・ストームドラゴンは真の激おこぷんぷんモードに入っていた

「は、はうっ?! お、怒ってますっ、怒ってますよ、ストームさんっ?!」


「まあそりゃぁね。みんなが美味そうにラーメン食ってるのに1匹だけハブられて、おかわりをうったえるやつが現れたんだから、そりゃぁね?」


 ストームドラゴンは真の激おこぷんぷんモードに入っていた。


 ラブテス(略)は黒い血のように殺意と怒りのマックスハートと化し、竜はドラゴンクロウとストームブレス、真空波で結界や鎖を破壊しようと暴れたくった。


「ギョェェーッッ?! た、大変ですニコラスお兄ちゃんっ、ストームさんを止めて下さいーっ!?」

「ただの小市民に無茶ゆーなよっっ!?」

「これは大変だ! すぐにラーメンをっ、ラーメンをストームドラゴン様にお出しするのだ!!」


 ブランカ兵長が声を張り上げてそう言った。


 確かにその通りだ。

 ストームドラゴンの怒りは、ただただラーメンを悔い損ねているという一点に尽きる。


 そしてカオスドラゴンに続いて、イエロードラゴンもまた俺のラーメンの味に即落ちした。


 しかも今回はあの時とは違う。

 かんすいを使ったマジモンのラーメンだ!


 俺は茹でている麺を素早く湯切りし、マリーが用意した器の上に投下すると、白鶏スープと茹でほうれん草、豆苗を超高速でそえた。


「落ち着けっ、お前の分ができたからっ、とりま落ち着けっ!?」

「お、お兄ちゃん、早くお渡しするですよーっ!?」


「はぃぃっ!? いやそういうのはマリーがやってよっ!? ただの人間の俺がっ、あんな怪獣に近付いたら死んでしまうわーっ!!」


「あ、あうあうあうっ……ス、ストームさんは怖いからっ、マリーはやなのですよぉーっっ!?」

「いや死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってっ!?」


「やだやだやだやだっ、怖いのですぅーっ!!」


 と、俺とマリーが料理人にあるまじきツバを飛ばしながら、ラーメンをパスしてパスしてパスするコントをやっていると、そのほかほかラーメンが宙を浮いた。


「こ、これは……あの伝説の、フライングラーメン……ッ!?」

「いやそれどんな伝説だし……」


 犯人は激おこぷんぷんドラゴンだ。

 風に包まれた器は、結界をすり抜けてストームドラゴンの大きな顎の上部へと運ばれていった。


 食事は一瞬だった。

 大きな口が開き、汁ごとラーメンが流し込まれると、器が地に落ちた。


「ぁ……美味しい……」


 突如、甘ったるい声が響いた。


「い、今の声はいったい……。ま、まさか、ストームドラゴン様のお言葉なのかっ!?」


 ブランカ兵長たちが驚くのも当然で、それは奥のストームドラゴン側から発された声だった。

 すぐに答えが欲しかった俺は、マリーと一緒にあの宝石をのぞき込んだ。


 色は――

 微かな桃色混じりの暖かそうな黄色だった。


「そこにいるのは、イエロードラゴン……?」

「ほへっ……? ドラゴンさん、マリーを、知ってるですか……?」


「そんな……。あたしのこと、忘れちゃったの……?」

「ご、ごめんなさい……。マリーは、ずっと、自分がドラゴンだってこと、忘れてて……」


「そう……」


 ストームドラゴンの大きな目が、マリーから俺の方に移った。竜は長い沈黙を守り、ずっとこちらを注視していた。


「え、何? なんで俺なんかクソザコ人間ごときをそんなに見つめてんです……っ!?」

「ニコラス、って言ったっけ……。ねぇ、どうしてこの男から、あのカオスドラゴンの匂いがするの……?」


 ストームドラゴンはコスモスちゃんと因縁でもあるのだろうか。

 コスモスちゃんが過去に稼いだと思しきヘイトが、現在俺へと向けられているようだった。


 だけど変だな。

 宝石の方は冷めた青色が1で、桃色が2の割合で彩られている。


「カオスちゃんとは、今は一緒に行動してるのです」

「嘘……。なんで、あんなヤツと……」


 これ以上心を見るのはフェアじゃない気がして、俺はポケットに石を戻した。

 それからドラゴンテイマーとして勇気を出して竜に近付いて、巨体の足下から相手を見上げた。


「ストームドラゴン。よかったら、俺に力を貸してくれないか?」

「嫌」


「そう言わず話だけでも聞いてよ」


「どうしてドラゴンであるあたしが、人間の野望に付き合わなきゃいけないのよ。どうせ下らないことに決まってるわ、昔みたいに……。それに……」


「それに?」

「ラーメンをっ、あたしにちっともくれなかったじゃないっ! 待ってたのに酷いっ、酷いわっっ!」


 あれっ、この竜って、コスモスちゃんと同類……?

 もしかしてこう見えて、理屈よりも食い気が勝っちゃうタイプ……?


「ごめん、みんながあまりに美味そうだったから、つい……」

「待ってたの……。ずっと、あたしの分がくるのを待ってたのにっ! こっちは凄く傷ついたんだからっっ!!」


 思っていたよりこの竜、ずっとチョロそう……。

 俺はラーメンを作って人を喜ばせるのが楽しくて、この竜はラーメンが大好き。


 ならば、これからやることはシンプルだ。


「なあ、俺と一緒にラーメン屋をやらないか?」

「えっ、ラーメン屋さんっっ!?」

「マリーも一緒なのですよーっ、みんなで、ラーメン屋さんをしましょうっ!」


 ラーメン。

 ラーメン屋の一言で畏れ奉られていたストームドラゴンの心と巨体が揺れた。

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