第4話 モーニングアップ

ー県庁ー



薫「で、着いたけど どう潜入するんだ?」


水希「もうすでに下拵えはしてある」


薫「は?」


水希「とりあえず、そこのトイレでこれに着替えな」と言われ、白シャツと黒のスラックスに着替える。


俺たちは、県庁の中へ入り総合案内に着くので話すのかと思いきや

エレベーターの方へ向かう。


薫「あれ、総合案内に何か言わなくていいのか?」


水希「いらないよ、そんなの もしかして、受付の女の子と話したかった?」


薫「ちげぇよ」


水希「だよね 私がいるし」

私がいるから、必要ない? すごい自信だな..


エレベーターの前へ着くと上を押す。


薫「で、千花さんがどういう顔か知ってるのか?」


水希「知ってるよ まぁ、千花さんのお母様がくる前から知ってたけどね」


薫「は?」俺の声と同時にエレベーターが降りてくる。


俺たちは中へ入り、8階を押す。中は、俺たち2人だけのようだ。


水希「ねぇ、私たちは若者の犯罪を犯すのを未然に防止することを目的としている それは、昨日行ったよね?」


薫「あぁ」


水希「そのためには、依頼者がこちらにお問合せをして、予約した日から私たちは依頼者が何を不安に思っているのか・なぜKTDに依頼して来たのかを調査している だから、すでに調査済みなのよ」


薫「…だとしてもまだ契約していない中で調査するっていうのはどうなんだ?」


聞きたいことを率直に聞いてみた。


水希「さっきも言ったけど、私たちは未然に防止することを目的としている そのためなら、プライバシーより優先されると思っている なにせよ、対象は危険な状態なのだから もしかすれば、人生を終わることになるかもしれない ね?自明でしょ?」


薫「そうだな で、どんな顔?」


水希「画像は持って来ていない 最悪のケースを想定してるから だから、今は私に着いてくるだけでいい ほら」そういって、名札を投げる。


水希「これを首からかけといて 職員に目をつけられないためにね」そう言って、職業対策課 高橋 という名札をもらった。


薫「職業対策課 高橋 なんているのか?」




水希「かわいいね 薫を食べちゃいたくらい」


そう言って俺の太ももに足を入れ、絡め始め、俺の顎に左手をそっと当てる。


薫「おぉい、水希?」



俺は、どこに視線を向けていいかわからず、左を見る。


それを見てか左手を離す。









水希「ねぇ、ここから気合い入れろよな お遊びじゃねぇんだから」



そういうと、前に向き真顔になり、8階へ着いた。


薫「すまない」と小さく言うと水希が少し笑った。


俺たちは、エレベーターをおり、俺はフロアに人がごった返しているのを見て面食らっていると、


水希「じゃあ、着いて来てな 新人くん で、進捗はどうだ?」


と言い、歩を進める。


薫「..あっと、データ解析は終わりまして、今は、プレゼンテーションの作成をしており、明後日の会議には間に合います」適当に会話しろってことかな?


水希「それじゃ遅いな、会議のセッティングや上の方への連絡もしなきゃだから今日中にプレゼンテーション作り終えておきな」周りは、俺たちが会話をしているためか全然気にしていない。


溶け込んでいるのだろうか。


薫「わかりました ただ、産業支援課の如月さん?って方からの返事がまだでして…」


水希「産業支援課?ちょうどここじゃないか 新人くん」


薫「確かにそうですね     あのすみません、如月さんって方います?」俺たちの声が聞こえていたのだろうか 


あの人ですと教えてくれる綺麗なお姉さんがいた。


名札を見ると秘書と書かれていた。


俺の専属秘書になってくれねぇかな..


そんな甘い妄想に浸るのをやめ、如月さんと思われる人を見る。


薫「……」どこかで..


おい、と俺のお腹を小突いてきた。


薫「..あちらにおられるそうです 田中主任」と名札を見てそう言った。


水希「そのようだね..」俺たちは如月千花に接近せず、少し遠くの空いている空間で二人は立ち止まった。


水希「対象に間違えない..」と、俺に小さく言った。


千花さんのデスクは、かなり資料やバインダーが積まれている。


周りの職員よりも明らかに多い。


少し見ていると、忙しそうにしているのに、他の職員から質問や相談された時は、手を止めてしっかりと話を聞いている。


話が終わると急いで自分の作業へ戻る。


水希「薫は、彼女をどう見る?仕事ができない子なのか..」俺を試しているのだろうか..


薫「おそらく、それは違う」


水希「ほぉー、その心は?」


薫「人ってさ、仕事できないやつには仕事を振らないだよ」


水希「それは、相対的に仕事量が多いってこと?」



薫「あぁ」

水希「だとしても、デスクの上にあの量の資料やバインダーがあるってのは仕事が遅くて溜まっているとも考えられない?」


薫「違うな 仕事ができる人は、頭の回転を切り替えることに長けている 要するに「本当の頭の良さ」だな」


水希「本当の頭の良さ?」


薫「仕事をする時は、トップスピードで脳をフル回転し作業を進め、他の職員に話しかけられた時は、スピードを落とす代わりにじっくりと思考の質を高めさせ、その質問・相談者に気づかせる一言や助言を与える これができるのが俺の中で「本当の頭の良さ」だと思う」


水希「なるほどね、どちらかだけをできる人ではなく、両方を場面において切り替えることができる人が優秀ってことね?」


薫「そう、それを彼女はやっている」


水希「薫もそうだったの?」


薫「..まぁな…だから、わかるんだ 俺と似ている それと仕事ができるだけの人は仕事を割り振られない」


水希「ん?」


薫「人ってのは、その人が優秀かどうかで仕事を任せるのもあるかもしれないが、実は、その人の人となりをよく見ている」


水希「…」


薫「だから、話をかけられて怪訝な顔をする人には近づかないし、仕事の質問や仕事を振らないんだ だけど、千花さんはどんなに忙しくても手を止め優しく、時々笑いながら対応している そりゃ、仕事は溜まるわな」


水希「仕事もでき、人となりも優秀…だから仕事が溜まるか…  なるほどね、勉強になった 薫を連れて来てよかった」そう言って、水希はエレベーターへ戻ろうとする。


俺は、なんで戻るんだ?と言いたかったが、言うのをやめ、エレベーターに乗り、水希が下を押す。


そして、エレベーターが来たので中へ入り、1階を押す。


ドアが閉まる。俺たちだけだ。


水希「よく我慢できました 偉いネェー」そう言って俺の頭を撫でる。


薫「で、なんで一階に降りたんだ?」


水希「あれ?撫でるのを止めないところを見ると嬉しいのかな?」ニヤニヤしながら俺を見てくる。


薫「…」


水希「ごめんごめん」撫でるのをやめた。


水希「実は、すでに昼休みに県庁の外の喫茶店で食事をするのがわかっている そして、そこで接近する」


薫「..接近した後はどうする?」


水希「フランクに話しかける」


薫「話しかける?」


水希「そ、あとは、あんたに任せる」


薫「は?俺に?」


水希「そう、あんたが適任だと思うから」


薫「…」


水希「一つだけお願いがある」


薫「なに?」


水希「私を怒れ」


薫「何を言ってるんだよ」


水希「まぁ、時が来ればわかる」


そう言うと、エレベーターが1回に着いたので降りる。


水希「じゃあ、後からLONEにマップ送るでそこに13時10分に集合な 私が車使うから」そう言ってそそくさと車の方へ向かう。


あれ?俺が鍵を持って…あれない。


水希の方を見ると人差し指で鍵を回している。


そして、こっちを見てニコッと笑う。



まさか、あの時か..



あいつスリの技術高すぎだろ…


俺は、一人残された、今は、10時半まだまだ時間がある。


薫「少し、考えるか」そう呟き、一人で県庁の周りを回った。

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