68.写真を撮りにいった
写真撮影には最初二人で行こうかと思ったが、ばあちゃんがどうしても見たい! と言い出した。すると本山のお母さんも行きたいと言う。本山さんちには軽トラ以外の車があり、それで本山さんと京子さんが一緒に行くことになった。
結婚指輪も届いたのでそれを身につけて写真を撮る予定である。俺は紋付き袴とタキシードを着る。結婚式もしないんだから! と本山のお母さんはカラードレスの写真も欲しいと言い出した。なので本山さんが着るのは白無垢、打掛、ウエディングドレスと黄色の淡い色のドレスの四着となった。化粧も髪型も変えるのでほぼ一日がかりである。
写真だけで一日とか。
でも写真も花嫁さんが主役だしな。
友人に言われたことを思い出して我慢した。そういうところでケチると一生言われるらしい。
ちなみに、ミーをじじいだけに預けるのは怖かったので相川に頼んである。相川は自分の彼女以外の女性は苦手らしいが、うちの偏屈じじいみたいなのは嫌ではないそうだ。
そんなわけでうちには今相川とじじいがタロウ、ミーと共に留守番しているのだった。ばあちゃんはそんな、お友達に留守番させるなんてと恐縮していたが、相川の顔を見たら目がハートになった。
「あらあらあらあらまあまあまあまあ!」
「失礼ですが、お留守の間台所を使わせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです! 片付けなくてけっこうですから!」
ばあちゃんは何故か敬語になっていた。相川はあっさりと台所を使う許可を得た。おかしいな、ばあちゃん俺には台所は使わせてくれないんだが。
ま、相川はイケメンだからしょうがねえ。相川はムカつくことに中身までイケメンなのだ。
気を取り直して写真である。俺も少し肌の色を整える為だのなんだの言われて少し化粧をされたが、基本は待ち時間である。本山さんの着替えやらメイクやらを待っている時間は、座ってスマホを見ているぐらいだ。ばあちゃんと京子さんは本山さんに付き添っている。一緒に着物もドレスも選んだのだが、できあがりまで見てはいけないらしい。
待っている間はヒマだったが、こういうものだと割り切った。こんなことならミーでも連れてくればよかった。って迷惑だよな。ドレスとかもつついちまうかもしれないし。やっぱだめだ。
そんなことを考えている間に着付けが終ったらしい。白無垢の彼女はしずしずとやってきた。いつもと違った恰好をした彼女は、なんというか別人にも見えてしまった。
「結子、キレイだ……」
「海人さんも、素敵です……」
「「あらあらあらあらまあまあまあまあ」」
ばあちゃんと京子さんが同じように言う。なんかそれ、やっぱ流行ってんのかな。
正直どの衣裳も彼女には似合っていた。ウエディングドレスはクリーム色のようなものにした。
「純白は恥ずかしいから……」
と本山さんは恥じらっていたが、その恥じらいが純白だろ! と勝手に思っていたりした。どれもかわいいしキレイだったから俺は満足である。
俺にはわからなかったが、ドレスをふんわりさせる為に着るペチコートがかなり重かったらしく、本山さんは帰り疲労困憊になっていた。
「ペチコートが重いのを忘れていました……」
帰りに寄った喫茶店で、彼女がポツリと呟いた。そして京子さんに小突かれていた。
ああそうか、と思った。京子さんに小突かれたのを見たから気づいた。だがそれも本山さんの歩んできた道なのだから、知っておくべきだ。
「女性は衣裳が多いからたいへんだよな」
「そ、そうですね」
「でも写真が無事撮れてよかったよ。写真の出来上がりが一月後だっけ?」
「そう言ってました」
本山さんはほっとしたように答えた。
俺は彼女がいいのだからそれでいいんだ。
「相川さんに悪いから、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな。じゃあ、本山さんまた明日」
「はい、また明日」
明日は日曜日だから、また一日一緒にいられるだろう。今日は疲れているところ悪いが甥っ子の相手をしてほしい。つっても結婚してはい、さようならってわけじゃないから、本山さんが実家に行くこともあるだろうしな。
家に戻ったらごちそうができていた。
「ただいま~、ってなんだこのいい匂い!」
「あらあらあらあらまあまあまあまあ!?」
「ばあちゃん、それはもういいから」
「あ、おかえり。せっかくだから料理をして待たせてもらったんだけど……」
相川がエプロン姿で台所から出てきた。ミーはタロウの上で幸せそうに昼寝している。タロウも安心して寝そべっているようだった。
「えっ!? これお前が作ったのか?」
「うん。俺料理も趣味なんだ。せっかくのお祝いだからと思ったんだが……本山さんは?」
「ちょっと待ってろ!」
どう見ても俺たちだけで食べ切れる量ではなかった。本山さんに電話をし、来てもらうことにした。甥っ子も連れてくるなら連れてきていいと伝えた。
「相川~、すんげーありがたいんだがサプライズはよしてくれよ……」
「言っておけばよかったな」
相川は苦笑した。
「友人の門出だから、祝いたかったんだ」
「……なんていい奴なんだお前は!」
相川は料理の説明だけすると、暗くなる前に帰っていった。俺は本山さんとその甥っ子を迎えに行き、夜は相川が作ったごちそうを食べて舌鼓を打ったのだった。
「相川さんの料理……すごいですね。これは習いたいかも……」
本山さんが難しい顔をしてそんなことを言っていたが、嫉妬深い彼女がいるから無理だろう。
ホント、なんでアイツあんなに中身までイケメンなんだろうなー。
あとでお礼のLINEを送ることにしたのだった。
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