・ラーメンを笑う者、滅竜に泣く - 塵も残さず滅そう♪ -
「何すんだよ、お前っっ?!! これのどこが5辛だよっ、このアホーッッ!!」
「やかましい! 貴様が余計なことを言うから1辛にすらならなかったではないか!」
「文句言ってるのはこっちだっての! こんなんアレだぞっ、もはや物壊すなってレベルじゃねーぞ!?」
「カオスドラゴンが物を破壊して何が悪い」
「ペットの不始末は飼い主の不始末って、人間社会では鉄の掟で決まってんだよぉっっ!!」
コスモスちゃんは殻ごと自分たちを浮遊させると、カオスドラゴンの背にまたがった。
翼が羽ばたくと翼膜もないのに巨体が浮かび上がり、そのおぞましい姿は町の人々を震撼させた。
『助けて、助けて、ドラゴンよ、助けて!』
と人々は
「命じよ、ラーメン屋。町を滅ぼせと、貴様はただ我に命じればそれでいい……」
「いや、なんで?」
「復讐したいのだろう……?」
「いや別に」
と、思ったりもしたんだけど……。
「ニコラスッ、またお前かっっ!!」
「3つの頭を持つ堕ちた竜……まさかあれは、伝説のカオスドラゴンなのかっ!?」
俺をあんな目に遭わせた憲兵たちが目に入っちゃった……。
あと俺を傲慢な理由で雑に裁いた裁判所も……。
でもダメダメ、悪いこと考えたら絶対ダメ。
怒りに身を任せてあれを攻撃させたら、罪状が増してしまう!
「あいわかった」
「え、何が!?」
「アレが我が主をいじめたのだな……うむ、あいわかった。塵も残さず滅そう♪」
「わかってねーよっ!? 止めろ止めろ止めろ止めろっ、撃つな撃つな撃つなっ、ギャーッッ?!!」
コスモスちゃんはかわいい声で独善的な審判を下し、0.001辛くらいの闇のブレスを牢獄前の憲兵たちと、裁判所へとぶっ放した。
「ニコラスッ、公務執行妨害で逮捕――」
「待避っ、待避ぃぃっっ!!」
裁判所は跡形もなく吹き飛びただのガレキとなった。
憲兵さんたちがいた場所は小さなクレーターとなって、職務熱心な憲兵さんの声も姿も消えてなくなっていた。
「ああ……快……感……♪」
「快感じゃねーよっ、何考えてんのよ、君ぃーっ!?」
「だが腹が減った……。我はラーメンが食べたい……」
「だったら後先考えて行動しろよ……」
「うむ、そういうのは苦手だ♪」
このドラゴンゾンビ、やっぱり脳味噌まで溶けてるんじゃ……。
「さあスッキリしたところで行くぞ、ニコラス! 我らのラーメン漫遊記の始まりだっ!」
「ああ、どえらいドラゴンをテイムをしてしまった……」
学校でテイマー職の基礎は教わっている。その中で先生はこう言っていた……。
世界にはテイムできるが支配下には置けないモンスターたちがいる。
元々の性質が
「ニコラス」
「なんだよ、コスモスちゃん……」
竜は北へ飛んだ。
悲劇の逃避行と言ったら北。
そう相場が決まっている。
「我を従えた今、貴様は全ての竜の頂点に立つ資格を得た。喜ぶがよいぞ……ニコラス♪」
「なぜそこで、くっつく……?」
コスモスちゃんはかわいい。
カオスドラゴンとは思えないほどに可憐な少女が、竜の背の上で反転して人の胸に抱き付いてきた。
だけど……おかしいなぁ、おかしいなぁ……?
「ああ、温かい……」
なんか、コスモスちゃん……死体みたいに冷たいような……。
確かめるのは怖いけど、確かめないともっと怖いし、俺は彼女の抱擁を受け止めるふりをして、手首の裏側に親指を当てた。
「ねぇ、コスモスちゃん……なんか君、脈とか死んでない……?」
「ならば直接確かめてみよ。ほれ……♪」
「おっふ……♪ って、やっぱ死んでんじゃん君ぃっ!?」
大胆にもコスモスちゃんは学生服の下に俺の手を引っ張り込んだが、そこにドキドキのときめきはなかった。
完全に、心臓が止まっておられた……。
「クククッ、これで
「怖っ、コスモスちゃん超怖っ!!」
こうして俺は属性盛り過ぎのコスモスちゃんと、ラーメンが禁じられた地で滅竜と共にラーメン屋を営むという、芸術点の高いアクロバティックな人生へと身を投じてゆくのだった……。
「ニコラスッ♪ 我と一緒に世界を滅ぼそうっ♪ そして生ける者無き滅びの大地にて……死者とラーメンと緑だけの幸せな世界を作ろうなっ♪」
「甘ったるい声で物騒なことゆーな……」
ラーメン……ラーメンって、なんだ……?
心の問いかけに言葉は返ってこなかった……。
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