・分家! 鶏出汁系ラーメン!

「はわぁっ、オシャレな人たちがいっぱいなのですっ!?」

「き、金色のドラゴンッ?!」


 マリーが帰ってきた。

 俺は立ち上がってイエロードラゴンを迎えて見せて、ナルカ族の警戒心を解いた。


 マリーは荷物をズドンッと足下に落とすと、その巨体を少女マリーゴールドへと変えた。


「なっ、子供っ!?」

「オシャレって、どの辺が?」


「あのポンチョ、とってもかわいいのですっ! 初めましてっ、マリーは、マリーゴールドともうしますのですよーっ!」


 長い耳とふさふさの尾を持った少女が、羨ましそうにナルカ族を見ていた。

 彼らは矢と弓を背中に戻して、まだ驚きが収まらないのかマリーを見つめている。


「余計なことだから言わなかったけど俺、戦闘系ジョブはドラゴンテイマーってやつなんだ」

「えへへー、お兄ちゃんに、身も心もテイムされちゃったのですよ~、へへへ~♪」


「はいはい、人聞きの悪い自己紹介は止めようね。それよりかんすいが手に入ったよ」

「えっ!? えーーーーっっ、どうやって見つけたのですかーっっ!?」


「落ちてたって」

「お、落ちてるんですかーっ、かんすいってーっ!?」


 マリーにやさしく微笑みながら、彼女が手配してくれた薪を岩の囲いの中に並べた。


 こちらで準備しておいた水を寸胴鍋に入れて、それを薪を使って火にかけた。

 火種はポンチョがオシャレなナルカ族が分けてくれた。


 言われてみれば確かにオシャレだった。


「いっぱい買ってきたね」

「だってだって、ずっと閉じ込められてたですよー? お腹、空いてるのですよ」


 マリーには鶏ガラを茹でてもらい、灰汁を何度もすくってもらった。


 ぶよぶよの灰汁があふれるスープはいかにも不味そうだけれど、これを根気強く灰汁取りしてゆくことで、最高の白鶏スープに変わる。


 俺はひたすら麺をこねた。


 師匠に教わった通りの分量でかんすいと小麦粉を混ぜ合わせて、調理場が調理場だったので太麺で切りそろえていった。


 今回のトッピングはほうれん草と豆苗だ。

 マリーとストームドラゴンのために、秘蔵の出汁も加えた。……もちろん、こっそり。


 ……全ての仕込みを終えてラーメンを提供するまでに、2時間もの時間を労していた。



 ・



 せっかくマリーが食材を多めに用意してくれたので、かんすいへのお礼もかねて村の人たちもここに呼んだ。


「おお、この香り……あの時のラーメンだ……」


 ストームドラゴンには悪いけど、先にナルカ族にラーメンを配膳した。


 家々から自分の食器が持ち込まれて、その中に麺を移し、白鶏スープとほうれん草、シャキシャキの豆苗をそえた。


「こ、これは……っ」

「おお……」

「う、美味い……。あの時食べたラーメンより、美味いぞっ!?」


 なんとナルカ族は俺のラーメンを、あのヤンロン師匠のラーメンよりも俺のが美味いと絶賛してくれた。


 だけどそんなの、いくらなんでも大げさに褒めすぎだ。

 気持ち半分で受け止めておいた。


「ほわぁぁ~~っ♪ 麺が……美味しくなりました~っっ! しゅごく、ぷるぷるシコシコなのですよ~っ♪」

「そんなに?」


「お兄ちゃんも食べてみるですよっ、はい、あーんっ♪」

「じゃ、ちょっとだけ……。お……っ」


 調理をしながらマリーからラーメンを少しもらった。

 確かに、シコシコのかんすい風味だ。


 おまけに麺がツルツルとしていて、シンプルな白鶏のスープと絡み合った味わいが最高だった。


「どうですかっ、どうですかーっ♪」

「うわっ、超美味っっ! 俺、天才じゃねっ!?」


「はいっ、マリーもそう思うのです! ニコラスお兄ちゃんは、世界一等賞のラーメン屋さんなのです!」


 ナルカ族は白鶏ラーメンに夢中だった。

 そこにいるみんなが笑顔で、温かなスープをすすってなんでもない会話を楽しんでくれていた。


 よかった……。

 人生どうなるかと思ったけど、どうやら俺、この仕事が合っているみたいだ。


 人が幸せそうにラーメンを食べる姿を見ているだけで、俺まで心が温かくなった。


 ……しかし、何かが引っかかる。

 何か、肝心なことを忘れているような……。


「ラーメン屋さん、おかわりいいか!?」

「え、いや、もうスープも麺も残り少ないから、そこは話し合って――」


 ナルカ族の太ったおばちゃんがおかわりを求めた。

 そこで俺は当然の返しをしたわけだが――背後から、先ほどの殺意にも似た気配が俺の背中に突き刺さった。


 あ、思い出した……。

 ストームドラゴンの分、忘れてた……。

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