・ラーメンは心の万能薬なのです!

「ぜぇ、ぜぇ……し、死ぬ、かと、思った……ぜぇ、ぜぇ……」

「は、はうはう……っ。こ、怖い人だったのですぅ……っ」


 ざっくり50mほどの距離を取ると、ストームドラゴンの攻撃が中断された。


 射程外なのか、それともただ様子を見ているだけなのか、青白い竜は結界の中で俺たちを注視している。


「コスモスちゃんがくれたコレがなかったら、俺たち死んでたな……っ。ん、今は深紅色か……」

「真っ赤っかですね……。これは、怒ってますね、しゅんごく……」


「ねぇ、マリー……。アレは諦めて、別のドラゴンにチェンジしない……?」

「……それは、ダメです」


 俺がそう提案すると、マリーは顔付きを鋭くして怖い怖いストームドラゴンに目を送った。


「なんで? あんな怒りん坊――」


「そんなの関係ないですっ、仲間は、助けるのですよっ!! あんなところに閉じ込められて、ずぅぅ~~っとひとりぼっちだなんてっ、そんなの可哀想なのですよー……っっ!!」


 うっ、なんて真っ直ぐな眼差しでこっちを見るするんだ……。


 言うなればこれは、迷いなき思いやりだ……!

 ヘタレた俺がまるでゴミクズのようだ……!


「じゃ、説得は任せた」

「はいなのですっ! が、がんばらせていただくのですっ! こ、怖い、ですけど……」


 と、いうわけで、ヘタレの俺はマリーに全てを託したのだった。

 俺から見れば封じられて当然の狂えるドラゴンも、同族のマリーからすれば大切な仲間なのだろう。


「あ、そうだ。これ」

「は、はうっ……?!」


 もしかしたらと思って、俺はマリーの手を取ってラブラブテスターを握らせた。


「わ、わわわわ~っ?!」


 俺のマリーへの気持ちは光り輝くような琥珀色だった。


 マリーは最初こそ驚いていたけれど、その明るい輝きをだらしない顔をして喜んで、すぐに俺の意図を察してストームドラゴンに向けてくれた。


 色合いは先ほどと全く同じ深紅だった。


「あぅ、マリーも嫌われていたのです……」

「いや、嫌われているっていうより、これは……。正気を失っているんじゃないかな?」


 【本官が職質したい不審者ランキングトップ10】


 に入るであろう俺と、見るからに人畜無害で手元に飴でもあったらくれてやりたくなるマリーが、同格のブチ切れ度というのはどう考えたっておかしい。


「そうなのですか……?」

「マリーみたいにかわいい子に、怒りの感情を持てるやつなんてそうそうないよ」


「へ……へへ、でへへへへー……♪」


 もう必要ないだろうと、人の感情を読み解く物騒なやつをマリーから返してもらった。

 マリーはあらためて覚悟を決めて、ストームドラゴンに3歩だけ近寄った。


「あ、あの……怒らないで、聞いて下さい。マリーは、ストームドラゴンさんと、同じドラゴンなのですよ~っ。マリーのお話、聞いて下さいっ! ピィィッ?!」


 さっきの真空波が足下に着弾して、俺たちは粉塵化した岩にせき込んだ。

 会話が通じない!! ってやつだった。


「ダメだね、コイツには会話も通じていないみたいだ」

「あ、もしかしたら……。ずっと封印されてたせいで、そのせいで正気を失っちゃったのかも……」


「あるいは正気を失ったから封印された、って可能性もあるね」

「うぅ……。この人、どうしましょう……」


 言うとマリーが悲しむから言わないけど、この竜のテイムはもう諦めたい……。


 ずっと正気を失っていて、果てしない年月をここで封じられて生きてきたと思えば哀れにもなるけれど……。


 常時激おこプンプンで殺意マックスのこの竜とお友達になれる気が全くしない!

 もう帰りたい!


「マリー、ここは1度引き返して、ニートだけど知恵だけは回るコスモスちゃんを頼――」

「そうですっ、ラーメンですっ! ここは、ラーメンの出番なのですよ~っっ!!」


「……はい? ラーメン?」


 突然マリーが顔を輝かせながら何かを閃いた。


「ラーメンを食べさせてあげれば、ストームドラゴンさんも正気に戻るかもなのですっ!!」

「……え? それ、どういう理屈……? ちょ、えっ、マリーッ?!」


「食材の買い出し、行ってくるですよっ! 待ってて下さいねっ、お兄ちゃんっ、ストームさんっ!」


 マリーはイエロードラゴンに変身して、ストームドラゴンと比べて小さなその翼を羽ばたかせた。


 ちなみに俺は、クソ雑魚ナメクジにもその風圧に吹っ飛ばされてたとさ!


「……えっ? あれっ? ちょっ、俺をこんなところに置いてかないでくれぇぇっ?! ってもういねぇーっっ?!!」


 イエロードラゴンが買い出しに風穴を立ち去り、残された俺は狂えるストームドラゴンの目の前に置き去りにされた……。


 恐ろしくなってラブラブテスター、略してラブテスを使ってストームドラゴンを観察すると、その輝きは燃えるような深紅を保ったままだった。


「そう怒るなって……。そっちの事情はよくわかんないけどさ、俺たちは敵じゃないって……」


 宝石の色合いは変わらない。

 俺は岩影に隠れて、マリーの帰還を震えながら待った。

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