第3話 妹の幼馴染
気づけば5時間目も終わっていた。
ふとスマホを見ると、メッセージが一件入っていた。通知を切っておいてよかったな、と思う。
差出人は昼休みと同じく俺の実の妹、
『お弁当、無事食べられた? お弁当箱受け取っちゃうから、放課後部活の前に教室に来てね』
なんと優しい妹だろうか。
小春は帰宅部であるため、俺が部活の日は先に家に帰って家事をしてくれている。
春也が高校に上がってから両親は仕事の都合で海外に移住してしまったため、家事は俺と小春で分担して行っている。
と言っても俺は運動部に所属しているので、家事は小春に任せがちになってしまっているのが現状だ。
両親の移住が決まった段階で俺も部活を辞めようかと思ったのだが、小春の猛反対にあい続けることとなった。なんとも申し訳ない話だが、ありがたい限りである。
そんなわけで、放課後に小春に弁当箱を預け、俺は部活に行く……というのが割と毎日のルーティーンになっているのだ。
(ありがとう、小春……)
後で本人に直接伝えよう。そう思いながら6時間目、日本史の授業の準備をするのであった。
☆☆☆★★★☆☆☆
「あれ、お兄さんじゃ〜ん! おっすー!」
放課後、小春の在籍する1年2組の教室に足を運んだのだが────出迎えてくれたのは、小春ではなかった。
「おう、
「え〜? ゆーても合格発表の時会ったっしょ?」
「それもそうか、それでも2ヶ月だけどな」
「あはは、そうだっけ」
どう見ても校則に違反しているようなキラキラと輝く金髪に、思い切り着崩した制服────簡潔にまとめると『ギャル』という単語が似合いそうな少女。
放課後、教室に残っていたのは小春の親友である
「ところで秋華、小春は?」
「こはるんならお花摘みに行ってるよん」
「お花……ああ、そういうことか」
「お兄さんはわざわざ1年の教室までどしたん? もしかして、こはるんとデート?」
「な訳ないだろ。ちょっと用事だ」
「あはは、そかそか〜」
スマートフォンを弄りながら、ケラケラと笑う秋華。
その笑顔はとても楽しそうで、見ているだけでこちらもつられて笑顔になる。
「……ところで、一個訊こうと思ってたんだけどさ〜。お兄さんってさ」
ぽつりと、秋華が俺を呼んだ。
その顔からは先程の笑顔が消え、真面目な表情に見える。
「ウチのこと、どう思う?」
そう言い放つなり、ずいと身を乗り出した。
秋華のおでこが、俺の鼻先あたりに近づく。
ちょうど目の前の秋華を見下ろす体制になったため、着崩した制服の隙間から胸元が見えそうになる。
俺は思わず目を逸らす……が。
(────う)
クラクラしそうになるぐらい、いい匂いがする。
女子特有の甘い匂い──おそらくそれだけではない──が鼻腔を満たし、息をすることすら憚られる。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、真面目な顔のままの秋華が言葉を続ける。
「ウチさ、お兄さんのこと気になってんだよねー」
「…………」
「お兄さんはさ……ウチのこと、どう思う?」
秋華のルビーのような瞳が、俺の目を覗き込む。
キラキラと輝いて、まるで本物の宝石のようだ。
(この瞳────)
そういうことか。
俺は今日何度目かわからないため息をつく。
「…………嘘だな」
俺がそう口にすると、秋華がきょとんと目を丸くする。
パチパチ、と瞬き。
数瞬の間が空く。
そして……。
「にゃはは、バーレたっ!」
さっきまでの真面目な表情はどこへやら、心底楽しそうな笑顔に表情を変えるとぴょんと飛び跳ねた。
「お兄さん、こういうの弱いと思ってたんだけどなー」
「俺のことを何だと思ってたんだよ」
「んー……ヘタレ童貞?」
「おまっ……、女の子がそういうこと言うんじゃありません」
「あはは、顔赤いよ〜? もしかして図星?」
いつの間にか、すっかり手玉に取られてしまっていた。
秋華は小春の幼馴染。
俺自身は深く交流していたわけではないが、秋華と小春が仲が良いことも手伝いお互いのことはよく知っていた。
中学こそ二人は別々の学校だったものの、高校は俺と同じこの陽陵高校。
先程話した通り、小春の合格発表に付き添った際久しぶりに再会したわけだが……。
そこにいたのは、記憶していた姿とは違うギャルのような派手な装いの秋華だった。
小春はこの大規模なイメチェンを知っていたらしく気さくに話していたのだが、俺の方はそうは行かなかった。
秋華の見た目、そしてコミュ力の成長によりタジタジになってしまい……いつの間にか完全に会話の手綱を握られていた。
会うのは久しぶりだが、メッセージアプリでのやり取りは時々あったりする。
その度に──学年が二つも違うというのに──俺たちの会話はこんな感じだ。
陽キャ側になった女の子のコミュ力というのは、恐ろしい。
昔はこうではなかったのに……
お兄さんは悲しいぞ。……そうでもないかも。
「あ、でもね」
秋華は一瞬、ほんの一瞬だけ真面目な顔に戻って。
「お兄さんのことが気になってるのは……ほんとだよ?」
今度は、少し頬を染めた。
「そういうのはもういいって……。そもそも、俺はお前のこと妹みたいとしか思ってないし」
「あ、それ浮気男が言うやつっしょ! あいつのこと妹だと思ってるから的な!」
「そういうんじゃないって」
「またまた〜。ウチのこと気になってるならそう言えばいいのに〜」
「だから違うって……」
結局いつもの流れだ。
どんな内容の話をしていても、最後は大体こんな感じになる。
そんないつも通りのくだらない会話をしていると、ガタン!と大きな音ともに教室のドアが開け放たれた。
音の主はというと────。
「ちょっと秋華? 何小春のお兄ちゃんとイチャイチャしてるのかな」
「あ、こはるんじゃ〜ん。おかおか〜」
俺の『本物』の妹、佐倉小春だった。
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