・大いなる翼、新たなる竜を求めて

「ヒャッハーッ! とか言いたくなるくらい気持ちいいよ、マリー! 君の背は最高だ!」


 ふさふさのイエロードラゴンにまたがって空の旅は、躍動感と疾走感にあふれていて最高だった!


 その大いなる翼が羽ばたくと、ギュンッと不思議な力でドラゴンの身体が加速して、ふわふわのその毛皮が冷たい空気から俺を守ってくれた。


「は、はう……」

「もしかして、マリーは高いところが苦手なの?」


「そ、そんなことないのですよ……っ。で、でも、あの、その……。あ、当たって……」

「ごめん、後半よく聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」


「あ……あうあうあう……っ」

「ははは、まあいいか! マリーのおかげで、世界が変わったかのような気分だよ!」


 イエロードラゴンは腐りかけのカオスドラゴンとは比較にならないほどに乗りやすかった。


 それに繰り返すけどこの毛並みが最高で、俺は温かな毛にギュッとしがみついてイエロードラゴンの匂いを嗅いだ。

 お日様の匂いだった。


「そ、そんなに、抱きつかない欲しいのです……」

「え、なんで?」


「えーっ、そんなの決まってるですよーっ!? こ、こういうのは、け、結婚してからなのです……」

「……あ、それもそっか。イエロードラゴンって、そういえばあのちっちゃなマリーだったっけ」


「えーっえーっ、マリーはマリーなのですよーっ!?」


 俺は幼女マリーの背中に股間を押し付けて、べったりとくっついている変態野郎らしい。


 マリーとしてはそれは大変なことで、さっきから翼の動きがどうもぎこちないのはそのせいだった。


「えーっと……ごめん。なんか、ドラゴン相手だとラッキースケベに乗り切れないというか……やっぱり気持ちいいな、このふかふか……っ!!」


「ギャーーッッ、スリスリしないで下さぃぃーっっ?!」


「そう言われたって……今のマリーは超でっかいワンコか何かにしか見えないよ」


 ふわふわのやわらかい毛並みが最高だ。

 しかし遅れて少し申し訳なくなってきたので、俺はドラゴンレーダァを起動した。


「軌道が少しずれているな」

「お、お兄ちゃんが変なことするからなのですよーっ?!」


「はいはい。少し左……もう少し、ん……よし、このくらいだ。よーし、偉いぞ」

「わんわん……っ、なのです……」


 時折レーダーで軌道を修正しながら、北東へ北東へと進んだ。



 ・



 イエロードラゴンの翼は圧倒的で、翼がボロボロのカオスドラゴンよりもずっと速かった。


 4時間ほど跳び続けると、俺たちは暴風渦巻く山岳へと到着していた。


「こ、これ以上は……っ」

「無理か?」


「お、お兄ちゃんの首が、突風で後ろに折れるかもなのです……っ」

「死ぬじゃんよ!? 下りようっ、すぐ下りよう!!」


 俺たちは地上に降下した。

 辺りは草もまともに生えない岩山で、雪はないが木々がなく冷たく荒涼としていた。


「あ、近いですね~?」

「そうだね。それに地上は風が落ち着いててよかった」


「マリーが前を歩くです。レーダァはニコラスお兄ちゃんに任せたです」

「頼もしいよ。コスモスちゃんよりずっとね」


「でへへへ……♪ カオスちゃん、お兄ちゃんにメロメロだったですね~♪」

「今日1番の衝撃だったよ」


 コスモスちゃんは怠惰で身勝手で人類の時代を終わらせようとしている困ったやつだけど、どうしても憎めない。


 ラブラブテスターを出した時だって、アイツの自爆する姿がかわいらしかった。


「あれ、洞窟、あるですよ……?」

「レーダァはこの先を示しているみたいだ。地上か地下か、こうなるとわからないな……」


 正確には風穴。

 巨大な穴が岩山の奥にぽっかりと開いていて、背中から風穴の中へと風が流れ込んでいた。


「きっと、中ですよ」

「なぜ?」


「それはー、中の方が暖かそうだからですっ」

「……それもそうだな」


 俺たちは風穴を下り、新たなるドラゴンを求めて奥へと進んだ。

 マリーが言うとおり、中の方がずっと暖かかった。


 最初は照明を持ってこればよかったと後悔したが、ところどころ天井が落盤していたり、風化による侵食で穴が開いていたので、明るさはどうにかなりそうだ。


「ぁ……っ、いたです……」


 先頭のマリーがそうつぶやいた。

 何かと思い、彼女の視線を追って顔を上げた。


 するとそこに巨竜がいた。

 イエロードラゴンよりずっと大きな竜で、下手をすればカオスドラゴンに匹敵するほどに巨大だった。


 竜は全身を錆びることのない銀の鎖で縛り付けられており、さらには魔術による封印である魔法陣が、数え切れないほどに周囲に張り巡らされていた。


「ストームドラゴン、なのです……」


 最初は死んでいるのかと思った。

 だがその竜は目を開き、首をもたげてこちらを見た。


 こういう時のためにコスモスちゃんはラブラブテスターを持たせてくれた。

 俺はポケットからあの宝石を取り出して、相手に向けた。


 宝石の色は――黒。漆黒だ。


「ぴ、ぴぇぇーっっ?!!」

「殺意ぃぃーっっ?!!」


 これだけ厳重に封じられているというのに、真空波とでも呼べる何かが結界をぶち破って俺たちを襲った。

 砂塵を上げて足元の岩が割けた。


 ちょっ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ、こんなん死んでしまうぅぅっっ!!


 俺はマリーと一緒に、殺意マックスの真空波からガチ泣きで逃げだしたのだった……。

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