・3日で終わるラーメン修行編 - 刑! -

 と、こんな感じで修行の日々が続くと思うじゃん?


 一人前になるまでこのタダ働きを耐え抜いて、そこから独立したラーメン屋として足場を固めてゆこうとか、内心はそう思っていたいじゃん?


「ニコラスッ、またお前かっ!」

「ゲェッ、お巡りさんっ?! 大変です店ちょ――ってもういねぇっ?!!」


 修行3日目、この闇ラーメン屋人生に少しだけ慣れてきた気持ちのいい晩。現在、俺と屋台は国家権力の犬どもに完全包囲されていた。


 あれだけ賑わっていたというのに、お客の姿はもうどこにもない。


 対する国家権力の犬どもは、確認できるだけで7名という完璧な包囲体制で俺を睨んでいた。


「ラーメン屋だったか」

「え、いや……まだ見習いというか、あ、あはははー……」


「この場でラーメンを作って見せろ、ここはお前の店だろ?」

「違いますよ!? 目がこーんなっに細くて、髭がこーんなっ感じにうさん臭い東方の男が店主で――」


「嘘を吐くなっ、そんなコテコテのラーメン屋が今どきいるかっ!」

「いるんだからしょうがないじゃないですかーっ?!!」


「いいからラーメンを作れ、ニコラスッ!!」

「くっ……権力の犬どもめ……」


 材料は揃っている。


 師匠ほど上手くは作れないかもしれないが、俺は湯気を立てる深鍋に麺を入れ、求められるがままにチャーシュー麺を完成させた。


「ふんっ、本物だな……。美味……っ」

「うむ、これは本物だ。おお、この麺はなかなか……っ」

「これは、混ぜ物なしの極上の麺ではないか!?」

「こんな物を市民に食わせたら一口で依存症になるぞ! この極悪人めがっ!」


 憲兵たちはカウンターに群がって、それぞれが割り箸を手に取って俺のラーメンをむさぼり食い始めた。


 っていうかこいつら普通に食ってね?

 それになんで、箸の使い方がそんなに巧みなのですか?


 やつらは口々に文句を言いながらも、最後はスープを小皿に移して完全完食した。


 極上の味と温かいスープが憲兵さんたちを笑顔に変えて、ラブ&ピースの雰囲気が辺りに漂っていた。


「よし、では逮捕だ、ニコラス」

「しっかり完食してからそれ言いますぅっ!?」


 いやそんなものは幻想だった……。

 権力の犬どもは、好き放題食べ散らかすと元の鉄仮面に戻って職務を遂行した。


「はっきりと言ってニコラス、お前のラーメンはあまりに美味過ぎる。麺の茹で加減、スープのこの深み……素晴らしいの一言だ」


「ありがとうございます、お巡りさん。じゃあ……」

「うむ、これだけの味となると……ううむ」


「違うんです、誤解しないで下さい、お巡りさん! 俺はお金のためじゃなくて……ただ皆に、ラーメンの美味しさを伝えたかっただけなんです!」


 ぁ……そうか。これが俺の本心なんだ……。

 俺はあの晩、師匠のラーメンに魅了されて、この味わいでみんなを笑顔に――


「終身刑が妥当か」

「ちょっ、えっ、終身刑!? 何ソレ話飛んでねっ!?」

「いや絞首刑くらいじゃないか?」

「火炙りもあり得るな」


 みんなを笑顔にする前に、このままでは俺がお亡くなりになってしまう!

 この国の法律はどうなっているんだっ!?


「はははははははは……冗談でしょ、お巡りさん……?」

「ニコラス、お前をラーメンの製造、ラーメンの販売、およびラーメンの単純所持の現行犯で逮捕する」


「たかがラーメン作っただけだろっ!?」

「おい貴様っ、依存症に苦しむ患者に同じ言葉を言ってみろ! 生きたままその生皮を剥いでやるぞ!」


「いやただの食い過ぎだろ、それ!?」

「犯人が逮捕に抵抗! 確保しろ!」


「ちょっ、それただの暴力――フグゥァッ?!」


 俺は7名の憲兵たちに制圧という名の袋叩きにされ、動けなくなったところを町の地下牢へと拘留された……。



 ・



 翌日になると町の判事を交えて略式の裁判が行われた。

 判事はこう言った。


 ラーメン屋はクズの中のクズである。

 ラーメン屋に生きる価値はないのである。

 ラーメン屋を1匹見たら100匹いると思えなのである。と。


「被告人ニコラスを死罪とする。罪深きこの罪人を、ラードと鶏ガラスープでしっかりと味付けした後に、黒霧の者・・・・の生け贄とせよ、なのである」


 だいたい言いたいことは言い切ったので、そろそろ死ね。と。

 というわけで俺は裁判所から牢獄に連れ戻されるなり、町の地下に眠る深い深い地底へと連行された。

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