69.10月を迎えて

 10月になった。昨日で一旦役所を辞めた。11月にはまた復帰の予定だ。その間に俺の仕事が見つかれば俺は復帰しないけど。

 1日に婚姻届を役場に出した。

 めでたいめでたいと役場の人間が喜んでくれた。

 その後、式はやらなかったがうちで食事会はした。

 ケータリングなんてものはこの村にはないが、寿司屋はある。そこで寿司やら刺身やら沢山頼み、料理はばあちゃんを筆頭に、湯本のおばさんと本山の京子さんが準備してくれた。相川もいろいろ作ってきてくれて、とても豪華になった。

 ばあちゃんは相川には台所を貸してもいいと思ったようだ。まぁ、あんなごちそうを見てしまってはな。

 佐野さんも、桂木さんも招いた。ミーは人が多いことが嬉しいのか、「キーア、キーア」と鳴いて本山さんの前でへんなステップを踏んだりしていた。

 相川のところの彼女は顔を出さなかった。そういえば相川のところは大蛇がいるんだよな? 大蛇ってどれぐらいでかいんだ? と聞いたら相川は難しい顔をした。


「長さは……厳密には測ってないけど10mは超えてるかな」

「なんだその化物は」


 素で言ってしまった。相川は笑った。


「そうだよなぁ。確かに化物だよな。でも大事なんだ」

「……すまん」

「いいよ。山越は……と、桑野はそのままでいてくれ。桂木さんのところのタツキさんに挨拶はしたか?」

「ああ、したよ」


 思い出した。そこでも俺はやらかしたのだ。


「すみません、今回うちのタツキを連れてきてしまったんですけど……」


 と紹介されたのは、2m以上もありそうな爬虫類だった。色は濃い灰色である。


「え!? ワニ、じゃないよな? 恐竜かっ!?」

「ええと、一応コモドドラゴンかなって思ってるんですけど、よく言って聞かせるので……」

「ああ、うん。よろしく……」


 俺はタツキさんとやらに頭を下げた。うちのオウムだけは見逃してください。

 佐野さんのところのニワトリも来た。そのニワトリがおもむろにタツキさんをつつき始めた。ちょっ……。


「タマちゃん? タツキと仲良くしてくれてありがとうねー」


 ああ、そういう付き合いなのか。俺がいるのって山間の村だよな? 決してジュラシッ〇パークに迷い込んだとかじゃないよな?

 なんだか気が遠くなりそうだった。

 そして一番の問題は、こんなに巨大生物が普通に闊歩しているのに誰も気にしないってことだろう。

 俺の感覚がおかしいのかと首を傾げた。


「海人さんの感覚が普通だと思います。私たちは慣れてしまっているだけです」


 結子がそう言って苦笑した。


「そうか……」


 ならよかった。俺の感覚がおかしいとか言われたらどうしようかと思ったのだ。

 おかげでそれなりに楽しめたは楽しめたが、すごい村に来たものだと遠い目もした。

 婚姻届を出した日から、結子と同居が始まった。元々母が使っていた部屋なので、二人で暮らすには手狭な印象だ。


「改築するか」


 じじいが今頃になって言い出した。


「改築ってどうすんだよ。そんな金あんのか?」

「俺がいつまでも金だけ持ってたってしょうがねえだろ。葬式代はとっといてあるから心配するな」


 改築するにも時間がかかるということで、廊下を繋げることにして離れみたいなのを簡単に建てることになった。それまでは奥の二部屋を使うことになる。(一部屋は俺が使っている部屋だ)


「全く……もっと早く始めりゃあよかったぜ。まさか海人がこんなにいい嫁を連れてきて、しかも同居してくれるなんて思ってもみなかったしなぁ」


 じじいはそう言って笑った。離れを建てるという話はもちろん結子も交えて話した。


「だけどな、結子さん」


 じじいが言う。


「もし俺らと暮らしたくなかったら出て行ってくれてもかまわない。ただ、俺らが死んだらここに住んでくれねえか?」

「……そんなこと言わないでください。嫌なことがあればはっきり言いますから、ゆっくり暮らしていきましょう」

「介護が必要になったら老人ホームに入れるからな」

「今結子ちゃんがいいことを言ったというのにお前という奴は!」

「そういうことははっきりさせとかないとまずいだろ!」


 結局じじいと言い合いになった。

 そしてばあちゃんにお盆でバンバン叩かれた。じじいも叩かれたから喧嘩両成敗らしい。


「今までは大目に見ていましたけど、結子ちゃんはもう身内なんですから困らせるのは許しませんよ?」


 ばあちゃんににっこり笑ってそう言われ、俺はじじいと共にごめんなさいをした。結子が楽しそうにコロコロ笑った。

 ミーは相変わらずマイペースだ。栗のイガを踏んで鳴いていたりした。


「ミー、それは痛いだろ?」


 もしかしてミーはちょっとおバカなのでは、と思ったりもした。


「キーアアー」


 ミーは誤魔化すように鳴いた。そしてタロウに甘えていたりもする。タロウもかなり大きくなった。まだ成長するのかと一応様子は見ている。

 タロウは穏やかで、俺たちが山の手入れをする時は相変わらず付いてきてくれる。先日スズメバチを見かけた。刺されなくてよかったと思ったが、駆除しないとまずい気がする。でも今月はかなり狂暴になっているだろうから、駆除するとなると業者を頼むべきかと考えたりしている。

 そろそろ南の山も見てきた方がいいだろう。相川にも声をかけた方がいいだろうか。


ーーーーー

そろそろ完結しまー

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