第4話

リディオを目覚めさせたのは唐突の轟音だった。勢いよく鉄格子を破って入って来たのは、巨大な鳥の足。

 その足が引っ込み、代わりに現れたのはフロレンツィアの心配そうな顔だった。

『いた!無事かしら?』

 声量を落としながらもハリのある声。布切れの端を怪鳥にくわえさせると、反対側をたらしてフロレンツィアが独房に下りてきた。すぐにリディオの縄をほどいていく。

「う……、どう、して……」

「あなたは命の恩人ですもの。鳥って案外鼻が利くのね」

 自由になったリディオは、リンチの痛みと空腹に耐えながらも気合で立ち上がった。

「すぐにここを出ましょう。あの子は目立ちすぎる」

 だが物音を聞きつけてきた衛兵に覗き窓から見つかってしまう。フロレンツィアを先に行かせたリディオだったが、全身に力が入らずなかなか壁を上がれない。

「急いで!」

 フロレンツィアの叫びが余計に焦りを招く。手に力が入らず、足も壁の苔で滑って踏ん張れない。

 衛兵が扉を開けてリディオを掴もうと手を伸ばしてきた。だが怪鳥が布切れをすばやく引っ張り、間一髪フロレンツィアと共に飛び去った。

 怪鳥の背に乗り、夕焼けの空を舞う二人。

「これからどうするの?」

「街を取り戻します」

「でもどうやって?私が言うのもなんだけど、うちの戦車隊は並みの軍じゃ太刀打ちできないわよ」

「ええ、だから援軍を頼みます」

 ガハト軍の本陣。兵士の一人がイルゼに報告をしにやってきた。

『申し上げます!捕虜一名が逃げた模様です。未確認ですが第三王女様も一緒だったという目撃情報もございます』

『放っておけ。今さら何かできるわけでもあるまい』

 威勢のいい返事と共に兵士が持ち場へ戻ろうと踵を返したところで、イルゼにある考えが頭をよぎった。

『いや、ちょっと待て。城にいる軍師殿に伝令を送れ。大至急、最優先だ!』


 リディオとフロレンツィアは巨大な洞窟の前に立っていた。すでに日が落ち、洞窟の怪しさがさらに際立っている。

「ここは?」

「“悪魔のゆりかご”と呼ばれてます。ここに最強の助っ人がいる……はず」

「はず……?確証は無いの!?」

「ええ、僕も入るのは初めてで。ですが伝承通りなら……」

「大物がいるのね」

 真剣な表情でリディオは頷く。

「ただここから先は危険です。引き返してもらって構いません。国賓の方を危険にさらす真似は――」

 真剣な表情で訴えるリディオの口を、人差し指でふさぐフロレンツィア。

「私は自分の意志でここにいるの。何度も考えたけど父や姉さんの考えには賛同できない。それにね、もう私はただのフロレンツィアよ。気遣いは無用。いろんな国を見てきた私にとって、どの国の人も大事だわ、リディオ」

 松明の明かりでうるむ彼女の瞳にリディオは全てを察し、手を差し伸べた。

「……分かったよフロレンツィア。うまくいくか分からないけど、行こう」

 リディオの手を握るフロレンツィア。互いの決意と体温を感じながら、二人は悪魔の住処へと足を踏み入れた……。

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