第13話 女騎士くっころちゃん

王城を挟んで『魔法研究棟』と対になって建てられちる巨大な建造物。そこは、騎士に憧れ騎士を志す者が通う学園だった。名は『フーェリス騎士学園』

学園ではあるが年齢制限は無く、指定の入学金と一定の実力があれば誰でも入園可能な学園だそうだ。クッコロはこの学園で、現在最強の騎士として君臨している。今のところはだが……。


前日、ニクキンに巨乳モデル依頼を頼まれた俺は、早速、クッコロに交渉しようとこの学園まで赴いた。正門前の受付で見学の手続きをお願いする。国王様から頂いた『魔王討伐の証』を見せると、すぐに見学の許可を貰うことができた。やはり、こういった権力というかコネがあると、スムーズに事が進むよな。


クッコロの所在について受付で確認したところ、どうやら今は、この学園の闘技場で模擬試合をしているらしい。場所を学園内に設置された案内図で確認すると、俺はその場所に足を運んだ。


「おお! これが闘技場か! めちゃくちゃデカいな」


学園内の闘技場ということだったので体育館的な建物を想像していたのだが、コロッサス……、西洋の映画とかで見た円形闘技場のような本格的で巨大な建物だった。しかも建物のあちこちに、この世界独特の鮮やかな装飾も施されていた。見た目この闘技場にに相当な金を掛けているのが分かる。当然か。魔族との戦争で騎士の存在は国家の存亡に左右する。騎士の象徴となる場所に金を掛けるのは当然だろう。


闘技場の中に入ると、甲高い声援が闘技場に響き熱狂が伝わってくる。その中央では、二人の女騎士が対峙していた。一人は長い髪をなびかせる長身の女、クッコロだ。もう一人は……、ばあさん……? 見た目60歳くらいに見えるのだが……。身体は小さく体格的にも相当不利な気がするが、力強い立ち回りでクッコロの猛攻を裁いていた。すごいババアが居たものだ。


「「「きゃ~~! クッコロ様~~!」」」


クッコロが攻撃を繰り出すごとに、黄色い声援が闘技場内に響く。周りの観客をぐるりと見る限り全員女だった。

しょうがない。魔族戦争において、男の騎士はかなりの数が死亡した。深手の傷を追い治療中の者も多い。現状で騎士不足を補うには、女の騎士を育てる必要があるのだろう。敵は魔族だけではない。人間同士、魔族以外の他種族との抗争だって起こる可能性はあるのだからだ。とはいえ、魔族領域に接するこの国を侵略するのは、ディメリットの方が多い。他の国からの侵略行為がほとんど無いというのも、この国の強みなのかもしれない。


金属製の槍同士が激しくぶつかり合う甲高い音が鳴る。

若干だが、クッコロの方が分が悪い気がする。焦りが出たのかクッコロは強引に攻めようと足を踏み込む。


「たあああぁぁぁ!!」


クッコロの強い掛け声とともに、鋭い槍の一撃がババアを襲う。しかし、ババアはその強引な攻めを読んでいたのか間一髪でスルリとかわし、クッコロの横腹に槍の側面を叩きつける。


「ぐっ……!」


ババアとは思えない力で、長身のクッコロを吹き飛ばす。


「「「ああ! クッコロ様~~」」」


残念そうな黄色い声援と共に闘技場の鐘が鳴り、勝負の決着が付いたことを告げる。


「ああ~~。クッコロ様……、惜しかったですわ……」


「魔王討伐から、まだ日もそこまで経っておりませんし、まだ疲れが残っているのではないでしょうか……?」


「そうですわね~~。 あの百戦錬磨の教官と、互角に戦っているだけでも素晴らしいと思いますわ」


近くの女学生の会話が耳に入ってくる。……ふむ。あのババアはこの学園の教官なのか。通りで強い訳だ。それでも、もし全盛期のクッコロなら余裕で勝てた相手だろう。

悔しそうな表情でクッコロは、こちらに歩いてくた。俺と視線が合うと、表情が変わり巨大な胸を揺らしながら、駆け足で寄ってきた。


「ゆ、勇者……! ええと、今はタロウだったか」


「お疲れ様」


「見てくれたのに、負けてしまったな。タロウにはカッコいい所を見せたかったんだが……。次は、タロウにカッコいい所を見せることにしよう」


「とりあえず、ちょっとこい。医療室はどこだ?」


「タロウ!? 私はどこも怪我をしていないぞ!?」


「……いいから、こい……」


俺は闘技場の案内板で医療室の位置を確認すると、強引にクッコロの腕を掴みながら引きずっていった。


「一体何の真似だタロウ!」


医療室に入るや否や、憤怒したクッコロが俺に抗議してくる。魔族戦争も終わったので、クッコロがもう無理はしないだろうと思っていたのだが。先ほどの戦いを見る限り、まだ現役で騎士を続けるつもりらしい。


「魔族戦争で無理をし過ぎた体じゃ、もう、本来の力は出せないぞ」


「…………!」


俺の言葉にクッコロは驚きの表情を見せると、そのまま顔を背けてしまう。


「……いつから気付いていた?」


「ええと、最終決戦の前……、だったかな?」


「……そうか……。……だからあの時、私を前線ではなく後方に回したのか……」


クッコロは悔しそうに体を震えさせる。


「……それで、今日は何の用だ……?」


体から怒りのオーラを感じさせるほど、低くどす黒い声でクッコロが訪ねてくる。ちょっと恐怖を感じる。


「う、うむ。今日はお前に仕事の交渉をしにきたんだが……。どうだ? 魔族戦争も終わったし、クッコロは騎士として役目を十分果たしたんじゃないか? だから……」


「だから……? 騎士を辞めろというのか?」


「あのババア、教官だっけ? 多分、次は負けるぞ。それくらい、お前の体はヤバい気がする」


「騎士を辞めるつもりもない。タロウの仕事も騎士の役目があるのでできない。悪いが帰ってくれ」


……タイミングが悪かったか。クッコロは俺が思っている以上に騎士に執着して無理をしている。最悪の事態になる前になんとかしたいのだが。勇者パーティーの仲間だし。


「……タロウは私のことなど気にせず『エロゲー』という遊戯の商売をすればいいじゃないか! 私は、お前のエロゲーなどという余興に付き合っている暇はないんだ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛? 『エロゲー』が余興だと……?」


「な、なんだ……、タロウ……。そ、そんな怖い顔をしても、だ、ダメだぞ!」


「……そうかそうか……、よし、ならば『決闘だ』……」


「け、決闘……だと?」


「確か前に言ってたよな? この学園では『決闘』で、互いの大事なものを掛けて戦う風習があったって……?」


「そ、それは、昔の風習だ! それに私は魔法がほとんど使えない! タロウに有利なそんな決闘、公平じゃないだろ!」


「じゃあ、俺は魔法は使わない。魔法を使ったら負けでいいぞ。体技だけなら、クッコロの方が上じゃないか? 全盛期だったらの話だがな」


「…………」


「どうだ? これならほぼ公平だろう。クッコロが今での騎士として十分戦えるんだったらの話だが」


「……。それで……、何を賭ければいいんだ……」


「俺が勝ったら、クッコロは騎士を辞めて俺の『エロゲー』製作を手伝ってもらう」


「……つまり、私のこれからの人生という訳か……。いいだろう、その代わり、私が勝ったら……」


「……勝ったら……?」


「『エロゲー』などという遊戯からは足を洗ってもらい、私の召使いにでもなってもらう! ど、どうだ! や、辞めるなら今の内だぞ!!」


「いや、いいぞ。その条件で。勝負は五日後、この闘技場で決着をつけよう」


「こ、後悔するなよ……! タロウ!」


こうして、俺とクッコロの意地と人生を賭けた『決闘』が行われることになってしまったのだった。

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エロゲ太郎が異世界でエロゲ屋を始めるようです。 窓際ななみ @madogiwananami

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