第6話 魔王

祝賀会も一段落つき、仲間たちはそろぞれの宿泊先へ帰っていった。俺は部屋の出口で皆に別れの挨拶をし見送っていた。


「……ねぇ、勇者……、じゃなくて今はタロウって名前だっけ……」


会場に最後まで残ったパインが、パインらしくない仕草で寂しそうな声を上げる。謁見の祭典前はめちゃくちゃ元気だったのに、一体どうしたんだろう。


「どうした、パイン? 元気無いようだが……。もしかして食い過ぎたとか…?…」


「ち、違うもん! お、お腹いっぱい食べたけど! 食い過ぎてなんかないもん……!」


「そ、そうか……」


「……それで、えっと……、タロウは、『エロゲーの商人』になるんだよね……?」


「ああ、一応そのつもりだが……?」


「……えっと、この後、予定空いてる……?」


「あ、ああ、悪い、この後はちょっとマジカに呼ばれていて……」


「そ、そっか! マ、マジカ様か~~。……タロウはまだこの国にいるんでしょ?  途中で一人旅にでるとかしないよね?」


「ああ、旅に出る予定はないから、この世界の商人について調べないといけないし、少なくとも当面は今の宿屋で過ごすことになるかな……」


「分かった! じゃあ、今度でいいや。今日は皆一緒で楽しかったね! またね、タロウ!」


パインはいつもの調子で挨拶をすると、しっぽを振りながら会場を後にする。ただ、何となくだが無駄に元気を振舞っているような、そんな気がした。


祝賀会の会場には仲間の姿はなく、数人のメイドが後片付けを始めていた。一人でもくもくとエロゲーも良かったが、また、みんなとこんな集まりをするのも悪くないかもな。


「おっと! そろそろ、マジカのところに行かないと……」


俺はマジカとの約束を思い出すと、マジカが根城にしている研究室へ向かうことにした。


王城から少し歩いた場所にそびえたつ、巨大な白い塔、名称『魔法研究棟』。ここ『ナツハバラ』王国最大の魔法研究に特化した施設だった。その最上階は王国最高の魔法士の研究施設があり、その場所こそ、四大魔法士の一人・雷のマジカの研究室だった。

俺はさっそく入口で簡単な手続きを済ませ、最上階へ向かう。ここには浮遊魔法を付与した移動用部屋、元世界で言えばエレベーターのようなものがあるので、最上階までは数十秒で到着する。ここは他に比べ、魔法での生活水準はワンランク高いだろう。

最上階へ到着。装飾が施された金属製の扉の横に、センサーのようなものが設置されている。これが魔法装置だろうか? 教えられたとおり手をかざすと金属製の扉は鈍い音と共にゆっくりと開いていった。


「お、タロウ来たな? とりあえずお茶でいいかな?」


マジカは上着一枚、パンツ一枚という、おおよそ四大魔法士の威厳を感じさせない格好で、部屋の奥で椅子に座りくつろいでいた。マジカらしいと苦笑しつつ、俺は彼女の対面となる椅子に座る。


「それじゃあ、まずはタロウの話から聞こうか?」


「いいのか」


「私の話は、後のお楽しみだ」


少し顔がにやけて、楽しそうな表情をしていた。一体なんの話だ……? まぁいいか。とりあえず、周りに人の気配が無いことを確認した俺は、確認したい本題を話すことにした。


「魔王のこと、本当に王様にも黙っていていいのか……?」


「ん? ああ、やっぱり魔王の話ね。もちろんよ。もし王様や他の誰かに話したりなんかしたら、私とタロウ、両方の首が飛んじゃうわよ」


マジカはさらりと恐ろしいことを言う。

そう、魔王は討伐されて死んでなんていない――。まだ生きている――。

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