・ジョブ「ラーメン屋」がラーメンをキメた日 - 反社じゃねーよっっ?! -

 前向きに、前向きに考えよう。

 これは国外追放じゃない。わーい、海外旅行だー!


 ただ単に学問の機会と、寮生活と、奨学金で暮らせる優雅なモラトリアム期間を失っただけに過ぎないんだー!


「……何から何までダメじゃねーか、チクショーッ!! 何がラーメン屋だっ、たかだか食い物屋じゃねーかよぉっっ!!」


 ごめんやっぱり無理!

 前向きなんて無理無理無理、絶対無理!


 ジョブが確定したあの日、俺の人生は終わった!

 ラーメン屋かドラゴンテイマーにしかなれない俺に、まともな仕事はこの世界になかった!


 ダメ元で冒険者ギルドを訪ねてみたものの、帰ってきたのはやんわり笑顔の『拒絶』!


『当ギルドはドラゴンテイマーを募集してはおりません。新しいお仕事が見つかることをお祈りしております』


 お祈り!


『だったら荷物持ちでもいいよ! 金がないんだ、仕事をくれよっ!』

『そちらのお仕事はジョブ『荷物持ち』をお持ちの方以外は原則お断りしています』


 ジョブ必須のクソ社会!


『じゃあ、ダメ元で聞くけど、ジョブ『ラーメン屋』は需要とかあったり……?』

『え、反社の方はちょっと……』


『反社じゃねーよっっ?!』

『はっ、もしやあなたラーメンの押し売り!?』


『ねーわっ! んなもんどうやって押し売れっていうんだよぉっ?!』

『い、嫌っ、助けてっ、誰か助けて!!』


『ちょっ、大きな声出さないで……っ』

『助けてっ、変な男にラーメン漬けにされて鶏ガラ風呂に沈められるぅぅっっ!!』


『いやそれどういうシチュエーションだよっ!』


 冒険者ギルドは俺を必要としていなかった……。


 俺は逃げるようにギルドを飛び出し、ギルドの屈強なお兄様お姉様方に小一時間追いかけ回され、あえなくこうして現在に至った……。


「う、うう……。ラーメン……ラーメンってなんなんだよ……」


 あまりの惨めさに涙が滲んできた。

 俺は麗らかな公園のベンチに横たわり、鼻水をすすりながら自分を慰めた。


 こうなったらラーメン屋になって社会に復讐してやる! 

 覚えていろあのクソ女!

 いつか本当に鶏ガラ風呂に沈めてやるからなーっ!


 と思い立つも、俺はラーメンが具体的になんであるかをまるで知らなかった……。


「おいそこの怪しい若者、公共物で寝るな」

「え、お巡りさん?」


 そしたらやったね、憲兵さんたちに囲まれていたよ。

 屈強な兄貴たち3名が両手を胸の前に組んで、3WAYで無言の威圧感を若人わこうどに放っていたとも言う。


「仕事はどうした、こんな昼間からこんなところで何をやっている?」

「名前は?」

「身分証は?」


 これはきっとアレだ。職質ってやつ。

 ちょっとそこの不審者、兵舎までちょっとご同行願おう、って発展するやつだ、ヤバい!


「ニコラスです。仕事はありません……」

「無職か。では身分証を見せろ」


「え!? いや、でも……」


 身分証なら持っている。


 問題はその身分証は既にご親切にも更新されていて、ジョブの項目に『ラーメン屋』って記載されちゃっている点だ……。


 俺は止まぬ冷や汗を覚えながら恐ろしい現実を悟った。

 俺は既に――


 国家権力の敵の側にいたのだと!!


「早く出せ、ニコラス」

「喋らないならちょっと兵舎までご同行願おうか」


 任意同行キター!!


 だが俺は曲りなりにも学年主席だ。

 頭でっかちな頭をフル回転させて、今この状況に最適な決断を導き出した!


 任意? 任意なら従う必要ないですよね?

 って返すのは悪手の中の悪手!


 『なんだコイツ怪しいぞ』と国家権力の犬にロックオンされることになるだろう。


 なんでここは――


「あーっ?! あんなところにぃーっ、真っ昼間から厚切りチャーシューを出しているラーメン屋がいるっっ!!」

「何っ!?」

「チャーシュー麺だと!?」

「どこだ!? ええいけしからんっ、どこだっ、どこにいるっ!?」


 あ、こいつら全力で引っかかってやんの……。

 憲兵の視線が自分からそれると、俺は一陣の風となってその場から逃亡した。


「しまった、チャーシュ麺が美味いラーメン屋なんてどこにもいないぞ!」

「おいこら待て! 逃げるなニコラス、本官らとご同行願おう!」


 強制力たっぷりの任意がご同行を願ってきたが、ジョブ・ラーメン屋への世間の風当たりは氷獄コキュートスよりも冷たい!


 俺は明日のために国家権力の犬たちから逃げた!

 逃げて逃げて逃げまくった!

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