第4話 エロゲ太郎爆誕!
俺は時期王の座とヤンデーレ姫との結婚を断った。
できるだけ、もっともらしい理由で穏便に断ったつもりだったが、どうだろう……?
正直、時期王ってのは総理大臣と同じような感じなんだろ? 総理大臣なんて毎日SNSでぶっ叩かれていた記憶しかない。なんで、そんな茨の職業に異世界に来てまでしないといけないんだ? そんなめんどくさい職業は、なりたいやつに任せればいい。
それに、俺にはこの異世界でやらなければならない野望がある。その野望を成し遂げるためには、魔族を退け、魔王を討伐する以上の時間と労力が掛かってしまうだろう。
しかし、ヤンデーレがまさか俺と結婚したがっているとは思わなかった。冒険中もかなり馴れ馴れしかったので、適当にあしらっておいたのだが、はっきり断ればよかったかもしれないな。こんな公の場で恥をかかせてしまって、ちょっと可哀そうなことをしてしまったのかもしれない。
そんなことを考えていると、玉座の後ろのヤンデーレが、顔面蒼白のまま崩れるようにその場に倒れてしまった。
「ひ、姫様……!」
後ろに居たメイドが、ヤンデーレに寄り添い様子を伺っている。
「勇者殿は、そのままで」
国王が険しい表情で俺を制止する。俺は王の言葉に従った。
「誰か、ヤンデーレを寝室へ」
国王の言葉に、傍に使えていた一人の女性騎士が頷きヤンデーレを抱えると、寄り添ったメイドと共に国王の間から退出しようとした。
「……おのれっ……!」
付き添いのメイドが退出する直前、俺の方へ振り向くと、恐ろしい形相で俺を睨みつけた……、ような気がした。ほんの一瞬だが、魔王と対峙したときにすら感じなっかった恐ろしい殺意を感じた気がして、つい目を逸らしてしまう。顔を上げると、姫様たちは既に退出した後だった。
「勇者殿、お見苦しいところをお見せしてしまった。勇者殿に婚約を断られてしまい、動揺してしまったのだろう。気持ちの整理がつくまで時間が掛かると思うが、冒険した仲間として、温かく見守ってはくれないかのう」
「はい、国王様。ヤンデーレ姫は一緒に冒険した大切な仲間。仲間として精一杯対応させて頂きます」
「感謝する、勇者殿。皆にも心配を掛けた」
突発的な出来事でざわついた城内だったが、国王の言葉でそのざわつきも止まる。
「それでは、報奨の話を続けようか……。それで勇者殿、先ほど言っておった『叶えたい願い』だが、それは一体なんなのだ?」
国王は興味深々な様子で俺に尋ねてくる。よし、ここだ! この交渉で、俺のこの異世界のでの立ち回りが決まる。
「私は、前にいた世界で『ある商品』を販売する仕事をしておりました。その商品をこの世界でも制作し、販売したいと考えております」
「ほうほう……、それでその商品とは一体どんなものなのだ……?」
「私の世界では、多くの紳士・淑女に夢と希望を与え、人の欲望を他人に迷惑掛けることなく満たし、人によっては生きる糧となる素晴らしい商品です」
「ほお! そんな商品が、お主の世界では販売されておったのか!? それは、なんという商品だ?」
「『エロゲー』という遊戯でございます」
『エロゲー』という聞きなれない言葉と、遊戯という言葉に城内は騒めきだす。
遊戯する商品の販売。旅を続けて分かったが、この世界にはインドア的な娯楽が非常に少ない。魔族の領地『リンゴゴ』に隣接する国ということもあるだろうが、ほとんどの人間が、娯楽を持たず働くか、魔族と戦う為の訓練に励んでおり、遊戯に興じる余裕がほとんどないようだった。唯一娯楽と思われる遊戯が、上級国民に教えてもらった将棋のようなコマを動かす陣取りゲームくらいだったし。
「『エロゲー』とな…? 聞いたことのない遊戯の名じゃ」
「『エロゲー』は私たちの世界の遊戯の文化です。その文化をこの国でも広げたく是非お力を貸して頂きたい!」
「それでは、勇者殿の望みを言うが良い」
「はい、まずは、この国での『エロゲー』製作の独占権を頂きたいのです」
「独占権とな……?」
エロゲーの無断コピー『エロゲ割れ』は、エロゲーブランドにとってはまさに死活問題だった。なんたって『エロゲ割れ』のコピー品が出回れば、エロゲーの開発資金を回収できずに、会社が傾くことだってあるからだ。ネットのインフラ化も進み、『エロゲ割れ』のコピーデータの入手もし易くなった。その影響か一部では、エロゲーの市場規模の75%以上が違法ダウンロードしたものだったという話もある。
エロゲーの衰退の原因は他にもあるが、『エロゲ割れ』が、エロゲー衰退の原因の一つだったことは間違いないだろう。それだけ、無法地帯、コピー天国だったということだ。だったら、その原因を潰して、健全な業界になるようにすればいい。
「はい。私の国ではエロゲ割れ…、ええと、つまり商品の違法な複製が原因で、業界が衰退してしまった経緯がございます。この国で商売をするにあたり、同じ失敗を繰り返さないために、私が認めた者以外に製作できないようにして頂きたいのです」
「なるほど、つまりお主にその『エロゲー』の独占権を与え、勝手に複製したものには罰を与えるということか?」
「はい、その通りでございます」
「分かった。遊戯の独占であれば人々の生活に支障がでることもなかろう。罰については、勇者殿に敵対するということは王国に敵対するも同じ。極刑としようぞ」
「……あ、ありがとうございます」
罰が極刑は極端すぎる気もするが、まぁいいか。『エロゲ割り』をするやつなど、死刑すら生ぬるいとか思うし。これで少なくとも、この世界で『エロゲ割り』をすることが重罪になるという事実をつくることができた。それでも、命しらずの馬鹿が『エロゲ割り』をするとは思うが、エロゲー販売への影響はかなり小さくなるだろう。
「国王様。これで、心置きなくエロゲー販売の商売を始めることができます」
「他に欲しいものはあるか? 魔王を倒したことへの報奨、これだけでは足りぬと思うが」
「いいえ、既に報奨金も商いを立ち上げる上で十分頂いております。もし、私への報奨が足りぬというならば、その分を国への復興に役立ててください」
「なんという…! お主こそ、勇者の中の勇者であろう! 勇者殿がこの国に降臨したこと神に感謝せねばなるまいな」
「あっ……、国王様、最後に一つ宜しいでしょうか?」
「申してみよ」
「これからは、私もこの国『ナツハバラ』の人間として生きていくことになります。そこで、過去と決別するため、新しい名前を宣言したいと思うのです」
「おお、この国の人間としてか……! うむ、認めよう。ここで勇者殿の新しい名前を宣言するが良い。この国王がその名前の見届け人となろう」
俺は立ち上がるとゆっくりと深呼吸をし、胸に秘めていた名前を思い出す。エロゲーを遊び、エロゲショップで働き、『藤林せおり』に出会い、ここに来るまでの生涯を捧げた自分にふさわしい名前をここで宣言する。
「今日から俺は『エロゲ太郎』だ!」
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