・ラーメンを笑う者、滅竜に泣く - 世界を滅ぼしかけた竜 -

「うっ……?!」


 そう思ったのもつかの間。


 ドラゴンテイマーの言葉と竜の誓約は力となり現象となり、巨大なドラゴンゾンビは霧となって俺の胸の中に吸い込まれていった。


 おまけに白昼夢のように妙な映像が頭に流れ込んできた。


「クククッ……何者を取り込んでしまったのか、今さら気付いたようだな、ラーメン屋よ……」

「お、お前、は……?!」


 う、嘘っ、そんなことまでしちゃうの!?


 流れてきた映像はR18指定確実のヤバいやつだった。

 いやエロス的な意味でヤバいんじゃなくて、グロ的な意味でR18な精神攻撃同然のきっついやつだった。


「そうだ、我こそが滅竜!! 我こそが世界に破滅をもたらす者!! 我こそが竜族最強にして至上最悪!! 我は混沌の竜カオスなり!!」


 映像は手を結んだ人間とドラゴンたちにより、カオスドラゴンが討たれる結末で終わっていた。再びこの怪物が地上に放たれれば、人類は詰むかもしれない……。


 でもそうなったところで俺の知ったこっちゃないよね!

 元はと言えば、俺をこんなところにぶち込んだ連中が悪いんだしー!


「そっか、まあ正体なんてどうだっていいか。これからよろしくね、コスモス・・・・ちゃん」

「うむ、敬愛を込めてカオス様と呼ぶがよいぞ、クククッ……。ん……? 今、我のことを、なんと呼んだ……?」


「コスモスちゃん。映像の中でそう呼ばれてた。でも混沌の竜なのに、なんで秩序コスモスが本名なの?」


「し……知らん! コスモス? そんなやつは知らんっ! 我はカオスドラゴンッ、断じて本名コスモスちゃんなどではないっ! お……」


 全ての黒霧が俺の中に飲み込まれると、目の前に黒い髪、黒い目、白い肌をした裸の少女が現れた。


 伸びきった髪はお尻の下まで伸びていて、あの巨体が嘘のように小柄だった。

 さらには額から黒曜石のように輝く一角が伸びている。


「ほぅ……これが貴様の我へのイメージか。クククッ……小さいが腐り果てたあの姿よりはよかろう。気に入ったぞ」

「俺のイメージ? これが?」


「ああそうだ。はぁ、それにしても、我、美しい……まさかこんな姿になれるとはなぁ、ふふふっ……♪」

「ちょっ、踊り回る前に服着なよっ!?」


 自称カオスドラゴンのコスモスちゃんが素っ裸で踊り回るので、俺は学生服の上を彼女に差し出した。


 すると彼女は上着を受け取って、さも当然だと人の学生ズボンを指さした。


「ラーメン屋よ、股間丸出しの女と町を歩きたいというなら付き合うぞ」

「はい、お貸しさせていただきます……」


 露出趣味の変態彼氏彼女だと思われるくらいなら、Yシャツとネクタイにパンツ一丁の陽気な変態だと思われたまだマシだ?


 俺は少し迷った後に、ズボンをコスモスちゃんに差し出した。


 ニコラスは勇敢さが3上がった。

 素早さが2上がった。

 何か大切なものを30くらい失った気がした……。


「む、その格好、なかなかマニアックだな……」

「そっちもね……」


「して、そろそろ脱獄するか」

「どうやって?」


「こうやるのだ……」

「えっ、わっ、ちょっ……?!」


 コスモスちゃんは見た目が嘘のように力強かった。

 彼女は俺を抱き寄せると、紫色に燐光する魔法の殻で自分たちを包み込んだ。


「我が主よ、1辛と100辛まであるが、なん辛ぐらいがご希望だ?」

「えーと、よくわかんないし怖いからハチミツとリンゴ入りの甘口で」


「そんなのつまらん! 5辛から100辛の範囲で選べ!」

「いや、下限上がってない!? っていうか、それってなんの辛さなの……?」


「脱獄の辛さに決まっておろう!」

「いや意味わかんねーよっ!? じゃあ5辛で!」


「ククククッ……我が主を生け贄に捧げた罪、5辛で承ったぞ……」


 え……。

 さっきの世界滅亡の映像が否応なしにフラッシュバックした。こ、こいつ……。


「や、止め――」

「地上を汚す虫けらどもよ……」


 コスモスちゃんはなんと!

 自分自身であるカオスドラゴンを俺たちの前に顕現させた。


 そしてその破滅の竜は、3つの頭から深紫に輝くいかにもあかん系の闇のブレス的なものをゴゴゴゴゴと蓄えて――


「ちょっ、ちょダメッ、それ人死ぬから止めろよぉぉーっっ?!!」

「滅びよ……」


 天井とか、地下とか、牢獄とか、そういう概念を物理的に吹き飛ばした。


 わーい、まぶしーい、お空が見えるよー。

 青い空、白い雲、舞い上がる粉塵とガレキ。

 わーい、綺麗だなぁー……。

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