・ストームドラゴンあらため、ストームちゃん
「そうだ! 俺の野望は、ラーメン屋として店を持つことだ! ラー禁法なんて知ったことかっ、美味いラーメンを世界中に広げてっ、あの法律がいかに下らないか突きつけてやるんだっ!!」
半ばヤケクソでそう叫ぶと、
『おおっ!!』と、後ろの方でナルカ族の人々が声を上げた。
ま、こいつらも師匠の影響で、ラーメンに魅了されているみたいだからな。
「ラーメン屋さん……っ、それっ、素敵……っ! あ、いや、ち、違うわ! そんなのっ、あたしには全然関係ないことよっ!!」
「マリーには、しゅごくノリノリに見えるのですのよ~?」
ストームドラゴンの尾がルンルンに揺れていた。
よし、これはいける。
さらに俺は一歩を踏み出して、目前の巨大な生き物に声を張り上げた。
「俺はニコラス! 天下のお尋ね者ラーメン屋にして、ドラゴンテイマーだ!! ストームドラゴンよっ、俺のラーメンを喰らいたくば俺に従えっ!! つまんない理屈はおいといて、いいから俺と一緒にラーメン屋をやろうよっ、絶対楽しいってっ!!」
「あ、あたしもっ、一緒に……っ?」
「一緒に行こう!! そんなところに閉じこもってないで、俺と一緒に行こう!!」
「ぁ……」
腕を巨竜へと掲げると、誰もが予想だにしていないことが起こった。
次々と竜を封じる魔法陣が解除されてゆき、銀の鎖が砂となって崩れ落ちると、ストームドラゴンは完全に解き放たれた。
それは背筋がゾクリと震えるほどに感動的な情景だったけれど
――俺はその一方でふと思った。
解放されたのはいいんだけど、またさっきみたいに暴れたりしないよね、この竜っ!?
「ふんっ! これはあんたのためじゃなくてっ、ラーメンのためなんだからねっっ!!」
甘くて甲高い声で、ストームドラゴン――
いやストームドラゴンちゃんは叫んだ。
「なんと、ストームドラゴン様がツンデレにおなりになられたっ!?」
「ほわぁーっ、これがあの、ツンデレさんですかーっ!? マリーは、初めて見たのですよーっ!?」
竜は白い光のシルエットとなり、見る見るうちに縮んでいった。
やがてそれは人間の、それも愛らしく可憐な女の子の姿に変化した。
稲妻のような青白い白髪だった。
あの巨体が嘘のように俺より小さく萎んで、その気の強い表情の左右には、ツンデレの象徴とでも呼ぶようなツインテールが雄々しくそびえていた。
「こ、これが、あたし……?」
「かわいいっ、かわいいのですよっ、ストームちゃんっ!!」
「わ、わぁぁ……っ♪」
彼女は自分の細くて小さな手に感動して、剣を腰に吊した細身のドレス姿にも感動して、それから風穴の一角にある水たまりをのぞき込んで、見るも愛らしい白髪の美少女に変化したことに顔を抱えて大感動した。
「ふんっ、なかなかかわいいじゃないっ! だけど、こんな目であたしのことを見てたなんて……っ♪ ふんっ、ニコラス、あなたとんだ変態ねっ!!」
「いや、そんなうっきうきの声で言われても……」
この子、コスモスちゃんにそっくりだ。
新しい自分の姿に大喜びして、まんざらでもなさそうにクルリと回っては、水鏡に映る自分の姿に陶酔した。
「でも、よかった……。これでもう、誰も傷つけずに済む……。これがあたし、これが、新しいあたしっ、ふふふっ、ふふふふふっ♪」
しかし問題は、ストームドラゴンを今日まで封じてきたナルカ族の方だ。
こうしてストームちゃんを解放しちゃった以上、きっと揉めるんだろうな……。
ドラゴンって言ったら、当然人間の敵なんだし……。
「ニコラス、ラーメンはまだか?」
「ブランカさん? いや、ラーメンより大事なことがあるんじゃ……? 今日までストームドラゴンを封じてきたんでしょ? お互い、まずくない?」
ところがナルカ族は笑っていた。
一仕事を終えたかのような、ホッとした顔をする老人たちもいた。
「一族に貸せられた長い役目が終わったんだ、何を怒ることがある?」
「けど、いいの……?」
「かつて我らの祖先は、ストームドラゴン様と共にカオスドラゴンを封じた。ストームドラゴン様は、己を封印し、監視するように祖先へと役割を課したのだ。……さ、そんなことより、ラーメンおかわりだ」
「わかったよ、ブランカさん」
昔話よりも食い気だというので、俺は調理場に戻ってラーメンを茹でた。
残り少ない麺とスープを、みんなで分けた。
何度食べても、俺って天才なんじゃないかってうぬぼれてしまうくらい、俺のラーメンは美味かった。
ストームドラゴンは名の通り、嵐のように激しい性質を持っている。
かつての彼女は世界のために、自らを封じさせる道を選んだという。
ストームちゃんは封じられていた悪の竜ではなく、カオスドラゴンを倒し、危険な自らを封じる道を選んだ気高き竜だった。
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