ジョブ『ラーメン屋』で簡単ドラゴンテイム ~ラーメンが禁じられた地で最強の竜たちと屋台を引こう~
ふつうのにーちゃん
第一章 ラーメンが禁じられた地
・俺、ラーメン食ったことないんですけど……?
1600年代後半、ラーメン禁止法と呼ばれる法律が制定された。
ラーメンは深刻な成人病をもたらす猛毒であり、恐ろしい常習性を持った麻薬である。
老人たちの時代に施行されたこの法律――
通称・禁ラー法は、1700年代に入った現在も変わらずに世界各国で支持され続けている。
「ニコラス、お気の毒ですが……」
「ちょ、ちょっと待ってよ、学長せんせ……。俺まだ何も悪いことしてないんだけど……?」
「残念です……」
「いや諦めるのが早過ぎるってっ!? 少しは抗おうよ現実に!?」
俺だってこの法律に不服なんてなかった。
だってラーメンなんて食ったことないし、食ったことのない物のために世界を敵に回すなんて、あまりにバカらしいと思っていた。
……ついこの間までは。
「貴方は国外追放処分となりました」
「こ、国外追放って……。つまり、退学ってことじゃん……」
「はい」
「はいじゃねーよっ?!」
人は数え年で18歳を迎えると、【生活系】と【戦闘系】ジョブの2つが目覚める。
例えば『人の世話をしながら綺麗好きな生活を続けて』『剣の鍛錬に打ち込んできた』人間には、【
「貴方の名誉のために休学扱いということにしておきます。もし恩赦が下りれば我が校に戻れます」
「いやいやいや、おかしいって! 恩赦って表現がそもそもおかしいでしょ!? 犯罪を犯してすらいない国民をいきなり国外追放って、完全にこれ、ディストピアのソレじゃねーかよっ?!」
なのでジョブは、その人間の18歳までの生き様であり、履歴書であるとまで言われている。
「それだけ政府が貴方を危険視しているということでしょう」
「いや、だからなんで……」
「貴方のジョブが【ラーメン屋】だからです」
「俺っ! そのラーメンを今日まで1度も食ったことがねーんですけどっ!?」
悲しげに学長先生は視線を書斎机に落とした。
俺は学長先生の大のお気に入りだった。
今日までどれだけこの人の世話になったかわからない……。
俺にとって学長先生は親代わりも同然だった……。
「ラーメンは人を殺す麻薬です……。国は未来の犯罪者を、国内には置きたくはないのでしょう……」
「麻薬って……たかが食い物だろ?」
「ラーメンは危険です」
「は? ならどう危険なんだよ?」
「あの、塩味と旨味たっぷりの熱々のスープ……。上澄みにはテカテカと輝くラードが浮かんでいて、そこに厚切りのチャーシューとシコシコのメンマと、ほどよいゆで具合のキャベツとモヤシが麺と絡み合うあの味わいは――やはり麻薬です」
「あのさ……」
え、チャーシューって何?
メンマって何?
なぜそこでおもむろに生つばを飲み込むの?
いや言いたいことは他にも山ほどあるけれど、ここはあえて、あえて一言だけに絞って物申そう……。
「ぜってー隠れてラーメン食ったことあるだろっ?!」
「ありません」
「嘘吐けよっ!?」
ちなみにもう一方の戦闘系ジョブはというと、俺は【ドラゴンテイマー】とかいうやつだった。
『えっ、もしかして勝ち組確定の最強職!?』
『嘘、これってレア職じゃん!?』
と胸躍ったのは最初だけで、実際はとんでもないハズレジョブだった。
だってほら、普通に考えればわかるじゃん?
ドラゴンは個体数が極端に少ない上に、他種族ブッチギリの最強種たちじゃん?
つまり出会うのも困難。
倒すのも困難。
そんな種族を専門にしたテイム職なんて、もはや隙間需要どころじゃない。
そしてレア職。レア職というのは規格外の歯車だ。
オンリーワンの個性があってイケているその反面、社会の歯車として見るとただの欠陥品だった。
事実、就職担当の先生なんかは、ハッキリとに俺にこう言い切った。
社会は画一的な才能を求めている。
レア職は就職活動において[終了]を意味する、と。
「とにかくすぐに荷物をまとめて下さい。我が校の学年主席が兵士に制圧されるところなんて、私たちは見たくありません」
「それは俺もヤダな……。はぁ、わかったよ……出てく。身よりのない俺をこんな立派な学校に入れてくれてありがとな、学長せんせ」
「ニコラス……」
「学長先生……。湿っぽい別れは止そうよ、余計に悲しくなる……」
「ああ、ニコラス……可哀想に……。どこかで良いラーメン屋さんになって下さい……」
「いや作んねーよ!? ラーメンが麺類だって今知ったくらいだっての!」
こうして俺はジョブ【ラーメン屋】が原因で、気持ちの整理を済ませる間もなく不穏分子として国外追放されたのだった……。
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