第8話 ハメコン

「バレたら、やっぱり打ち首かよ!」


驚く素振りを見せる俺に、マジカは苦笑する。


「ふふ、心配するな。私たちは一蓮托生、死ぬときは一緒だ」


「嬉しくねぇ……」


笑いながらもマジカは腹を括っていた。ここまで来たら俺も腹を括るしかあるまい。括らないと『藤林せおり』の件も協力してもらえないし。


「……分かった。絶対バレるなよ? 絶対だぞ……!」


「タロウこそ、ポロリと誰かにしゃべったりするんじゃないぞ」


「あ、ああ……」


「それで、魔王さん……、マオマオはどうだ?」


「ん、ああ、俺の部屋から出ずに、マジカから借りた本を読み漁っているよ。もっとも……」


「もっとも……?」


「なんとなく、親になった気分だ……」


「ははは、そうか! それは良かったな! 良い経験になるんじゃないのか?」


「う、うるさい! そ、それで、マジカの話ってのはなんだ」


「おお、そうだった……! じゃあ、こっちへ来てみろ」


マジカは椅子から立つと、部屋の中央に俺を案内する。部屋の中央には魔族との戦いの中で見たことのある、人間の半身くらいの大きさの魔法具が置かれていた。


「これ、『魔法通話装置』だよな?」


『魔法通話装置』。戦争において離れた部隊との連絡を取り合う装置。装置にハメこまれた『魔法石』が共鳴することで、お互いの魔法石周辺の映像と音声を装置に映し出すものだ。元世界の物で例えるとテレビ電話や、ビデオチャットだな。使い勝手はビデオチャットとかに比べるとかなり悪いが、この世界において、かなり発展した魔法技術だと思う。


「……! まさか……、これって……!」


「ふふ、そうだ、タロウが話していた、その『試作品』だ!」


マジカは懐から魔法石を取り出すと、目の前の魔法通話装置に魔王石をハメはめこんだ。魔法通話装置は鈍い音を出しながら動きだすと、装置の平らな場所に、映像のようなものを映し出す。

しかし、その映像は、共鳴先と思える映像ではなかった。白と黒の四角のブロックが組み合わせ、何かを表している。そして、白い部分は色の階調を変えながら、別の何かへ変化していった。これは文字だ。この文字に俺は見覚えがある。


「藤……、林……、せ……、お……、り……」


黒の背景に白のブロックの組み合わせで、日本語が装置に映し出されていたのだ。

装置に映し出された画像の解像度は、1970年代のビデオゲーム並みであろう。しかし、それでも、ゲーム機とカセット、パソコン本体とフロッピーというようにハードとソフトが分かれたて動作する装置が目の前で動いているのだ。


ほんの数日前までは、こんなビデオゲームの概念すらなかったこの異世界で、これは奇跡に近いのではないだろうか!


「冒険の途中で、タロウに教えてらったもことを実際に試してみた。表示されているのは教えてもらった日本語だったが、どうだ、合っているか?」


「……いや、びっくりだ。この文字、間違いなく日本語『藤林せおり』と書かれている……。魔族との闘いからまだ十数日しか経っていないのに、マジカ……、ここまで再現していたのか……」


「ふふふ、まあ、魔法研究者としての性だな。『ハメコン』の研究はなかなか面白くて、ついつい進めてしまった。」


「『ハメコン』……?」


「タロウの世界では、こういうのは『コンピューター』と言うのだろう? 魔法石を『ハメ』て、稼働する『コンピューター』、略して『ハメコン』と名付けてみたのだが、どうだろう?」


「まあ、若干卑屈な響きな気がするが、いいんじゃないか? 作ったのマジカだし」


「よし、じゃあ名称は『ハメコン』で決定だな」


マジカはハメコンの上部を優しくなでなでしている。愛着でも湧いたのだろう。


「『ハメコン』の機能は、俺が求める理想にはまだまだ遠い。それでも、たった数日でこんなものを作るとは思わなかった。ハードの進化は早そうだな」


「そうだな、話を聞く限りだと、タロウの求める『エロゲー』を動かすには、描画処理、音声処理、内部命令処理など、足りないところが盛り沢山ではある。期待に応えられるようにできるだけ、頑張ってみよう」


マジカの実力であれば、魔法装置を改良してエロゲーが動くレベルの元世界のパソコン技術を短時間で開発することは十分可能な気がした。しかし、マジカはこの異世界の『四大魔法士』だ。一体どれくらいの時間を、こちらの作業に費やしてくれるのだろう。

無理とは承知で、俺はマジカに思っていることを提案してみることにした。


「マジカ、『俺の専属』として働いてみないか……?」


「……タロウ、それは、私に『四大魔法士』の職と『雷の魔法士』の称号を捨て、お前と一緒に働けということか……?」


俺の提案に、マジカは真剣な眼差しを向け質問し返す。


「そうだ……!」


自分で提案しておいてなんだが、めちゃくちゃな交渉だ。

魔王を討伐した報奨金があるとはいえ、マジカのような一流魔法士を雇えば、ものの数年で資金は枯渇してしまうだろう。マジカだって今の職は安定職だし、そもそも金にも困っていない。それに魔王の件だってある。正直、マジカが俺の専属になるのはメリットが無さすぎる。片手間でも手伝ってもらえるだけでありがたいと思わなければならいだろう。


「ああ、いいぞ」


「そっか、そうだよな……、そりゃ無理だよな……。……っていいの!?」


「ああ」


二つ返事でOKしたマジカに、俺は驚愕してしまった。


「あの……、給金もそこまでだせないぞ……」


「タロウに金は期待していない。私が期待するのは、タロウの元世界の情報と情熱だ」


「じょ、情報と情熱か……、そ、それなら……、大丈夫だ!」


「それに、魔法士といってもいろいろ面倒なことが多いんだよ、魔法の研究も最近は軍事関係に偏ってしまっているからな。正直、私は軍事関係の研究は気が乗らなかったんだよ。まったく、上の連中は……」


「そ、そうなのか……」


マジカは不機嫌そうに、俺に不満をつぶやく。


「何度か辞めようとは思ったが、上からの圧力も強くてね。しかし、タロウの専属となれば話は別だろう。なんといっても世界を救った勇者だからな。私が専属となって協力することに文句を言う者は少ないだろう」


マジカは、何か吹っ切れたような屈託のない笑顔を俺にむける。


「はは、まさか、マジカが専属で協力してくれるとは……、これから宜しくなマジカ」


「ああ、タロウ。私たちは一蓮托生だ。お前の求める最高のエロゲーを製作し、この世界に広げようじゃないか!」


俺は、この異世界で最強の理解者でもあり技術者を得ることができた。

元世界でやり残した未練……。『藤林せおり』の攻略…、衰退してしまったエロゲー界の復活。元世界に戻る手段が見つからなかった俺には、もう叶えられない願いだ。

しかし、この世界ならエロゲー界を繁栄させ、最高の『どきどきメモリーズ2』を製作し、降臨した『藤林せおり』を攻略することは可能だろう。

それが、この異世界に求める俺の願いなのだから!

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