・愛されロリ、あるいはイエロードラゴン
安宿を出ると、俺はコスモスちゃんにドラゴンレーダァーの使い方を教わりながら町を出た。
……徒歩で。
「もう飛びたくなーいーっ、ラーメンが切れて力が出なーいっ!」
「ああそう……」
本当に使えないな、この駄竜……。
朝っぱらからニートの心意気を見せつけられてげんなりしながら、とにかく俺たちはレーダァを頼りに東に向かった。
「ふふふっ、どんな竜が待っているか楽しみだな、我が主よ♪」
「え、あ、うん……。なんでそんなに機嫌が良いの……?」
爽やかな朝日。
湯とオートミールだけで無理矢理満たした一応満腹の腹。
暖炉の温もりを若干残したコスモスちゃんは上機嫌で腕を組んできて、今だけはちょっと温かかった。
「昨晩は温かかった。あんな夜、何百年ぶりかわからん……」
「コスモスちゃん……」
いつでも俺が温めてやるぜ……。
ここでそう言えるのが男の中の男なのかもしれない。
けど無理無理無理っ、あんな夜ばっかり過ごしたら、人はいつか肺炎になって死ぬ!
「我が主よ、貴様は美味しくて温かいから好きだ」
「捕食対象として見られているようにしか聞こえないって、それ……」
「うむっ、貴様は食べたら絶対美味いっ♪」
「怖いよっ!?」
幸せいっぱいのコスモスちゃんと正反対に、俺は命の危険を感じながら緑あふれる街道を進んでいった。
もし季節が夏だったら、俺たちの関係はきっとwinwinだったのだろう……。
彼女の身体は次第に冷えて、俺から熱を奪い取っていった……。
・
「ねぇ、これ壊れてるんじゃない……?」
「いや、壊れてはいない。アレがイエロードラゴンだ」
レーダァが見つけ出したのはブロンドの愛らしい少女だった。
小さな身体で身体よりも大きなリュックサックを背負っていて、頭には旅商人の羽根帽子をかぶっている。
そんな愛らしい少女がバザーのあちこちに明るく愛想を振りまいていた。
「あら、マリーちゃん、戻ってたんだね! ほらっ、ちょっと寄っていきなよ」
「八百屋のおばさん、ただいまなのです! はわっ!?」
八百屋からはリンゴをリュックにねじ込まれていた。
「よく帰ったな、マリー! 持ってけ持ってけ!」
「はわわわっ?! だ、だめなのです皆さんっ、マリーのリュックはそんなに入らないのですよぉーっ?!」
「うちの揚げ菓子もあげるわ」
「なんだとぉ!? ならこいつも持ってけ持ってけっ!」
「わーっわぁぁーっ?! ミカンはダメですっ、中で潰れちゃうのですよぉーっ?!」
なんか……微笑ましいな、この子……。
こんなに愛されている子がドラゴンのわけがないじゃないか。
マリーは嬉しそうな困り笑いで、バザー街の1人1人にペコリペコリと律儀なお辞儀をしている。
その姿を見ているだけで人の良心を感じて俺も癒された。
「絶対違うって。あれだたの愛されロリだって。下手に接触すれば声かけ事案発生だって……」
「信用しろ、アレはイエロードラゴンで間違いない。我があの魂の色を忘れるわけがない」
「そう言われたって……」
「イエローは我の数少ない友人だ。頼れば必ず助けてくれる」
「コスモスちゃん、友達いたの……?」
「言いたいことはわかる。だが気付くとアレに懐かれてしまっていたのだ……。邪険にはできなかろう……」
笑顔を振りまくマリーの姿を見ていると、ほだされるコスモスちゃんが目に浮かぶようだった。
「尾行するぞ」
「ねぇコスモスちゃん……。なんかこれ、メチャメチャ犯罪臭い気がするんだけど……」
「ならば腕でも組もう」
「冷たっ……」
「ぁぁ、温かい……」
「そんなにくっかないで……っ、冷たいっ、マジで冷たいって……っ」
「恥ずかしがらないで、ダーリンッ♪」
「誰がダーリンだよ……っっ」
「クククッ……体温の急上昇を確認したぞ。そうか、気に入ったか、ダーリンよ」
「恥ずかしいからだってのっ!!」
俺たちは見るに堪えないバカップルに擬態しながら、いたいけな幼女を尾行した。
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