第12話 巨乳がいいの!
「……くっ……、飲み会は……、当面……、勘弁だな……」
鈍い鈍痛が響く頭を押さえながら地獄の飲み会から生還し、何とか宿屋までたどり着くことができた。重い足取りで戸を開けると、目の前にはめちゃくちゃ不機嫌そうな従属奴隷さんのマオマオが、仁王立ちして俺を待ち構えていた。
「従属奴隷の夜の餌を保存食で済ませ、あまつさえ朝帰りなんて、いい身分のご主人様だこと……。ねえ! 聴いているのかしら、タロウ?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 耳をつまんで大声で叫ぶな゛な゛な゛!!」
頭の中で警笛のように鳴り響くような鈍痛の痛みに耐え、俺はマオマオに包み紙を見せる。マオマオは不機嫌そうにしながらも包み紙を俺から奪い取り、ごそごそと中身を確認する。
「あら、いい匂いのお菓子じゃない?」
包み紙の中身は、焼き菓子だ。地獄の飲み会が終わったとき、マジカがマオマオのお土産として渡してくれたものだ。た、助かった。あのまま、マオマオに叫ばれ続けたら気が狂ってしまったかもしれん。
「お詫びのお土産なんてタロウは気が利くじゃない。今回はこれで許してあげるわ」
そう捨て台詞を吐くと、床に寝そべり菓子を摘みながら読書を始める。もうちょっと従属奴隷らしく行儀よくして欲しいものだが、今はそんなことを言う気力も無かった。寝床に倒れ込んだ俺は、泥のように眠った。
――――――
「……、……、……」
誰かが俺の体を揺すっている。最初は心地よい揺れもだんだん激しくなっていき、ついに強力なデンマのような激しい揺れになる。
「!! な、なんだっ!!」
恐ろしいほどの揺れに驚き俺は飛び起きと、そこには当然のようにマオマオが居た。俺に触るマオマオの両手は、激しくバイブレーションしていた。
「……もう少し、優しく起こして欲しいんだが……」
「十分優しい起こし方なんだけど……、それよりも、タロウにお客さん」
「俺に……?」
窓の外を見ると、日は落ち始め薄暗くなってきていた。どうやら結構な時間寝てしまっていたらしい。おかげで頭の鈍痛もかなりマシになっていた。俺は頭を抱えながらヨロヨロとした足取りで居間に向かった。
「おお、タロウ! ……お前、頭を抱えて大丈夫か?」
「……なんで、ニクキンはそんなにピンピンしているんだよ……」
呆れる俺だったが、ニクキンの深刻そうな表情を見て、一気に酔いが冷めてしまう。
「……何か、問題があったのか……?」
「ああ……。それで、タロウに相談しに来たんだ」
ニクキンは、どちらかというと相談せずに自分でなんとかするタイプだ。そのニクキンが俺に相談しに来るということは、それなりに深刻な問題が起きてしまったんだろう。
「イラスト関係だよな? 一体、どんな相談なんだ?」
「実物が見たい」
「んん?」
「巨乳の女性の実物の裸が見たいんだ」
「な、なるほど……。直球だな……。モデル……、つまり人物の模範が欲しいってことだよな……?」
「ああ、そうだ。俺の頭の想像だけでは、もう限界に近い」
「そっか……、モデルか……。そこの従属奴隷じゃダメ?」
俺はお菓子を摘みながらゴロゴロして読書しているマオマオを指さす。
「ぺったんこだろ! 巨乳じゃないだろ! 巨乳の……、あの絵に近いモデルと言うのが必要なんだ!」
「そ、そうか……。し、しかし、ずいぶん力が入っているな……」
「タロウに、最高のエロゲーの絵を描くと宣言したから、当然だろう? どうだ、 心当たりはないか?」
「そ、そうだなあ……」
女の知り合いで巨乳……。パインは美乳だが巨乳ってほどでもない。カナデはちっぽいだ。この二人は、恐らくニクキンの望むモデルとしては不向きだろう。
だとすると、俺の知り合い……、勇者パーティーの中だとマジカかクッコロになるかな……。確かにあの二人なら、巨乳のモデルとしては恐らく大丈夫だろう。でも、マジカはなぁ……。土下座でもすればやってくれるかもしれないが、後がめちゃくちゃ恐ろしい気がする。
……マジカは最終手段として残しておくとして、消去法でいくとクッコロくらいしか俺の知り合いに居ない。
とりあえず、クッコロに頼んでみるか……。あの女騎士は押しに弱いから、押せ押せすれば、やってくれるかもしれん。
「分かった。ちょっとクッコロに頼んでみるぞ……。やってくれるかどうか分らんが……」
「おお、クッコロなら絵のイメージに合いそうだな! 俺は交渉というのが苦手だから、タロウに任せる。頼んだぞ」
「……ああ、分かった! エロゲーイラストのためだ! 全力でクッコロに『うん』と言わせてみせよう」
テーブルを叩き、俺は力強くニクキンに宣言したのだった。
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