エピローグ

 神様が床の間にいる生活は、みなすぐに慣れた。

 神棚の代わりみたいなものだ。なんとも贅沢だなと思う。

 一応でっかい石のご神体に社を被せた。家の中だからいらないかなと思ったが、敬意というものも必要であるらしい。

 タロウは今まで土間から上がってきたことはなかったのだが、神様を運んできたことで一日に一回上がるようになった。ミーと一緒にご神体の前に座っているのを見かける。なにか感じるものがあるのだろうと、叱らないことにした。

 ミーが丸くなっている姿もかわいいしな。(後ろからだとそういう風に見える)

 冬の間にうちの山でイノシシが二頭も獲れた。うちではうまくさばけないからと、湯本さんちにみなで集まって宴会をした。

 他の山でもイノシシやシカが獲れたらしく、その度に呼ばれた。

 冬の間、この辺の家は宴会三昧になるようだ。

 佐野君のところのニワトリがイノシシやシカを狩るのだと聞いて目を疑ったりした。

 この村は本当に不思議と驚きに満ちている。

 相川の山に一度お邪魔して冬眠中だという大蛇を見せてもらった。思わず上げそうになった悲鳴をどうにか飲み込んだ。

 相川はしてやったりという顔をしてた。

 相川が用意したという小屋の中でとぐろを巻いている大蛇を見て、俺はいったいどこに来たんだろうと遠い目をした。

 相川のところの大蛇は山で自力で餌を獲っているというし、桂木さんのところのドラゴン? もシカを捕まえて食べたりするらしい。

 そんな話を聞くと、ついついタロウを見てしまう。

 タロウは少し首を傾げるような仕草をした。以前はこんな仕草はしなかったように思うが、もしかしたらミーの真似か、ミーの首を傾げる仕草が伝染しているのかもしれないと思った。

 タロウはタロウでいい。

 ミーは相変わらず気に食わないことがあると俺をつつく。最近は俺が怒る前に結子が叱ることが多くなった。


「こらっ、ミーちゃん! 海人さんをつついちゃだめでしょ!」


 結子に叱られると「キーアー」と甘えた声を出してご機嫌を取ろうとするが、俺への扱いはひどい。


「カイトー」

「なんだー?」

「カイトー」

「だからなんだよー?」

「ゴハンー、ヨコセー」

「……ミー、その言葉誰に習ったんだ?」


 誰が教えたとも限らないんだけどな。TVとかからでも学ぶし。

 じじいを見たらそっと顔を反らしたから、今回はじじいが原因なのかもしれなかった。

 年末年始は本山さんちにも挨拶に伺ったりした。以前に比べれば、お兄さんは義父の手伝いをするようになったらしい。山の様子も見に行くようになったと聞いてほっとした。

 相変わらず甥っ子には睨まれたが、それはもうしょうがないことだと苦笑した。

 村では何度も雪が降った。新年を迎え、雪は三月末まで降ったが、運転のしかたを教えてもらったりしたせいか、どうにかそれほど休むことなく職場へ出勤し続けることができた。

 山の手入れもできるだけして、結子の甥っ子やその友達を呼んで雪合戦をしたりもした。さすがに雪玉に石を詰めることだけはしないように言った。



 そうして迎えた新年度、俺は新たな職場でお世話になることになった。

 畑野さんが勤めている会社である。畑野さんが勤める会社はS町にあるので、変わらず結子のことは送り届けてから出勤している。(以前よりは早い時間に連れて行っている)

 畑野さんの会社はちょっとした商社だった。そこの事務として働くことになった。資格などを取れば勤める部署の変更も可能だし、給料も変わるらしい。このままうまくやっていければいいと思っている。

 だけど、結子とミーとの時間を取れることが大前提だ。

 デイトレも今のところは調子がいい。

 ずっといい時期が続くなんて保証はないが、桑野の家で、口うるさいじじいや人のいいばあちゃん、妻の結子、オオカミのタロウ、そして俺と結子を結び付けてくれたミーとこれからも暮らしていく。


 今日もみなで平和に楽しく暮らせますように。


 そう床の間に神様に、俺は祈ったのだった。



おしまい。




最後までお読みいただきありがとうございました!

今回もとても楽しく書かせていただきました。お礼申し上げます。


番外編、または、次の物語でお会いしましょう。

本当にありがとうございました!



明日は番外編を更新し、それで完結させる予定です。

よろしくー

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