」
「……」
「じ、自分で調べりゃ良いことですよね! スミマセン!」
黙られると弁解してしまう癖がついてしまった。なんか怖くてビクビクしながら背中を向けてしまうが、そんな自分を見てクインからため息が聞こえてきた。
「はぁ……別に怒っていないから。そんなにビクビクするな」
「えっ……?」
「今日、僕を軽くあしらっていた男が、何故そんなに自信なさげなの? もっと普通に話して」
「ふ、普通に……す、スミマセン」
「分かった。次、謝るべきタイミングじゃない時に謝ったら、一回ビンタする」
「急にバイオレンス!?」
やっぱり歳が近い人は苦手だ。本当なら、おそらく一番苦手に思っちゃいけないのが同年代だろうに。
……いや、苦手だから関わりません、ではせっかく生まれ直しても意味がない。
「わ、分かりました……善処します……」
「あと、敬語もやめてもらえる? 同い年だし、可能な限り僕は周りの人間に気を遣われたくないんだ」
「あ……は、はい……じゃなくて……えっと」
「返事くらい好きに返してくれて良い」
好きに……と言われても、どう返事をしたら良いのか。
「ぎ……御意?」
「お前のワードセンスどうなってんの!? ……ていうか、そんなんじゃ僕が相手以外でもナメられるから!」
「す、スミマセ……あ、いや何でもないです!」
「……やれやれ、人と話さない環境にいるとこうなるのか。魔法の腕は良くても、他者とのコミュニケーションは絶望的だね」
「うっ……」
それはその通りだが……ハッキリ言われると地味にショックだ。ため息が漏れてしまう程度には。
「ルームメイトになった以上、僕の前でくらいは普通にしてもらいたいかな」
「ど、努力します……」
「ん。……で、杖の種類だっけ?」
「あ、は、はい」
「シール貼らないといけないし、ついでだから教えてあげる」
「あ、ありがとうござ……あ、じゃなくて……えと、か、かたじけない?」
「いつの人だよ!」
話しながら、二人で部屋の真ん中にお尻をつける。なんか……この床の上で座り込む感じ、ちょっと友達っぽくて嬉しい。
クインが杖を振るってクローゼットが開き、その中からスーツケース並みの大きさの鞄を引き出した。
「まず、この前の箒型ね。あれは飛行特化。小回りは聞きづらいけど、普通の万能型の杖で飛ぶより速く飛べる」
「万能型?」
「……正臣が持っているような杖のこと」
これ万能型だったんだ、と物珍しそうに杖を見る。別にそこまで万能感ないのだが……。
「あの、万能ってことは……その箒で使えない魔法とか、あるの……?」
「使えなくはない……けど、簡単でもないかな。箒型で他の魔法を使うのはやりづらいから」
確かに、形状だけ見ても使いづらそうではある。なんなら、浮遊魔法も自分を浮かす以外はやりづらそうだ。
「だから、箒型じゃあ飛ぶ以外のことは基本しないんだよ」
「な、なるほど……」
そういえば空中戦をやった時は、箒に跨ったまま万能型の杖を使っていた。この世界の魔法使いは、杖を複数携帯するのが当たり前なのかもしれない。
なんて考察している間に、鞄が開けられた。中から出てきたのは、ゲームやアニメオタクなら誰でも目を輝かせるであろうアイテムの数々。
それが、きれいに整頓されて入っていた。
「おお……か、カッコ良い……!」
「本当に何も知らなかったんだ……」
「す、スミマセ……あ、いや、うん……」
謝罪が口癖になりつつあった。まずい、これ治さないとビンタされちゃう。
「触ってみる?」
「! い、良いの……?」
「うん」
「じ、じゃあ……少しだけ……!」
まず見ていて一番、気になったのが、銃のような形をしている杖だ。というか、これもう銃だろう。グリップがあって引き金があって、銃口がある。
「こ、これは……?」
「警備隊が持っている射撃特化杖だよ。中には今日の温度魔法の授業でマサオミがやられた奴の小型版が入ってる。これで、浮遊魔法を放つ事で弾丸が射出される」
「こ、怖っ……」
「勿論、弾を込めなければ相手を浮かすこともできるし、その辺のオンオフはここのスイッチの切り替えで出来る」
指差す場所は、拳銃でいうところの安全装置の場所。上に上げるとオン、下げるとオフらしい。
「あと、温度魔法を使えば熱い弾や冷たい弾を使うことも出来るよ」
「すごっ……」
すごい……けど、気にかかる事もある。
「ちなみに……これ、誰でも持てるの?」
この手のものは、日本じゃ警察しか持てない。その警察と似たような組織である警備隊の娘が持っているのだから、もしかしたら隊長権限みたいなものが響いているのかと思ったが……。
「これはお守り。中の弾も本物じゃなくてオモチャだし」
「そ、そうなんだ……オモチャ」
「いや、僕の趣味じゃないよ。いらないって言ったんだけど、父さんが『いじめられたら使え』って持たされたの」
過保護……というか、溺愛されていないだろうか、それは? 厳しい割に親バカなんだな……と思いつつ、せっかくなので射撃型のオモチャを壁に向けてみる。
「撃つなよ。威力は変えられないんだから」
「え、ど、どれくらい?」
「オモチャでも、人の腕に撃てば青タンじゃすまないよ」
「えっ……」
それ、壁が凹んだりするのかも……と、思ったので、大人しく返した。
受け取ったクインは、ヒュルルっと手元で回しながら、鞄の中に戻す……が、その手元で回す動作、あまりにも手慣れていた。
「わっ……か、カッコ良い……」
「? 何が?」
「あ……い、いや……手元で今、回してたから……」
自分がいた世界では、その動作の後に腰のホルスターにしまうのだが、それはもう男の子ならみんな憧れた。
しかし……それを、クインは別の意味で受け取ってしまったらしい。急に顔を真っ赤に染め上げた。
「っ、ち、違う! べ、別に気に入ってこっそり練習してたわけじゃないから!」
「あ……(察し)」
「な、何だ今の『あ』は!?」
この子、元々男の子趣味なのかもしれない。まぁ、実は女の子趣味とか大好きだけど、そんなのが現実にいるわけないことはわかっている。
……いや、でも男の格好させられている女の子なわけだし、本当は女の子っぽい趣味の可能性も……。
「あ、あのっ……カッコイイ杖があるなら、可愛い杖もあったりする、んですか……?」
「そ、そんなもんいらないから! 悪かったな、こういうのが好きで!?」
しまった! と頭を抱える。話の流れ的に、確かに気を遣ったように思われたのかもしれない……。
「そ、そうじゃなくて……これは可能性を模索しようと思っただけで……!」
「何の可能性だよそれ!」
「ごめんなさい! ……で、でもほら……男の子のフリをするなら、カッコ良い趣味はむしろ良いんじゃないのでは……?」
「もう黙ってろお前! お前こそ女っぽいツラしてる癖に……!」
「は、はい……」
怒らせてしまった……やはり、コミュニケーション能力は大事だと痛感した。まだまだ友達を作る道のりは長そうだ。
その後はギスギスしてしまって、解説がないままシール貼りは続けられた。
おかげで、カメラにそっくりな杖とか、懐中電灯みたいな杖とかあったのだが、教えてもらえないままになってしまった。
×××
さて、翌日の放課後。移動教室やら実習授業やらを利用して友達作りに励んだが、やはりうまく行かなかった。
もうアンモナイトとバカにされた後で、正臣の方が魔法が上手いものだから、完全に浮いていた。
友達作りって、魔法より難しいんだな……と、ため息を漏らしながらも、それでも最後の手段は考えていた。
……そう、部活である。仲間達と汗を流し、勝利という一つの目標に向かって突き進む……まさに、青春だ。
しかも、学年の後のクラス替えが起こっても四年間、一緒にいられるわけだから、それはもう最高の仲間になれるはずだ。
「よーしっ」
そんなわけで、部活見学に行くことにした。
正直、どの部活も名前を見ただけじゃどんな部活かわかったものではないのだが、今日から一週間、部活見学があるし、問題なく見て回れる。
とりあえず、名前的に想像がつく部活からにした。
「……ドッジボール部だ」
どうせ魔法を使ったドッジボールなのだろうが、楽しそうだ。投げるのは苦手だが、魔法は得意だから。
ドッジボール部は第二体育館。こっちは入学式で使った方ではなく、外観は良く見る奴だ。
「っ……」
脳裏に思い浮かぶのは、サッカー部やバスケ部、それからバレー部、柔道部のリア充ども。
人をいじることでしか女子からの人気を獲得するすべを知らない連中……こちらが向こうにとって生意気と取られることを言うと、先生にバレないようフィジカルな物を言わせていじめが始まる……。
いかんいかんいかん、と首を横に振るう。この世界において、フィジカルは魔法の実力だ。大丈夫、大丈夫……と、自分に言い聞かせながら、中へ足を踏み入れた。
そんな時だった。
「あ……オーキスくん」
「げっ……お前も見にきたの」
被ったのはクインだった。その隣には、茶髪でクインと同じくらい背が高い男子が立っていた。いつの間にか友達を作っていたらしい。
「あ、アンモナイト」
「うっ……」
その呼び方、少し涙目になってしまう。
「リョウ、彼はマサオミ・シルア。僕のルームメイトだよ」
「名前くらい知ってるわ。クインと同じくらい有名人じゃん」
「名前で呼んであげてって言っているんだ。魔法の実力は、一年の中でもトップクラスだと思う」
一応、そうやって庇ってくれるんだ……と、思いつつも、リョウと呼ばれた男の見た目は完全にチャラ男のそれなので少し苦手だ。
「わーってるよ。……俺は、リョウ・エイフールだ。同じ2組だし、よろしくな」
「あ、あのっ……は、はい……よろしく、お願いします……」
「何で敬語だよ」
「マサオミ」
キュッと目を細めて睨まれ、肩を震わせる。敬語を使うのダメ、と言われたのはクインに対してだけだったのだが……これは屁理屈だろう。
でも初対面の人にはやはり臆してしまうのだが……なんて少し怖気ついている間に、リョウが言った。
「お前も部活見学? 何処見んの?」
「あ……え、えっと……ドッジボール部を……」
「一緒じゃん。なら一緒に来るか?」
「えっ!?」
「うん。ついでだし、来たら?」
さ、誘ってくれた……! と、嬉しさのあまり目を見開いて頬を赤らめる。まさか……と、友達になれるのか……? と。
「は、はい! よろしくお願いします!」
「だからなんで敬語だよ」
「ビンタかなこれは」
「えっ……いや嘘嘘! よろしく!」
「おう」
「お、オーキスくんとエイフールくんも……ど、ドッジボール興味ある、の……?」
「僕は……まぁ少し。リョウがドッジボール部の推薦だから見させてもらうんだ」
「えっ、す、推薦……?」
「あんまお勧めはしないけどな」
そんな話をしながら、三人で体育館に入った。
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