第7話 従属奴隷さん

少し話は戻り、魔王との決着直後のお話――。


俺は魔王に最後の一撃を放とうとしたその時――。俺を制止したのはマジカだった。

『藤林せおり』を馬鹿にされ激昂した俺は、マジカをギロリと睨みつける。


「マジカ、何の真似だ……?」


「はぁ……、せおりちゃんでも馬鹿にされたりしたの? 魔王さんは既に魔法力は空、最強と言われた杖も貴方が壊しちゃったみたいだし、もう戦えないわ。少し魔王さんに聞きたいことがあってね。殺すにしても話を聞いた後でもいいでしょ?」


「…………」


「はぁ……。そんな狭量だから、せおりちゃんを攻略できなかったのよ?」


「ぐっ……」


た、確かに可愛い藤林せおりが、別の誰かと楽しそうに会話しているのにイライラして、あれこれお節介していたら『君、ストーカーみたいでちょっと怖い……、もうちょっと寛大になれないかな……?』とか言われて心が砕けそうになったイベントはあったが……。藤林せおりのキツイ台詞を思い出し、いなえてしまった俺は、魔王に向けた聖剣を下ろす。


「分かった……、マジカに任せるよ」


仲間の中でもマジカは唯一『藤林せおり』のことや『元世界』のことを相談できる人物だった。まあ、俺はもともとこの世界の人間じゃないし、この世界の未来はこの世界の人間が決めるのは問題ないだろう。


「ありがとう。じゃあ、魔王さん、質問に答えてくれるかしら」


「……ああ、何でも聞くが良い……」


「貴方、『魔族種の呪い』の影響を受けていないわね?」


「……! なんで、人間が『魔族種の呪い』のことを知っている……!?」


「不思議だったのよ、貴方の指揮が。できるだけ他種族を殺さないようにしていたでしょ」


「ああ、それはちょっと俺も気になっていた、魔王が指揮する軍勢と戦った時は必ず、こちらの被害は少なかったからな。魔王が舐めプでもしているかと思ったくらいだ。でも『魔族種の呪い』ってなんだ?」


「私が知る範囲の話だけど『魔族種の呪い』は、魔族種に生まれた時から掛けられてしまっている『他種族への怨念』という認識だわ」


「『他種族への怨念』……?」


「つまり、生まれたときから魔族種以外を恨み辛みを持ち、殺したいって思うようになっているってことかな」


「そんな、呪いがあるのか……?」


「私の家系は、魔族について色々調査していたんだけど『魔族種の呪い』について書かれた文献を昔見つけて、気になっていたの。ただ王国でこの話を信じる人はほとんど居なかったし、魔族ともまともに話すことができなかったからね。ようやく、話せる相手が見つかったって訳ね」


「……あたしが魔王になって先代の魔王が記載した書物に『魔族種の呪い』について書かれていた。『魔族種の呪い』は魔族の住む領地に掛けられた呪いで、その呪いの効果が強ければ強いほど、魔族としての力が増大するそうだ」


「ふうん、それで……?」


「あたしは、なんども他種族を憎もうとしたが、殺したいと思うほどにはできなかった。戦争になれば多くの魔族も死ぬことになるだろう。だから、あたしは戦争が起きないよう、魔族が安心して暮らせるような支配をしていた。しかし、『魔族種の呪い』の力は、あたしのようなちっぽけな魔王に止めることはできなかったわ」


「そんなに強い呪いだったのか……?」


「呪いの影響を受けなかった、歴代最弱の魔王だったからかもしれないわね。あたしの考えに多くの魔族が不満を持ち、他種族の領域へ進行しようとしたの。もし、各々が考えなしに進軍すれば、魔族に必要以上な被害がでるでしょう? だから、あたしは必要以上に被害がでないよう、魔族を統一して他種族への戦争を選ぶことにしたわ。戦いの中、もしかしたら『魔族種の呪い』から解放される道が見つかるかもしれない……、そんな希望を抱いてね……。結局負けちゃったけど……」


「もう一つ、貴方が死ねば、新たな魔王が誕生するっていうのは本当……?」


「……そんなことも知っているんだ、人間って侮れないわね。ええ、本当よ。魔王は世界に一人だけ。魔王が死んだ瞬間、次世代の魔王の種が誕生するわ。魔族はね、その種が開花し魔王としての力を付けるまで、魔族領域を全力で死守するの。でも、安心しなさい。次の魔王が戦争を仕掛けてくるときには、人間種の寿命は尽きていると思うから、人間族の貴方達が次の魔王と戦うことは無いわ。妖精族は知らないけど。魔族かそれ以外の種族、どちらかが消えるまで、この争いは続くのでしょうね」


魔王は悔しそうな表情で、そう語る。


「私はね、この魔王さんに未来を賭けてみようと思うんだけど、どうかしら?」


「えっ……? どういうことだマジカ?」


訥々にとんでもないことを言い出すマジカ。魔王に未来を賭けるっていうのはどういうことだ?


「まぁ、具体的な詳細はこれから考えないといけないんだけど、つまりこの『終わらない魔族と他種族との戦争』に終止符を打ちたいのよ。その為に、この魔王さんに協力して欲しいの」


「……人間が、あたしを信じるというの?」


「ええ、もちろん。こう見えても私、人を見る目はあるほうなのよ? 一応保険はかけさせてもらうけどね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、マジカ! 話に付いて行けないのだが、具体的にはどうするんだ?」


「それじゃあ、『マジカちゃんと魔王さんのみんななかよし大作戦』を説明するわね」


……突っ込んで欲しいのか、真面目なのか……。俺は作戦名には目をつぶり、マジカの作戦内容を聞くことにした。


「魔王さん、もう一つ確認だけど、魔族は魔王さんが死んだと思って魔族領域へ帰っていったのよね? もし、貴方が生きていたとしたら新しい魔王は誕生しない訳だけど、どれくらい魔族の人たちをごまかせそうかしら?」


「ご、ごまかす……?」


「ええ」


「前例もないので確証はないけれど……、おそらく半世紀程度は気付かないだろう……、と思う。魔王によって差はあれど、魔王が覚醒するまでは人間にとっては相当の年月が掛かるからな」


「うんうん、それなりの時間はありそうね。私たちは魔王さんが生きていることを全力で隠蔽するわ。そして、その間にこの繰り返される争いを止める方法を考える」


「ええと、他種族が魔族を全滅させるために、魔族領域に進軍するってことは無いのか……?」


「できるなら、とっくにやっているわ。魔族領域はね、他種族にとって命を奪うほどの有害な物質が常時噴き出しているの。だから、他種族にとっては魔族領域に魔族を隔離するっていうのが、現状での最善の手段になっているのよ」


「なるほど、だから魔王が敗れると、魔族は一旦自分たちの領地に戻り、魔王誕生まで籠城するって訳か……」


「だから、根本的な解決にはなっていないのよ。私はね、未来の私たちの子孫のために現状を打開したいの。だから魔王さん、力を貸してほしいのよ」


「……ふふ……、はは……、あはは……、ぐす……」


突然、魔王は笑い出した。両目から涙を流しながら希望を見つけたような目で。


「まさか、人間と、こんなことを話すことができるとは、夢にも思わなかった……。是非頼みたい。この魔王、どんな強力でも惜しまないことを約束しよう」


「勇者はどう? この私の提案……、乗ってくれる……?」


不安と期待が入り混じったような瞳で、マジカは俺を見つめ答えを待っている。


俺の答えは――。


「この世界の問題は、この世界の人間が決めればいい。そして、マジカは俺の信頼できる仲間だ、協力はしよう。ただし――」


「だたし……?」


「『藤林せおり』については、ちゃんと協力はしてもらうぞ。後はしらん、好きにしろ」


「うふふ、勇者は話が分かるわね。もちろん『藤林せおり』についても協力すると約束するわ。もっとも、あんな面白そうな話、こちらが率先して協力させてもらうけどね」


「よし、交渉成立だな! しかし、魔王はどうする? このままじゃすぐ身バレしそうだが……」


「魔王さんには、勇者の『従属奴隷』になってもらうわ。魔王さんも魔族種もこの世界の種族だから『従属奴隷の契約』で力を封じ込めることは可能でしょうし。もっとも、魔王さんより強い『勇者』くらいしか契約できないと思うけど、魔王さん、いいかしら?」


「あたしは敗者。勝者にはなんでも従うわ。『従属奴隷』でもなんでもやって頂戴」


「良かったわね、勇者! 今日から勇者も可愛い女の子の『従属奴隷』持ちよ!」


「言っとくが、俺は『藤林せおり』一筋だからな! だが、乗ったからには、まあいいだろう」


そして、その場で魔王を従属奴隷化させる。従属奴隷化された魔王は、子供のような姿に変わってしまった。マジカ曰く、『魔族を従属奴隷化させると、体のサイズや姿が変わる』ことがあるらしいとのこと。

これは俺の想像だが、マジカは事前に何人かの魔族を従属奴隷化を実験し、ある程度確証を得ていたのではないだろうか。マジカは俺の世界で言えば、完全なマッドサイエンティストだな。


小さくなった魔王は『マオマオ』という名前を付け呼ぶことにした。そして、この『マジカちゃんと魔王さんのみんななかよし大作戦』は、三人だけの秘密としマジカが秘密裏に進めることになったのだった。

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